水琴窟

箔對店主

第1話 静かな 音

赤子が死んだ。

僕の弟。

薔薇の花弁が湖面を舞い、

悲しみの吐息が霧となり

森に垂れ込める…

そんな日に彼は黄泉路へ旅立った。

将来が約束されていた筈の一生涯を、

一片たりとも垣間見れずに。


幼い衝動に駆られ

両手を日に翳す。

血潮はみえず、

只、眩しさに眼が眩み 涙する。

…躰が重い。

死を請われるより辛い境遇に、

吐き気が止まらない。

昼食後の休息の一時…

いつも独で、森に現実逃避をしに来ていた。

湖面に迫り出した折り重なる木陰、

痩身の身を横たえ、嘆息。

耳を擽る柔らかい風に半ば意識を飛ばしながら、

己の鼓動に耳を傾ける。


両親の心中という悲劇に見舞われ

養子’として引き取られた先は

陰陽筋の天才、鬼才を生み出してきた名家だった.

理不尽にも弟の代わりを求められた僕は

役立たずと誹られ、

毎日幾度となく

死の淵に突き落とされた。

毎日虐待紛いの責め苦を受ける。


…僕には力’なんて無いのに。

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