喋るホウキと魔法のレース 

螺子巻ぐるり

喋る箒と魔法のレース

あるホウキ職人の回想

「おい! 今度のレース、オレ様のホウキを使わないとはどういうことだ!?」


 その知らせが来たのは、ついさっきの事だ。

 一週間後に迫った箒レースで、親友がオレの箒を使わないと選択した。

 だがそんなこと、このオレに信じられるハズも無かった。

「分かっているのか!? オレ様の箒が一番速い。優勝するなら当然オレ様の箒を使うべきだろうに!?」

 代わりに使うのは誰の箒だ? 問うてみれば、そいつはオレとは比べものにならないヘボ職人だ。

「あの程度の速度で満足しているアホタレの箒が、このオレ様の箒より優れているわけがない。……なぁおい、どうしてそんな選択をした?」

 オレには分からなかった。勝ちを捨てているとしか思えなかった。

 けれど同時に。親友がそんなことを望むわけがないということも、分かっていた。


「答えろ。速い箒を作れと言ったのはキサマだ。最高の箒を、オレ様なら作れると言ったのもキサマだ。そして事実、オレ様は最速の箒を作っている」


 だのに、何故キサマは喜んではくれないんだ?


 オレの問いに、親友は少し言いよどんでから、答えた。


 ――お前の箒は、なんのためにある?


 意味が分からなかった。そんなもの、速さの為に決まっている。

 答えると、そうだろうな、と親友はうなづいた。


 ――だが、それだけでは無意味なのだ。お前ならもっと……


「無意味だと? 速さをきわめることの何が無意味だ!」

 話にならなかった。こいつは頭がどうかしてしまったのだとしか思えなかった。

 あるいは……そう。まだオレ様の箒が、、だ。


「ならば作ってやる! 貴様が使わなかったことを後悔するような、この世で最も速い箒を、だ……!」


 オレ様にそれが出来ないはずがない。

 誰よりも速く。何よりも速く。

 オレ様がこの世で最も優れた箒職人だと、証明してやるのだ。


 そのためになら、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る