長い睫毛が揺れるとき

カゲトモ

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「休日もお仕事だったんですか?」

 イタリアンアイスティーを、目の前の綺麗な男性にサーブする。綺麗すぎて周りの空気まで違うような気がする。

「編集ですからね。基本土日祝は休みでも、仕事が入れば出勤しないといけませんから」

「大変ですね」

「いや、今回は雪の中で撮影したいねって言っていたので。山奥に行かなくてすんで良かったですよ」

 ふふ、と微笑んでいるのにその表情にはやっぱり疲れの色が見て取れた。

「もしかして明日撮影できるかもって昨日連絡が来て、急遽モデルさんに連絡して、強行日程だったから大変でしたけど、イメージ通りの撮影が出来て良かったです」

 細くて長い指で揺らしたロンググラス。安心した表情は、今日も綺麗にメイクされている。

 ルカさんはメイク雑誌の編集者で、所謂美容男子だ。髪形から睫、瞳やリップ、服装もアクセサリーもネイルも、全て“綺麗なルカさん”を創り上げている。といっても、多分すっぴんも整っているのだろうけど。

「でも実は、今日寝坊しちゃって、メイクとかしっかり出来てなくて、しかも忙しくて化粧直しも出来なかったし。モデルさんに見られるの本当に恥ずかしくって」

「え?」

 嘘だろ、それで?

「あ、いや、さすがに退社するときに直して来ましたけどね」

「そうだったんですね。ルカさんは変わらずお綺麗ですから」

「いやいやマスター、本当のこと言わないで下さいよ」

 なんてウインクを飛ばしてくるルカさんは、きっとモテるんだろうなぁといつも思う。彼女がいる話は一度も聞いたことがないし、彼氏がいる話も聞いたことがない。中性的なそのルックスはきっとどちらにもモテるのだろう。

「ん~、いやぁでもやっぱり疲れました」

「今日は本当にお疲れ様でございました」

「ふふ、明日も仕事だから、頑張るためにマスターのお酒を飲みに来たんですよ?」

「おや、嬉しいことを言って下さるんですね」

「本心ですよ?」

 やめてくれ。そんなに丸い瞳で上目使いされたら好きになってしまうだろ、なんて。

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