とらないでください

新吉

第1話

 俺は写真が好きだ。一瞬を切り取りそこにとっておける。写真の中に思い出が詰まっているのだ。だけど俺は写真にとられるのが嫌いだ。綺麗な景色に映り込む気にもなれないし、よっぽど気を許した友人でない限りはとらない。集合写真は別だけれど。


 ここ最近の流行に乗ってSNSもやっている。応援のハートマークが増えることが嬉しくて、俺は以前よりもよく撮るようになった。とはいっても俺より大学時代の数少ない友達の方が持ち前のイケメンパワーでハートが多かった。まあモテていた。そいつも馬鹿じゃない。俺と同じくらい勉強ができて、学生時代はいつも競っていた。

俺にだって彼女はいる。だけどそいつの方が人望があって人から好かれていた。俺と仲良くしてくれたのだって彼が優しいからだ。わかっているがどうしてもSNSで彼の写真を見ていると気分が滅入る。俺のことなんか覚えてないだろう、とすら思う。


 そのうち仕事も忙しい上にうまくいかなくなった。そんな俺を見て彼女も心配してくれた。だが俺の方はますます苛立つ一方だった。


 俺はついに上司から田舎の方へ飛ばされた。はじめのうちは悔しくて見返してやろうと熱心に仕事をしていたが、俺は疲れていった。慣れない環境に人に疲れ果てて、遠距離になった彼女とも別れた。もう真面目に仕事する気も起きなくなっていった。写真もしばらく撮っていなかった。


 そんなある日、気晴らしに散歩に出かけた。どがつくほどではないが田舎町で田園風景が広がる。茶トラニャンコが日向ぼっこをしていた。しゃがんで手を出すと人懐っこくすり寄ってくる。久しぶりに俺はスマホのカメラで撮ろうとした。






 手が震えた






 俺は無我夢中で走っていた。気づいたら黄色と黒の生き物になっていた。カンカンカンと鳴り響く音がして、電車が来ることを告げる。一瞬周りの音も遮断される。その音でやっと俺は止まったことに気づいた。ここはどこの踏切だ?このまま突っ込めばこの体でも死ぬことができるだろうか?そんなことを考えながら過ぎ去るのを待つ。走って走って走って周りが住宅街になっていく、都会に近くなっていた。慌てて引き返そうとしたがもう遅かった。遠巻きやテレビ局、俺を捕まえようとする人もいる。



 俺はたくさんの人からカメラを向けられていた。


 撮らないで

 撮るな

 やめろ

 やめろ

 眩しい

 見るな


 俺を見るな





 俺はまた走り出した。

 その時に捕まえようとした人を爪で傷つけてしまった。俺は本当に獣になってしまった。なぜ?獣になったのなら、頭も全部なくなってしまえばいいのに、まだこんなにいろんなことを考えるんだ?もう訳がわからない。


 どことも知らない街外れの林で俺は息を潜めた。眠れない、眠れるわけがない。そう思いギラギラしていたがいつのまにか眠りについていた。



 朝起きたが体はそのままだった。声を出して見た、なんと人間の言葉が話せた。




「あ、あー!の、喉乾いた」




 川岸で水を飲むがすぐ隠れる。人の声だ、どうやら大勢いるようだ。聞き覚えのある声が聞こえた。彼がいた。友達、だった男だ。





「近くにトラが出たらしいよ、怪我人も出たって」


「こわー!」




 俺だ。


 ゆっくり離れようとしたが音を立ててしまう。近づいて来るのが彼だった、俺は思わず






「来るな!」


「人?大丈夫ですか?」


「大丈夫だから来るなよ」


「その声、もしかして」




 俺なんかを覚えてるのか?





「え、嘘?トラじゃない?本物?」


「いやあああ!!」




 その叫び声で、俺は走ってその場から逃げた。




「〇〇〇〇!!!」




 彼が呼ぶ俺の名前を聞きながら。







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