第33話

そんな風にして愛菜との交流が始まって、数日が過ぎた頃だった。


ふいに眉間にしわを寄せたお怒りモードの芹奈さんが、腕組みをして私を見下ろす。


「明穂ちゃん、あなたのPPが落ちてるわよ」


PP1521。


悪い数字ではないけれども、普段の私からすれば決して高い数字ではない。


「私の提案したPP維持方法、本当にやってないの?」


「やってますよ」


その返事の仕方は嘘をついているみたいな言い方になってしまったけれども、本当に、少しだけならやっている。


「そう、ならいいんだけど」


彼女はため息をついた。


「そう言えば、このことは長島くんに言ってなかったわね、報告をあげておくわ」


私のPPの変化なんて、彼女にしてみればどうでもいいことだろうに、お節介にもほどがある。


彼女にとって、どうしてそんなことが気にかかるのだろう。


放っておいてほしい。


「あ、私も一緒に報告にいきます!」


七海ちゃんが立ち上がった。


「なに言ってるのよ、局内のメールで報告するだけだから、一緒に行くもなにも……」


「いいじゃないですか、直接会いに行っちゃいましょうよ!」


七海ちゃんの会いたい押しに、芹奈さんは完全に笑っている。


七海がキラキラ笑ってまくしたてるのを、芹奈さんはうんうんとその全てにうなずいている。


この二人、いつの間にこんなに仲良くなったのかな。


七海なんて、PPの数値でしか人をみない女だし、その芹奈さんのPPなんて、いい加減に作られた数値なのに。


さくらの手が、ぽんと私の肩に置かれた。


さくらはにこっと笑って、そのまま自分の席につく。


横田さんと市山くんは相変わらずチーム内の女子の人間関係に関しては無力極まりなくて、すぐに私から目をそらす。


私はたけるをぎゅっと抱きしめた。


『至急:保坂明穂:面会予定者来訪:乃木愛菜:受付ロビー』


オフィスの壁に掛けられた電光掲示板が、突如警告音を発した。


そこにいた全員が光る文字を見上げる。


「全く、何を考えているのかしらね」


芹奈さんが険しい表情でつぶやく。


横田さんは見上げた掲示板からぷいと顔を背けると言った。


「行ってこい」


横田さんはずっと私に背を向けたままだった。


今回もまた、私一人で対応しろってことなんだろうな。


最近、私は彼の背中しか見ていないような気がする。


渋々立ち上がった私を、市山くんは見上げた。


「大丈夫、ちゃんと見守っているからね」


「実害はないんだけどね」


「うん」


芹奈さんが横田さんに声をかけた。


横田さんは、その話に耳を傾ける。


彼女はぐっと肩を寄せ、二人で同じ画面を見ながら熱心に話し続けている。


ため息をついた私に、市山くんはなぜか大きくうなずき、私は急に重くなった体を引きずって廊下に出た。

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