大阪発のぞみ324号の私

@stdnt

第1話

 羽を休める予定で、普段は乗らない新幹線に入ったのが失敗であった。後悔してもしかたがない、適当な席に落ち着くことにした。

 大阪始発ののぞみ324号は、出張のためかスーツで9割の入りである。やっと見つけた空席に急いで落ち着いたが、隣は大きな荷物を持った外資系サラリーマンといった風体であった。あごから耳にまで、びっしりとひげを蓄えている。ご自慢のドレスを汚されてはかなわない。静かに席に付くことにした。

 大阪を出ると、まもなく隣の男は眠り始めた。少し落ち着いて羽を休める。これから先どうしようかしら。

 しばらくして、のぞみは京都駅に停車。きままに降りようか迷っていると、眠っているかに見えた隣の男が突然席を立った。驚いて飛び上がる。トイレかしら。乱暴な男。

 結局そのおかげで降りるタイミングを逃す。のぞみは京都駅をゆっくりと発車し始めていた。ふと見ると、流れ行くホームにあの男がいるではないか。大きな荷物はまだ私の隣である。男は動じた風でもなく、こちらを見ている。そして、目が合ったとき、確かに笑ったのだ。それは私の動物的な直感、いや危機が迫る時の恐怖感を感じさせるものであった。いったい何なのかしら。

 男が残した荷物の中からは時を刻む音が聞こえていた。そしてようやく男が笑った意味を悟る。恐怖の原因はこの荷物なんだ。

 次の停車は名古屋。もう私は虫の息なのであろう。新幹線に乗らなければよかった。

 人は呼べない。だって私は蝶なのだから。


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