フタコイ

明日葉直希

第1話 プロローグ

「ねぇ、別れてくんない?」


俺の彼女、明日葉未來が突然言ってきた。なんの前触れもなく、ほんとに突然。


「は?何いってんの?ふざけてるならそういう冗談半分な事、この時期に言うな」


そう。俺たちは高校3年、つまり今年は受験の年だ。流石に周りも自分自身もピリピリきていた。


「別にふざけてない。本気で言ってるから」


俺は基本的に怒らない主義なのだが、このときは場合が場合だったため、頭にきて


「んだよ、それ。ふざけんな‼いいよ、別れてやるよ。別にお前が居なくてもいいし、むしろ、邪魔だ」


と心に無いことを言ってしまった。


「………………」


未來は何も言わずにその場を立ち去り、そのまま一度も会わずに受験を迎える事となった。


流石に言い過ぎたと感じた俺は、受験日から1週間前の日に電話を掛けてみた。


「プルルルルル、プルルルルル…………」


出ない。この時間は家にいて、休憩時間のはずなのに。


まさか、あいつ受験やめるとかじゃ??


いやいや、それはないな。なぜなら、あいつから勉強を取ったら、何が出来るんだってやつだから。


それにしても、何が原因だったんだろうか?


構ってもらえなかったから?


それは受験期なんだから、それはお互いに理解しているつもりだった。


それとも、ただ単に耐えられなかったから?


「数学より難しいわ…………」


頭で考えても分からないし、第一あいつ自身しか知らない理由だ。勉強に専念しよう。



こうして、俺はモヤモヤを胸につっかかえながらも勉強を追込み、見事第一志望の慶央大学に合格した。



……あいつと一緒に行こうって決めてた大学。雰囲気が良いとか、大好きな祖父の出身校だからとかも、勿論ある。


でも、やっぱりあいつと、未來と一緒にいたかった。それが強い。


しかし、もう叶わないだろう。


だって、嫌いなやつが行きそうな学校には行きたくないだろうし、「元カレ」と約束した大学は心理的に選択しないだろう。


きっと。


俺は合格後、学校へ行く気にならなかった。


何となくの自己嫌悪に陥るからだ。彼女の方も会いたくはないだろう。


「これからどうしよう……」


そんなことを考えていたとき、


「直哉~。電話鳴ってるよ~」


母の声だ。そういえば、スマホ、下に置きっぱなしだったっけ。


「わかっーた。今行く」


俺は下に降りていき、スマホを取り、電話に出た。


「……もしもし?」


「おおっ、出たな。ちゃんと学校に来いよ。ほら、……あいつも心配してるしよ」


こいつは山本奏太。俺のいわゆる幼なじみってやつだ。奏太は俺とは真反対の性格の持ち主。だからこそ、ずっと一緒にいるのかもしれない。それはともかく、あいつって……?


「あいつって、誰?」


「決まってるじゃんか!未來っち!」


やっぱりな。だと思いましたよ。


「それは嘘だろ?だって、別れたばかりだからな」


「なんでわかったんだ?俺の嘘は見破られたことないのに……」


バーカ。何年友達やってんだ。それに俺が一番心配していることだからな。余計に過敏に反応してしまう。


「んで?他に用は?」


「うわぁ、ひでーぇ。人が心配してるのに、それを蔑ろってあんまりだぜ、直哉。……ったく、まぁいつもそんな感じだかんな、お前は」


「ああ、わりぃ。この性格は直せんもんでな」


もっと相手の感情を考えて話せないのかと自分自身に問いかけたいが……それでも


「なんかあったら、電話してこいよ」


といってくれた。本当に良い奴だ。ありがとう、奏太。


俺はそのあと、学校には卒業式のみ出席し、ダメ人間のような生活を送っていた。一日中ゲームに明け暮れたり、それから受験期に買いだめした小説を読んで、優雅な時間を過ごした。


自分でも不思議なくらい、色んな意味でリフレッシュ出来た気がする。


そして、迎えた大学の入学式。


そこに運命が待ち受けていたことなど、この当時の俺は知るよしもなかった。

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