まじょりてぃー

 中世ヨーロッパの魔女狩りが悪い過去として語られていたのももう昔の話である。科学が正義となって久しくなったこの時代、解明不可な超常現象は悪とされ、記録から再び引っ張り出された魔女という存在がその責任を押し付けられた。そしてそう時間が経たないうちに教育にも影響が及んだ。子供大人問わず、気に入らない人を魔女に仕立て、そして迫害を始める。やがて、有力者に気に入られなかった科学すらも魔法とされ、技術発展も停滞をしはじめる。

 とある嫌われものの少女は、科学や研究が大好きだった。容姿を有力者の娘に僻まれた為義務教育すら受けられなかった彼女が、新しく何かしら発見しても、魔法だと決めつけられることは目に見えている。故に彼女は静かに趣味としてそれを続けていた。しかしそんな日々も長くは続かなかった。発展した科学すらも魔法だと決めつける人達に住居すらも奪われてしまった。無力な彼女は仕方なく街を出て、希望もないまま彷徨い歩く。そして、魔法が正義である世の中を渇望した。

 彼女が次に目を覚ました時、その願いは叶えられていた。街中の至るところで誰しもがステッキを振り、空飛ぶ絨毯や箒が店で売られている。どうやら今は橙と桃のチェック柄のものが流行りらしい。通貨を一切所持していなかった彼女だが、幸運にも服屋の女店主に拾われた。そして容姿を活かして服屋のマネキン・ガールという職を得た。日々オシャレな服を魔法で着せられ、道行く人と優しく微笑む。安定という幸せが得られた。

 だがそれすらも長くは続かない。研究者であった彼女は魔法を科学で解明しようというタブーを犯してしまった。彼女はいわゆる思想警察に捕まり、そして「出来損ないの魔女」というレッテルを貼られて再び迫害を受けることになる。遂に彼女はこの世界にも絶望し、そして全ての崩壊を望んだ。

 人々は科学でも魔法でも想定していなかった世界の崩壊という超常現象に恐れを抱き、逃げ惑った。そして集団催眠が解け、自分達の所有していた技術は魔法ではなく科学なのだと漸く気付く。時、既に遅し。自分を匿ってくれた女主人も迫害していた人も皆巻き込んで、本物の“出来損ないの魔女”であった彼女は、世界と共に消滅し、無だけがその場に残った。

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