ナイトレイト
ブリしゃぶ
ナイトレイト
――
という、人のことをご存知だろうか。
では、分かりやすい例えとして――吸血鬼――を挙げさせて頂こう。
吸血鬼には様々な特徴、弱点が存在するが、その一つ……『日の光に弱い』というのはこの夜人の性質から反映されたものである。
いうなれば、吸血鬼のモデルとなった。といっても過言ではないだろう。
夜人は、日中は最低限度の日常生活を送るだけで精一杯なのだが、夜になると、まさに昼夜逆転したように活発的になる。その際、人が無意識に押さえ込んでしまっているという能力や活動限界、一般的にそれを三割しか使っていないとすると、夜人は七割近く引き出すことが出来る。
夜人は基本、夜になると強制的に能力を引き出してしまう。その力を無意識、または故意に振舞ってしまうため、現代の社会では夜に起きる事件数が多く、彼らは無常にも迫害に近い扱いをされてしまうのだ。
……そのせいで俺、
ふぁああ~、俺はただ、眠いだけなのに……。
――深夜一時。
『――ピッ――ピピッ――ガガッ――』
「…………こちらカードネーム【キング】」
『――こちら司令部。キング、聞こえてるな。状況はどうだ』
「……ちっ……今日もかよ……ああ、聞こえてる。現在対象をマーク中。いつでも動ける。……それよりも、リナさんは今日も非番なの」
『――そうだ。頼むからその程度でやる気を無くさないで欲しい』
「かったる。お願いだからリナさんを俺の専属オペレーターにしてくださいよ。そしたらもっとやる気出してやるからさ」
『――そう無理を言わないで欲しい。リナさんだって――』
「対象が動いた。こっちも仕掛けるぞ」
『――了解だ。【クイーン】をそちらに向かわせる。二人で対象を――排除しろ』
「悪いが、クイーンが来る前に終わってるよ。なんせ俺様、キングだからな」
『……ろ! 起きろ! 荒海!』
――ぱぁん!
……ってえ……。
頭を、おそらくは教科書を丸めて叩かれた俺は心地よい夢から覚める。
「またしても貴様というヤツは、始まって五分も経ってないのに堂々と居眠りなどしおって。それほどまでに私の授業はつまらないかね? ええ?」
「ふぁああ~……。いや、ね、先生。俺ってばただ眠いだけなんですよ。毎回出される課題だってやってきてるじゃないですか。だから……ふぁああ~、ちょっとだけ寝かせて下さい……」
「そういう問題ではないのだ。……確かにお前は課題だけはいつも完璧に仕上げてくる。出来ないとわかってて出した上級生問題もだ。しかし――!?」
「すぅーっ……すぅーっ……」
静寂する教室に玲斗のすこやかで心地よさげな寝息が聞こえてくる。
「……あ~ら~み~!」
ピキピキとこめかみ辺りを鳴らしながら、教師は再び持っていた教科書を丸め――。
――ぱぁん!
またしても俺の頭部を引っ叩いた。
「だいたい、修学旅行とか普通に行ってて何も問題起こしてないんだから俺が夜人じゃないってわかるだろ普通に。なんなんだよあいつ等の態度」
先程の数学の授業の後の体育のサッカーで盛大にズッコケた俺は、保健室で治療してもらいつつ、昼休みをベッドの上で過ごす。
ここは、俺の数少ない居場所の一つで弁当も食えて(本当はダメだけど)、ふかふかのベッドで眠ることが出来る。これほどまでに俺のために完成された空間はないだろう。しかも、カーテンでベッドを覆えば、外部との干渉も遮断することも出来る――。
――シャアアア。
――がしかし、このように俺不可侵条約を容易く侵害できる猛者がいる。
「荒海く~ん。そろそろお昼休み終わるよ~。授業はマジメに出ないとダメだよ~」
そう、保健の先生だ。
彼女こそがこの聖域、保健室のベッドを含む保健室全てを統べる者。
優しく、しかもうちの学校の保健の先生は、そこそこ可愛い。よくあるエロ本とかに出てくるとまではいかないも、普通に見れば可愛いの部類に入るであろう。
「……ふぁああ~……。いや、ひーちゃん。申し訳ないが俺は授業に行くことは出来ないんだ。これには深い事情があって――」
「はいはい。いつもの仮病でしょ。ほら起きて。授業行きなさ~い」
「待って! ホントあと一コマだけ! そしたら(ばさっ)あー俺の癒しのふかふかオフトゥンがー! あああっ! (どかっ!)」
俺はベッドから豪快に転落。それを目の当たりにしても、保険の先生ことひーちゃんは対応を変えることはなく。
「ほら、なにやってるのよ。さあ、ベッドから出たなら保健室からも出ること。いいわね」
こ、この鬼め……。
ここで俺がベッドから落ちたせいで怪我をしたと仮病を訴えても聞いてはくれないだろう。
「あーもう。わかりましたよ。行けばいいんでしょ。行けば。ったく、こんな幼気の無い怪我人の生徒を無理やり保健室から追い出すんだ。せめてパンツくらい見せてくれたっていいと思うんだ――あだっ!」
「なにバカなこと言ってるの。そんなエッチなこと考えられるのは元気な証拠。ほらいったいった」
「ちぇえー。ひーちゃんのケチ。いいじゃねぇかよ、別に減るもんじゃあるめぇし。……ふぁああ~。んじゃ行きますよ。お世話になりやした~」
「はい。いってらっしゃい。……それと、寄り道したらダメだからね。特に屋上階段とか。次の授業の先生には荒海くんは教室に向かいましたって連絡してあるんだからね~」
な、なんで俺の行先バレてんだよ!? エスパーかよひーちゃん……。
ということで、エスパーに次の行動を封じられた俺はしぶしぶ教室に戻り――深い眠りについた。
――深夜十一時。
「ちょっと、な~に黄昏てんのよ玲斗」
ビルの屋上の淵に座り込む少年――玲斗の背後に突如現れた少女はからかうように話しかけてくる。
「……別に黄昏てなんかない。てか任務中に本名で呼ぶなバカ」
俺は顔だけを話しかけてきた少女に向け、座ったまま答える。
「バカぁ? あんたそれが年上の先輩に対する態度か、ああ?」
「……はぁ~っ。はいはい、さーせんした【クイーン】パイセン」
「あんたここまで恐れずに人をバカに出来るのは、ある意味尊敬するわ」
「もっと尊敬していいんだぜ、
「って、あんたもなにあたしのこと本名で呼んでんだよ! しかもアタシあんたより二つも年上なんだから敬語使いなさいっていつも言ってるわよね?」
「だってお前チビだし胸ペッタンコだしどう見ても小が――おい胸ぐら掴むな。服伸びるだろ!」
俺を軽々と持ち上げて千花はキレだす。
「うっさいバカ! アタシは小学生なんかじゃない! それに……む、胸はそのうちおっきくなるもん。……だからあんたをその生贄にする」
はぁ? なんでいきなりナイフ出てきてんの? どこに隠し持ってたんだよ? まじヤベェだろこの女。
『――ピッ――ピピッ――ガガッ――』
「ちょ、タイム。通信入った。…………こちらカードネーム【キング】」
『――こちら司令部。キング、それからクイーン聞こえてますか』
「お、リナさん! 久しぶりですね」
俺は胸ぐらを掴む手を無理やりひっぺ返し、綺麗な弧を描きながら跳躍をして千花から距離をとる。
『――お久しぶりね、キング。隊長から聞いたわ。私がいなくて寂しかったんだってね。ごねんなさいね』
「何言ってるんですか。こうして今日、リナさんの美しい声を聞いて仕事が出来るんだ。速攻で片づけるんで、この後俺とお食事でも――」
『――おい、キング。任務中だぞ。私語は慎め』
「あ? ……おっさん!? てめぇ、なに俺とリナさんだけの通信に割り込んできてんだよ!」
「いや、この会話アタシにも聞こえてんだけど」
『――バカを言ってないで状況を報告してくれ』
「……ちっ……あーっと、対象が動いたんでこれから潰します」
――ひゅっ。
「ちょっ……はああ――っ!? こちらクイーン。キングが単独で対象の追跡を開始。てかアイツ普通に二十階建てのビルの屋上から飛び降りてんですけど……アタシもこれより――」
「――あーあー、クイーン……いいから。こいつは俺がやる」
「はああ? 何言ってんのよ! 敵は武装してるって情報も入ってるのよ! それに今回は物の押収も任務に入ってんの! 勝手なことして失敗したらどうすんのよ!」
『――そうだ、キング。今回は慎重に臨めと言ったはずだ。物の奪取は必ず果たさねばならん。だからこうしてツーマンセルにしたのだぞ』
「いや問題ねぇっすよ。だって俺にはエンジェルボイスことリナさんのオペレートがあるんすから。十分なツーマンセルだよ――」
俺は対象の走らせる車の前五メートル程前に華麗な着地を決め、腰にぶら下げた棒――コンパクトソード――を展開し車を待ち構える。そして――。
――ジャキィィイイイイイイイイイイン!
突っ込んできた車を縦に一刀両断。半分となった車はバランスがとれず左右に流れ壁にぶつかり、盛大に爆散していった。
「ぐぅ……っ。き、きさま何者だ!」
車に乗っていた三人は何とか脱出したようで、俺に銃や刃物を向け構える。
「悪いね、おっさんたち。俺このケースに用があるのよ」
俺は車を真っ二つにした際助手席の男が抱えていたケースも奪い盗っていた。
「そいつを返せ!それはガキが持ってていいもんじゃねえ!」
「返さねえって言うなら――」
「なに? 俺を、殺すの?」
「――ッ!? そ、そうだ。死にたくなかったらそいつをよこせ」
「無理だよ、おっさん達に俺は殺せない」
「何を強がってやがる。俺達は……夜人なんだぜ。それに三対一だ。いい加減降参しやがれ!」
タッ……タッ……タッ…………。
「……数は勝利の条件に入らない」
「く、くるな!」
バァン! ――ヒュッ。
「……どこねらってんだ」
放たれた銃弾は、俺の左こめかみ二十センチ横を通過した。
「ちっ……このおおおおおお!」
「うっ、うわああああああ!」
バァン! バァン! バァン!
ダダダダダダダダダッ……!
ハンドガン、マシンガンを乱射してくるが、一撃も俺に当てることは――いや、当たることがあるわけがない。
なぜなら、俺には弾丸の行先が視えるからだ。
数撃ちゃ当たる、なんて言うが、避けれる弾にどうして当たらにゃいかんのだ。
俺は、最小限の動きで当たるはずだった弾だけを避ける。モーションが小さいため、敵には俺がただ真っ直ぐ歩いて弾丸の雨の中を歩いているように見えているだろう。
これは相手にとって精神的に追い詰めることも出来る、言わば戦術と言ってもいい。
そして、こんな技も――。
――ガギィィイイイイイン!
銃弾を真っ二つに斬る。――あえて銃弾の正面に行き、コンパクトソードを垂直に構える。あとは構えたところに銃弾が飛んでくれば、綺麗に割けるというわけだ。
一通り銃声が止んだところで、俺は歩みを止める。
「あんたらまともに使えないならそんな玩具、形振り構わずぶっ放してんじゃねえよ」
俺は懐に手を入れ――暗闇に溶け込む漆黒の銃――を取り出す。
「俺が手本を見せてやる。まあ――」
バァン! バァン!
「――二度と使うことはないだろうけどね」
俺が撃った二発の銃弾は、敵のハンドガンとマシンガンの銃口に綺麗に収まり、内側から破壊した。
「さて、おっさん達。お遊びは終わりだ。俺はあんたらをブタ箱に連れてく義理もないんでな……サイナラ――」
『……さい! いい加減起きなさい! 荒海君!』
……んぁ……?
思い切り揺すられたため俺は、またしても心地よい夢から覚める。
回復しつつある意識の中、俺を笑う男子生徒。呆れた顔で俺を見るクラス委員長。ひそひそと、おそらく悪口を言ってるであろう女子生徒二人。俺と視線が合った途端、べえーと舌を出してあからさまにバカにしてくるいわば幼馴染の女子、といつもと変わらない教室だと認識する。
今はおそらく現国(現代国語)の授業中なのだろう。普段は俺が寝ていても無視をしていた先生が、遂に我慢の限界に達したようで俺に怒りをぶつけてくる。
「いつもは見逃していましたが、さすがにこれ以上は教師として見過ごせません。荒海君、今題材にしている九十七ページ、第二段落から音読して下さい」
「ふぁああ~……。え……? ここからっすかねぇ~。……えぇ~っと……」
「荒海君、なんで座ったまま読もうとしてるのですか?こういう時は席を立って音読して下さい。そうすれば少しは眠気も覚めるでしょう」
「……ふぁああ~……。は~い」
がららっ、とイスをさげ立ち上がる。猫背でふらふらとする俺の姿勢に対するお叱りが無いことを確認し、音読を再開しようと試みる。
「……ん~と……っ? ん……? せんせ~これ、読めないんすけど~」
そう言った途端、クラス中からくすくすと細やかな笑い声が上がる。
ピキピキという音を三日前にも聞いたような気がするが、思い出せず、なんか歯に食べかすが挟まってもどかしい時の様な気持ちになって自分の記憶を掘り返そうと奮闘していると――。
「……もういいです。これ以上はマジメに勉強したいクラスのみなさんの迷惑になります。荒海君、どうぞ座ってください。あとで課題をお渡しします。それを放課後取り組み、出来たら職員室に持って来て下さい。期限は今日中です。それとこの授業態度は保護者様に報告させて頂きます。よろしいですね」
「……別に課題もやりますし、授業態度報告するのもいいすけど……俺、親いないんで」
俺のこの非常識な発言にクラス中に静寂が生まれる。
さっきまで俺に怒りを露わにしていた先生ですら自分が失言をしてしまったという様に顔を青ざめて黙り込む。
この気まずい状況を作り出してしまったことに、俺もさすがに申し訳なくなり謝罪をする。
「……すいませんでした。課題は後で取りに行きます。授業を続けて下さい」
こうして、その後も異様に静かな教室で授業は淡々と進んでいった。
――放課後、午後六時。
ここは帰宅したり部活に行ったりと誰もいない教室。俺は、ただ窓から景色を眺め、日が暮れるのを待っていた。課題は――白紙のままで。授業中と同じようにいかにもやる気もなく、焦点の定まらない目で何処をとなくただただ黄昏ている。すると――。
がらがら、と教室の後ろの扉が開く。
「玲斗、アンタまだいたんだ。課題はやったの?」
困ったヤツが来たもんだ。
大体考えても見てくれ。夜人と勘違いされ、授業……いや生活態度最悪で忌み嫌われる俺に話しかけてくるなんて、一歩間違えれば話しかけたヤツだって嫌われてしまう可能性もあるんだ。
それを考えればこの学校で俺に話しかけれるヤツなんて、よっぽどの変人か教師くらいだろう。
……あと一人、この幼馴染――
さっき話題に出たように、俺には両親がいない。いつからいないのか、覚えていない。
だから隣に住んでる真歩の両親がなんだかんだ面倒を見てくれている。
生活費は……ツテがあって自分で用意出来てる。
なのでそれ以外の料理や洗濯など家事の面でだいぶ世話になってる。
その家の子って理由から子供の頃からよく遊んだり、つるんだりしてる。
真歩ん家の家族は俺のことも家族同様に扱ってくれる心優しい家族だ。ただ、お年頃なのか、最近どうも真歩が冷たいように感じる。
まあこうしてなんだかんだ言っても話しかけたり、たまに夕飯誘ってくれたりもするから気にはしてないが。
「……見りゃわかんだろ、ほれ」
俺は白紙の課題を見せびらかす。
「……はぁ……アンタそんなんでよく学校通ってるね。逆に凄いと思うよ」
「そんな褒めんなって」
「いや……誰も褒めてないから。どんだけポジティブなのよ」
「いいだろ別に。普段ネガティブな分こういう時くらいポジティブに生きてぇお年頃なんだよ。確かに俺はボッチで寝てばっかの陰キャラだけど、それでも前を向いてそれなりに楽しく歩いてんだよ」
「自分がそういうキャラだってこと自覚してたんだ……ふふふっ」
「おいおい、何がおかしいんだよ」
「い、いや……アンタのことだからなんも分かってないと思ってたら清々しいほどに開き直ってるから……キモッって……あははははっ」
「ったく、下品な笑い方しやがって。相変わらず可愛げのねぇヤツだな。てか、お前今日部活はよ?」
「ははは……っ。う、うっさい、デリカシー無さ男。さっき部活は終わって忘れ物取りに来たの。ねぇ、たまには一緒に帰ろうよ」
「いいけど、俺まだ課題終わってないんだけど」
「じゃあ、待ってるから早く終わらせて。じゃないと……殴るよ」
「なんで一緒に帰る帰らないで暴力沙汰に発展させんだよ。……ああ、わかったわかった。すぐ終わらせるからちょっと待ってろ。てか、汗くせーからシャワーでも浴びてこいよ」
「んな……っ……すんすん……って、アタシさっきシャワーしたし! アンタさっきからだけど、どんだけデリカシー無いのよ。それが年頃の女の子に言うセリフか!」
「年頃の女の子はすぐ殴るよ、とか言わないと思うけど」
「うっさい、バカ! わかったわよ。一回部室戻って下駄箱前で待ってるから。早く来なさいよね!」
「はいよ~。わかったからさっさと行け。ほら」
俺が手でシッシと追い払うと、真歩も負けじとベーッと舌を出して抵抗してくる。そういう可愛げのある仕草するんだらもう少し女の子らしくすりゃあ良いのにと、俺は口に出した途端叶わなくなる密かな願いに近い思いを心の中で自分に言い聞かせる。
真歩が教室を後にし、玲斗以外誰もいなくなり、静寂が帰省してきた教室。
「……ふーっ。さて、ようやく手を付けれるよ。……さあ、やりますか――」
それから程無くして――真歩は、部室から二年生が使う下駄箱までの道を顔を上げて歩く。すると、急に驚いたと思ったら駆け足で、待ち合わせ場所である下駄箱へと向かう。
「嘘っ……なんで……」
何故、真歩が顔を上げて歩いていたのか。何故、急に慌てて走り出したのか。
答えは――。
真歩の歩いていた道からは、さっきまで幼馴染である玲斗と話していた、彼が課題をやっているはずの教室が見える。
そして、その教室が既に真っ暗になっていたからである。
つまり、真歩が部室に戻った間に玲斗は課題を終え、教室を出ていったのだ。待たされると思ってた相手を自分が待たせてしまうと思ったら急に焦ってしまい、今はこうして走っている。
真歩はそれから直ぐに待ち合わせ場所に着いた。
辺りを見渡し、待つ人を探す――しかし、誰もいない。
おかしい。電気が消えているからすでに待っているものだとばかり思っていた。
しかしその予想は覆される。
たんっ……たんっ……と階段をゆっくり降りてくる足音。恐らくはそうだろうと思いつつも、一応は公共の場のため少々身構えるも、階段から降りてきたのは、予想通りの待ち人――玲斗であった。
「ん? んでそんな疲れてんだ? てか、また汗かいてんのかよ。くせーくせー。」
「あ、アンタが教室の電気消えてたから待ってんのかと思って走ってきたのよ! てか臭くないし! ほんっとデリカシー無さ男!」
「職員室に課題提出しに行ってたんだよ。そんな早く来れるかっての。瞬間移動使える訳じゃあるめぇし」
「て、てかアンタそんなに早く課題出来るなら最初からやりなさいよ!」
「なんかさ~気分……的な。夕日に黄昏ながらやる課題ってのがこれまた一興なのよ――ってあだっ!」
ふんっと俺の脳天にげんこつを入れてくる真歩。ホントこいつ女かよ……
「なにかっこつけたこと言ってんのよ。まあいいわ。早く帰りましょ。今日はお母さんがアンタの分のご飯も作るって言ってから家に来なさいよね。わかった?」
「いや、それ俺に決定権無いじゃん。まあ、ご飯頂けるのは有難いから、寄らせてもらうよ。サンキューな」
「ど、どういたしまして……ほ、ほらさっさと靴履き替えて行くよ」
そうやって急かされながら俺は上履きから靴に履き替え、先を行く真歩に追いつくと、二人並んで帰路につく。
ちなみに、俺たち別に浮いた話しとかそういう関係でもないので。ただの幼馴染だし、暴力女にはウンザリしてるので。
自分ひとりで歩くのと二人で歩くのとではやはり違うものなんだなと思う。俺はけっこう歩くのが速い方だと思ってるので、いつもならもっと進んでるなーとか考える。だが別に早く帰りたいとかそう思ってるわけではないので悪い気はしていない。寧ろこうして二人で他愛も無い話しをしながら帰るということが、なんとなく懐かしく心地良い様な気さえしてる。だからペースを真歩に合わせるという事だけ注意すれば何も問題は無い。
「……ねえ、ちょっと聞いてるの?」
「……え? あー、わり、何だっけ?」
「もーだから、隣のクラスの…………」
そんな感じで二人でお喋りしながら歩いていると、辺りは良い具合に暗くなってきた。家に着くまではこのペースだとまだ二十分くらいかかりそうだ。
時間は……げっ、七時三十二分……早くしないと真歩の母ちゃんに何故か俺がキレられる。
「……でね、うちのクラスの――」
「なあ、おい真歩。そろそろ早く帰んねぇとお前の母ちゃん、怒るぞ、きっと」
「え? お母さん別に怒らないと思うけど」
「いや……なんでもない」
怒るのは俺に対してなんだよなぁ……。
「と、とにかくこんなに夜遅いと、ほら何かと物騒だし――」
『そうだな、夜人に襲われるかもしれねぇもんなあ~』
「――ッ!?」
気が付かなかった。自分たちの前にこれほどまでに絵に描いた様な不良達が三人もいたなんて。
一人はドレッドヘアーが特徴的で背丈は俺と同じくらい。俺が170センチちょいだからそれくらいだろう。
もう一人は金髪で背丈は俺より幾分も高いが猫背なので身長差をあまり感じない。
そして最後の一人。ニットを被り、その手には今は隠れているが、現れれば銀色の光沢が光るであろう凶器――バタフライナイフ――が握られていた。さすがに使うことはないだろうと浅はかな推理をするも、俺達を脅すのには十分な材料になる。
「な、なんすかアンタら」
「おいおいにぃちゃん、口のきき方には気を付けな。俺達はお前達のためにこうして話しかけてやってんだからよぉ~」
「そうだぜ、なんせこんな暗くなってきたらいつアイツらが襲ってくるかわからねぇもんなぁ~」
「だから、俺達にちょ~っとついて来てもらおうかな。お二人さん」
どうやら拒否権はないらしい。俺は半歩後ろにいる真歩に目をやる。真歩も脅えてはいるが、どうにか頷き俺の意図を汲み取ってくれる。
「……わかったよ」
とりあえず、金を盗られるのと多少なり痛めつけられることを自分の中で納得させつつ俺と真歩は不良達に連れられていく。
ああ、こりゃ真歩の母ちゃんにキレられるの確定だな~。
それから俺達は不良達に半ば連行され、人気の全く無い路地裏にある一間くらいのスペースへと連れてこられた。
さて、こういうとき自分から折れた方がいいのかな?それとも要求をはいはいと飲んだ方がいいのかな?
などと考えていると、ニットを被った男が第一声を上げる。
「さてと、そいじゃまず、おいそこのガキ――」
ほれきた。んじゃ先にこっちから折れますか。
「わかりましたよ。とりあえず、有り金はここに全部出します。それと、申し訳ないんすけど、こいつだけは帰してもらっていいすかね?代わりに、俺のこと殴る蹴る好き勝手してくれていいんで。これで勘弁してもらえないすか」
俺は財布から小銭やら札を適当に地面にばら撒く。そして財布の口を地面に向け、何度かシェイクする。財布の中は空っぽだよという意思表示だ。もちろんカード類は事前に抜いてある。
「ちょ、ちょっと玲斗、アンタ正気なの?」
「んまあ、俺はこういうの慣れてるから平気。それよりもお前にもしもの事があった時の方がお前の両親に俺何されるかわかんねぇし。そっちの方がよっぽど恐ぇよ」
途中から顔を真歩に近づけ、不良達に聞こえぬよう小声で話す。こういうことは襲う相手に聞こえるとまたややこしい事になるのがわかってる。
「だから、真歩は離れてな。てか、お三方。よろしく頼みますよ。金渡してサンドバックになるんすから、約束守ってくだせぇよ」
金髪の男が地面に落ちてる金を拾う最中、俺は心の中でこれから自分の身に降りかかる痛みの雨に耐える決意を固める。そして金を拾い終えると――時が来たようだ。ドレッドヘアーの男が俺に近づいてくる。
「じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ! おらっ!」
「うぐっ!」
渾身の右スイングが俺の左頬を捉える。いてぇ……。
「けっこう強いっすね……出来ればなんすけど、やるなら服で隠れるところにしてもらっていいすかね? 傷見られると後で馬鹿にされるんで」
俺は熱を帯び、ズキズキと痛む左頬を押さえながら懇願してみる。
「そうかい、ならこれでどうだ!」
「ぶふぉ!」
今度は腹、それもみぞおちを確実に狙ってきた。痛みに腹を抱え身を丸めると、続けざまに右回し蹴りが飛んでくる。なんとか左腕で受けるも、威力に耐えれず、地面に倒れこむ。
いやぁ~……ボコられるのは慣れてたつもりだったんだけど、やっぱ痛ぇなぁ~……。
その後もどれくらい殴られ、蹴られたかわかんねぇけど、ひとまず止んだって事は、満足していただけたのかなぁ、と。
「さて、だいぶ気分良くなってきたな」
そうかそうか、それは良かった。じゃあさっさとお引き取り願いたいものだ。
「てな訳で、なあそこの嬢ちゃん、ちょっと付き合ってもらおうかね?」
おいおい、話しが違ぇぞ。ったくこれだから不良は信用ならねぇ。
「い、いや! あなた達さっき玲斗と約束してたじゃない。ちゃんと守りなさいよ! 男でしょ!」
「おうおう、強気な女ってのも悪くねぇなぁ。ほれ、そこのボロ雑巾君が俺達と遊ぶ金くれたんだ。使わないともったいないだろ。いいからこいっ!」
「やだ…・・・っ、誰か、誰か助けて……玲斗ーっ!」
――ガシッ!
「え……?」
「な……っ、なにしやがるガキ」
「……何その汚ねぇ手で真歩に触ろうとしてんだ、下種が」
俺は真歩に迫っていたニット男の腕を掴む手に力を入れる。
「あ……っ……い、痛っ……痛ぇえええ……ぐぁあああ」
腕を掴んだまま、俺は真歩を隠すように不良達の前に立つ。彼らに背を向け、恐怖で怯える幼馴染に向き合い優しく語りかける。
「真歩、もう大丈夫だから。もう恐い思いしなくていいから。だから、二つお願い聞いてくれるか? ……俺がこれを――イヤホンを取るまで絶対に目を開けるなよ。それから……確かお前この曲、好きだったよな。ちょっと音大きくて耳痛くなるかもしれないけど、我慢してくれ」
空いてる左手で方耳ずつイヤホンを付けてあげて、音楽プレイヤーを制服のポケットに落とし込む。
そうして俺は、掴んでいたニットの男を仲間の二人目掛けて思い切り投げ飛ばす。再び真歩に向き直った背後では、ドガッ、と三人が仲良くぶつかって地面に倒れこんだであろう音がした。
「ほら、目を閉じて。……そう。良い娘だ……もう聞こえてないと思うけど、二つ目のお願いな――」
――真歩の額に俺の唇を重ねる。
柔らかいおでこの感触と、鼻先から伝わるどこか爽やかな柑橘系の香り。一瞬。ほんの一瞬だったのだが、それが俺には何時間にも感じさせるぎこちない感覚。それらを堪能した俺は、今の一連の事で顔を赤らめる真歩に背を向け、ひとり言の様に、それでも後ろの少女に届けるように一言、呟く。
「お前を……守らせてくれ」
不良達三人が立ち上がった頃合いを見て、力強い鋭い眼光で彼等を睨みつける。色を変貌させたその瞳で。すると――。
「お、おい……まさか、こいつ……」
「……ああ……間違いねぇ……あの黄金色の目は……」
「よ……夜人……」
小動物だと思ってたガキがまさかの最悪の敵であった事実に、さっきまでとは180度態度が変わり急に怖気づいた三人が歯切れ悪く語る。そんな不良どもを蔑んだ目で見降しながら俺は答える。
「……そうだよ、チンピラ三兄弟。俺様は泣く子も黙る夜人様だ」
「バカな……あ、ありえねえ。だって、お前さっきまで俺達にボコられてたじゃねえかよ」
「そ、そうだ。それにさっきまでその目の色じゃなっかったはず……」
「……ああ、そうだよ。だってな、俺は……今、夜人になったんだからよ」
「はあぁ? 夜人ってのは夜になると勝手になるんじゃねえのかよ」
「俺は特別なんだよ。――はあぁ~……っ。冥土の土産に教えてやるよ。俺はなぁ、自分の意志で夜人になることも、力をコントロールすることも出来る。言わばレアキャラなんだよ。まあ、夜限定なんだけどな」
「そ、そんなのわかるわけねぇじゃねえかよ!」
「てかお前夜人ってこと隠して生きてんのかよ!」
「だったら俺らがチクっちまえば、お前のあま~い平穏な日常は終わりってことか! こりゃあ傑作だぜ! ははははははは…………っ!」
急にさっきまでの強きを取り戻した不良達に対し、哀れになったような思いで俺は続ける。
「はあぁ~っ。まだわかってねぇみてぇだなぁ……いいか猿脳共、俺は別に、てめぇらにボコられて終わったってよかったんだ。それをわざわざ夜人になって社会的、戦術的弱点までこうしてぺらぺらと喋ってんだ。なんでか?まだわかんねぇか? 俺はさっき答え言ったぜ。……冥土の土産ってな。……つまり……お前ら三人、ここで死ぬんだよ。今、ここでな――」
――ゴキッ! グシャッ!
ニットを被った男が右を向くと、そこには夜人となった玲斗と――ドレッドヘアーの男が首を270度捻られ千切れかけた皮膚から赤い飛沫を幾つも上げて崩れ落ちる姿があった。
「――っ!?」
「ひ、ひぃいいや――アガッ!」
「……喚くな。せっかくお前らが用意してくれたこの人気のない場所に、自分らが見事に敗北する様を見てもらうための観客を呼ぶ気か?」
そう言い終わると、玲斗は金髪の男の口に勢いよく突っ込み――顔の反対まで貫通した右手を、左手で顔面を握り潰しながら無理やり雑に、引き抜く。男は手を引き抜かれ、力無く、重力に逆らわずに倒れこむ。
残った一人に目をやると、先程ちらつかせてきたバタフライナイフを手に持ち、腰を引いて構えていた。襲ってくるというよりは明らかに防衛の構えをしている。さっきまでの威勢は何処へやら、と拍子抜けしてしまい気を抜いた一瞬の隙に――
ニットの男は玲斗との約束を守り目を閉じている真歩に迫る――先には――その動きを想定していた玲斗が立ちはだかる。
「残念だったな猿脳。てめぇの考えてることなんざこちとらお見通しなんだよ。いるよ同じような低俗の考え持って行動するやつ。見てて哀れに思えてくるよ」
キーケースでベルトと繋がれ、隠すように背中側のズボンに差し込まれた棒を取り出した刹那――。
玲斗の右手には――展開されたコンパクトソードが、そして左手には――ニットの男の下を離れた彼の左腕が、それぞれ握られていた。
数秒のタイムラグの後、左が唐突に軽くなる違和感を感じ、そして――。
「ぎやぁああああああああああああ――っ!」
断末魔のような叫びがこの場を支配する。今は無き左腕を押さえ蹲るニットの男。追い討ちをかけるように玲斗は言葉を重ねる。
「この手か……この汚らしい手が、真歩に触れようとしたのか……身の程を弁えろ」
俺は左手に握られた腕をドレッドヘアーの男へ投げつける。的となった顔面にジャストミートした腕が、男の顔を形無き物へと変えていった。
「……た、頼む……わ、悪かった、お、俺達が悪かったから……頼む……命だけ、は……」
「お前達は俺を二回キレさせた。一回目は、俺との約束を破ったこと。だから俺もお前の頼み約束はするが、破らせてもらう。そして二つ目――」
コンパクトソードを持つ右手を天まで真っ直ぐに掲げ、表情一つ変えずに振り下ろす。
綺麗に二等分となったニットの男の成れの果てを見下しながら、
「――真歩を傷つけたことだ」
そう告げた。
――夜九時三十分。
「ちょっと玲斗、アンタその傷どうしたのよ? マジウケるんですけど」
会って早々俺を見て笑いながらそんなことを言うのは俺の知る限り二人だけ。さっきまで一緒にいた幼馴染の真歩と、この外見小学生の自称大学生、千花くらいで、今回は後者が当てはまる。
「……え? ……ああ、これ。……何でもねぇよ」
俺は千花に指摘されたそれを触る。
それは――不良達の襲撃事件の後、真歩が貼ってくれた絆創膏だ。頬や額等至る所に貼ってあり、俺は額のそれを剥がそうと手を掛ける。すると――。
「ダメよ、玲斗きゅ~ん。そんな乱暴に剥がそうとしたら綺麗なお顔に傷が残っちゃうじゃな~い」
俺はその声に絆創膏を剥がそうとした手を止める。と同時にその声に悪寒を感じ背筋が凍る。
声の主はもちろんわかっている。わかってはいるのだが、どうもこう不意打ちだと未だに慣れない。
「……だ、大丈夫っすよ、ノリさん。大した傷じゃないし、それに……もう治ってると思うんで……だぶんっすけど」
「そりゃアタシほどじゃないとはいえ、玲斗きゅんなら回復も早いかもしれないけど、油断は禁物よ。そんなに早くはがしたいのならアタシが手伝ってあげてもいいのよ。出血大サ~ビスで」
「い、いえ遠慮しておきます……」
「そ~お~。残念ね~。あ、それとこれとは話しが別なんだけど……今度筋肉量のチェック――」
「すみません、それも遠慮させて頂きます」
「ちょっと、いいじゃない。ノリ姐可哀想だよ……くふっ……そ、それにアンタ敬語使えるんじゃない。ならアタシにも使いなさいよ」
「遠慮する。てかお前前半絶対面白がって言ってただろ」
「はああ? そ、そんなことないし。ほんとアタシには敬語使わないのね。やっぱり調き……んんっ。教育が必要なようね」
「いや、お前がやろうとしてるのは教育じゃなくてイジメとか奴隷にする類な」
「なんだっていいわ。その減らず口が無くなるのであれば」
「――相変わらず騒がしいな、お前たち二人は」
突如背後から聞こえた声に三人が一斉に身構える。なんともない一声のはずなのに、身体が勝手に反応したのだ。それだけこの声には力がある。無論、声の主にも、だ。
その青年は黒い髪を無造作に伸ばし、ところどころ外にはねている。大半を隠す前髪の下からは鋭い目がこちらを見据える。並の人なら目が合っただけで動けなくなるだろう。それほどまでに青年からは、戦慄が満ち溢れているのだ。
玲斗達と同じ漆黒のローブを羽織り、背中には上半身と同じ丈をしたこれまた漆黒に彩られた四つの武器を背負っている。
「も、戻ってたのかよ――【エース】」
俺はやっとの思いで言葉を発し、青年――エースに当たり障りの無いことを聞く。それに対し、エースは淡々と答える。
「ああ、さっきな。お前が猿共と戯れてる時くらいにな」
あれを見られてたのかよ。全く気がつかなかった……。
「あとクイーン。お前はもう少し身の丈に合った服を選んだ方がいい。あれはお前には似合わんよ。買ったかはしらんがな」
「なっ!? そ、そんなこと無いもん! アタシだってそのうち、すかすかじゃなくなるもん! てか、なんで知ってるのよ! この変態! スケベ!」
さっきまでの緊張感は何処へ行ったのやら。俺も例外じゃないけどな。
「おかえりエースきゅん。東北遠征、随分早く終わったのね。それに、なんかさらに良い身体つきになってるんじゃな~い? ちょっと触っても良いかしら?」
「断る。――【ジャック】、頼んでおいた調査は済んでいるか」
「もちろんよ。資料にまとめてあるから、後で目を通しておいて頂戴」
「助かる」
「あら、もう十時になっちゃう。さあみんな、行きましょう」
「ええ。……玲斗とエース、後で覚えときなさいよ」
「……生憎幼女のお守りをする趣味は無いんでな。キングが相手してくれるさ」
「ふざけんな。誰があんなロリコン女相手にすっかよ」
俺は前を歩く怒りの沸点を上昇させてる千花を後先考えず煽った事を少し後悔しながら歩き出す。剥がした絆創膏の下は――傷一つ残っていない綺麗な肌が露になった。
「ご足労をかける、トランプの戦士諸君。特にエース、東北遠征ご苦労だったな。」
「……………………」
「おっさん、かたっくるしい挨拶は飽きたから、さっさと始めよう。っつても俺がどうこうする訳じゃねぇけど」
「キング、そろそろ言葉遣いどうにかした方がいいぞ。俺だからいいけどなぁ……」
「ボスぅ、そろそろ始めましょ?」
「あ、ああ、そうだな。……ジャック」
「はあぁ~い」
「……クイーン」
「は~い」
「……キング」
「あいよ」
「……エース」
「……」
「よし。これより、月例ミーティング並びに今夜の作戦について説明する――」
ここで一つ、夜人について少し話そうか――。
夜人は、第二次世界大戦時、日本・ドイツ・イタリアの三国による日独伊三国同盟の間で秘密裏に暗躍していた夜戦特化型兵士製造実験によって、現代でも最先端技術の一つとされる遺伝子操作された強化人間なのである。
実験当初は、十五歳以上の男性に対し、昼夜の活動力の転換。つまり朝起きて夜眠るという一般常識を逆転させる実験が施されていったが、実験が進むにつれ遺伝子を操作することで昼夜逆転、更には日の光を避けることで人体能力をより引き上げることが出来るようになると、より強靭な兵士を作るために、生まれたての赤子に実験対象を変更していく。この赤子へのシフトをしたために、性別が男性だけでなく、女性の夜人も誕生するのであった。
この実験の最終到達点は、日中は普通の兵士、夜は強化人間という眠らない兵士を作り上げることであった。
しかし、第二次世界大戦の終結と供に実験も中断され、夜人は不完全体として戦後の世に放たれていってしまうこととなった。
赤子の頃から夜人への実験を施された人たちは一見すれば普通の人と全く変わらないために断罪されることは無かった。しかし――。
夜人は夜に能力を発揮するために日中の活動を補う実験途中で計画が凍結してしまったために一般人とは昼夜が逆転してしまい、日の光に弱く日中は眠り続け、夜にならないとロクに活動が出来ない。そういう不完全体なのである。
これ以上は今はお話出来ないな。またどこか出会えたら、続きを聞かせてあげよう。
それでは、ごきげんよう。
ナイトレイト ブリしゃぶ @buri_syabu
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