太陽の消えた日



「「シキリアン…ッ!」」


…もはやソイツはその呼び名に反応を示すことは無くなった。ただただ砂埃の中で微笑を浮かべるだけで。


『おやおや…いつになく覇気に満ちているね。コッチはお知らせをしに来ただけなのになぁ~』


「知ったことかぁッ!」


猫は駆け出し、氷を纏った爪を叩き付けた。

鳥は飛び出し、磁気の剣を突き刺していく。


『んもぉ…朗報を伝えに来たって言うのにこんな対応なのかい…ま、それならコッチも全力ぶん投げてやるぁよ!』


地面にヒビが入る。

隙間から光のない液が飛び散る。


「これ…どっかでみたような」


そう呟く暇があれば殴れ。

という訳にも行かない。


「女王…?っ!そうだ!そうだ…!女王だ」


声を荒げるペンギン。

その朗報の意は間違いない。ソイツにとっての朗報。

我々にとっての


悲報であった。


『察しが良いね…?そうだ、これは女王の力、自分でもゾクゾクするくらいのパワーだよ…!!!!!!!!』


そう言ったソイツは突然腹に穴をぶちあけ、腕を突っ込み中から塊を引きずり出した。


足がガクカクした。

肌が冷えた気がした。


ソイツは明らかに女王、そしてセーバルを喰らっていた。


『こんなにやりやすかった奴は居なかったよ…?パークの為云々言ってまっ正面から捻りに行ったら自分から負け認めて来やがるのさ、お前たちに全部押し付けて行きやがったぜェーッ!?』


「こんなにやりやすかった奴は居なかった…だと…!!!!!!!!ふざけるな…女王をッ!」

「セーバルまで…なんで ?なんでよ?」


判らない。そんなすんなりいくものなのか?

そもそもこいつが言ってることは嘘の可能性だってあるのだから…。


いや、無いな。


「グッ…アァッ、ぁッ!エレクトロスパイク!!!」


『セルリウムインパクト!!!!!!!!』


これでは…持たない。

長くはどころか…目前に限界が来ている。


「アイジク”ルェ”ェ”ェ”ェ”ェ”ッッジィ”!」


『濁点だらけで判りにくいんだよこの馬鹿猫!沸点ひくすぎんじゃぁねぇのッ!』


『…あー。前座長いくせに弱いわ、面倒クセェーなぁ~……よし、もーいいや、君らここでくたばってろ。じゃあなアホ共』



「「マ”ァ”テ”ェェ”ェ”ェエエ!」」


__________________



「お疲れ様です、差し入れ持ってきましたよ?」


「シキ君!ありがとうございます~お腹減ってたんですよねぇ…うーんとぉなーにっがいーいっかなぁ?」


今日はPPPのライブだ。天気にも恵まれ、丁度午前の部を終わらせた所であった。

何故か幸せなのに、背中がゾクゾクする。

幸せだから、か?

いや、そんな訳は…。


「午後も気張って下さいねジェーンさん?」


「もちろん…あ、ちょっと良いですか?」


…?

彼女は唐突に身をこちらに寄せてきた。

そして。


ふんわりと、キスをしてきた。


「ハハハ…くっつき過ぎですよもう。“ジェーンちゃん”として…やって下さいな」


「貴方の前だったら私は“ジェーンさん”ですからね?…といっても、どちらも私は私です、どっちも好きになってくれるまで毎日キスしちゃいますよ~?」


PPPの皆さんの前、というかワンチャンファンにこのムードを観られる可能性もあるのだからやめて差し上げてくれやがれください。


頑張って下さいね、応援してます


そう言って別れた。



__________________


観客席の端、会場全体を見渡せる席に陣取り、マイク越しに伝わる美麗な歌声を聴いて心躍らせていた。



ここ数日、背筋が凍るような感覚をよく覚える。今日この日、その理由が判る日が来たらしい。


『着信です、グレープさんから。』


なんだろうか…


「はーい、シキです。どうしたんでs…」


『キミは今どこに居る!?』


「みずべちほーの…ライブ会場ですが…?」


『良かった…!そっちにシキリアンが向かったハズだッ!警戒して欲しい!僕らもすぐ行くからな!』


「んなっ…了解です!!!!!!!!」


マズイ…アイツは恐らく空路を使う。

だとすると、一気に殲滅するのにここはぴったりだ…!


「あれは…間違いない!」


予想的中!突っ込んで来るな…?


「さぁせるかぁ”ぁぁぁッ!」


会場がざわめいている。

SlaMpNumがギリギリ言う。

…耐えてくれ…頼む。



『なんだよ…居たのか。居たところでどうでも良いんだが、俺なんて。』


「逃げろ!なにチンタラしてるんだ!早く!速く!ステージを開けろッ!今すぐッ!」


こういう時はフレンズの危機管理能力の低さに腹がたつッ!


「ハァァァッイ”イィ”ヤ”ァ”-ッ!」


『グオァ…中々やるようになってるじゃないか?吹き飛ばされるような事になるとは…』


…何だ?逃げたPPPのメンバーが投げだしていったマイクの1つをとった。


『よぉく耳かっぽじって聞け畜生共!!!!!!!!オレは今からこの島をぶっ壊す!!!!!!!!ぶっ壊すつってもわかんねーかな?テメーら人擬きが安心して暮らせるような場所も、安心して島を任せられるような奴も今じゃオレの腹の中さ…?全部!!!!!!!!お前も、そこのペンギン共も!!!!!!!!なんだったらそこの小っこいのもなぁ!?』


「そうか…ならやってやろうじゃない。喰うか喰われるか、だったら早急に喰らい尽くすまでだっ!!!!!!!!」


ゴォォォとエンジンの音が聞こえる。

後ろに降り立った。未だ騒がしい観客席に背を向け俺の仲間が吠える。


「よくやったぞシキくぅーん!」


「私たちも…戦うよぉっ!」


『フン…かかってこい!どうせ2匹が2匹と一人に増えた所でなぁんにも始まりやしないさ!



セルリウムコピー!』


さぁ…行くよッ!


「装着ッ!」

「磁結!」

「氷結!」


コピー。

『スペック半分のシキリアンです。もちろんですが油断したら死にますよ?』


「あったぼうよ!」

「そんなにやわじゃぁ無いよ~?」

「コンビネーションプレイで行こうか…3体まとめて!」


『怯むなァ…行けっ!!!!!!!!』


「マグネスパイクッ!」


先の尖った細い細い針を相手に突き刺した。

三体同時…納得だ。


「コッチに…来ォォォォい!!!!!!!!」


強力な磁力を出すフリーグに3体まとめて固定してやる。


『なんだよ…これ…ッ!動けねぇ!オイッ、コピー共も動けェ"ェ"ェ"…ッ動けってんだぁ”よぉ!!!!!!!!』


「今だっ!!!!!!!!二人共!」


『セット!ホワイトライオン!』



「行きますよ!レイバルさん!」


「おっけぃ決めちゃおう!」


「私「俺達のコンビネーション、甘くみちゃ困るぜぇぇ!?」」


「「ダブル!」ブリザード!」

「ストルァーイク!」


凍る爪!白い風!ぶちかませ!

石なんか関係無い!叩け!崩せ!壊せ!

遅れを取り戻すならここだぁーッ!



『グオァァlwァァァ#l"!ljs!ふざ”gるlっな!オレの…ッ道は!終わりや…しない!






























終わらねぇよ!絶対に!』



「…嘘だろう、トドメは刺したぞ…」


まるで時間が戻っているかのように。

奴はそこにいる。


『本当に勝てると思ったのか?今のオレは女王の力を手に入れたんだ。再生も何もお手のものって訳さ。お前たちがどれだけ頑張ろうが関係ない。この手の内に、オレの稼いだ力がある限りな。』


うっすらと光る体は、ヒビの1つも無く。

ただただ薄ら笑いを浮かべる。


『さぁ…決戦と行こうぜ?これでラストにしよう。




刮目せよ、歴史に名を刻むのは…


俺か?


      オレか。





        太陽の見えぬ暗闇でな。』







空に段々と厚く光のない雲が現れる。

まるで夜だ。



…そうか、判ったよ。

終わらせてやる。










太陽を取り返してみせる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る