第9話

「アキぃぃぃ!お腹空いたぁ」

あの後すぐに白石さんは倒れてしまい家まで担いで帰ってきた。

「早くなんか作って~」

起きたと思ったらさっきからこの調子だ。

「今なにか作りますから。ちょっと待ってください」

「んっ」

何だかさっきからやけに白石さんが素直だ。

顔も少し赤いようだし、少し不安になった。

「白石さんちょっと失礼」

「何すんのよぉ」

断りを入れ白石さんの額に触れるとやはり熱があった。

「風邪ですかね。おかゆ作るので白石さんは熱測っておいてください」

「わかったぁ」

とても目新しく可愛いが、何だかとても調子が狂う。

家に1度帰ってくる前に1通り買い出しをしておいたので、問題なくおかゆでも作れそうだ。

(シンプルなおかゆ……いや、ここはリゾット風にでもしてみようかな)

白石さんはよく僕にリクエストする時はシチューやチーズなど乳製品が多く、聞いてはいないが多分かなり好きだろう。

ご飯と牛乳を絡ませ少しチーズを入れることで白石さんに少しでも食べて欲しかった。

「熱測ったよ」

小動物のような仕草で白石さんが近づいて体温計を見せてくれた。

「38度2分……かなり高いですね、もう少しで出来るので身体暖かくしておいてください」

そう言って白石さんが布団を被ってから5分程でリゾットが完成した。

「白石さん、出来ましたよ……寝てるのか」

目の下のクマも化粧でも隠しきれないほどになっていたし、安心して寝てもらえてよかった。


「……んっ、アキ……」

夢の中でも僕が出てきているのだろうか。

「アキ…それペットボトルだから食べちゃダメ」

夢の中の僕に何が起きてるんだ!

「ミキ……それアキじゃない、ペットボトル」

姉さんもかよ!ペットボトルやけに出てくるし

「…アキ……」

さっきよりも落ち着いたトーンで言われ、夢とはいえ少しドキッとしてしまった。

「お腹空いた」

また夢にお呼ばれしたかと思えば、目を覚まして空腹を訴えた。

「今温め直しますから、少し待っててください」

30分程経ち、すっかり冷めてしまったリゾットをレンジで温め白石さんの前に出した。

「どうぞ食べてください」

するとスプーンを持ちリゾットをすくったと思えばスプーンを置いた。

「……熱いから食べさせて」

「レンジで温めたからそこまで熱いことはないんじゃ……」

「熱いの!食べさせて!」

最初はちょっと可愛かったが、だんだんと疲れてきた。

「分かりましたよ」

スプーンを持ち何度か息を吹きかけ冷ますと、白石さんの口元にスプーンを差し出した。

「………」

「早く食べてくださいよ」

今にでも恥ずかしくて死にそうなのに白石さんは、なかなか食事に手をつけようとしない。

「あーんって言って」

この人の考えていることがイマイチ分からくなってきた。

「分かりました。……あ、あーん」

白石さんが口を開け、綺麗にスプーンの中のリゾットを食べた。

「美味しぃ」

そう言って、再びあーんを要求されしばらく食べさせていると、リゾットは綺麗に食べ終わった。

「食べ終わったら、お風呂入ってきてください。僕は片付けして白石さんの会社に電話しておきます」

白石さんは素直に従い、お風呂へとすぐ行ってしまった。

「……もしもし」

「その声はアキくんね。名刺渡してこんなに早く電話してくるなんて、どうしたの?」

白石さんの先輩の東先輩に電話をかけた。

会社に行った時に名刺を渡されたのが役に立った。

「白石さんなんですが、熱がかなりあって明日病院に行こうと思うので休ませてもらっていいですか?」

「上司だったら、ダメって言ったでしょうけど、問題ないわ。白石の仕事くらいやっておくから」

「でも東さんも仕事たくさん抱えてるんじゃ」

「アキくん、先輩ってのはね大事な後輩のためだったらちょっとくらい無理が出来るんだよ」

「白石さんにいい先輩がいてよかったです」

「アキくんもいつか分かるよ。上司には上手いこと説明しとくから、お大事に」

電話を切ると白石さんがバスルームから出てきた。

ベッドに行かせすぐ眠るように言った。

「それじゃあ白石さん、おやすみなさい」

すると部屋を出ようとする僕の右腕を白石さんが掴んできた。

「……1人にしないで」

やっぱり風邪の時は可愛いかもしれない。

「寝るまでいますよ」

すぐに眠るかと思ったが白石さんは僕の手を握ったまま僕と反対側を向いてしまった。

こんなことになりまだしっかりと白石さんとは会話できてはいないが、これもまたいいのかもしれない。



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