この素晴らしくも愚かな世界に祝福を!

量産型1号

第1話 出会い

 ガヤガヤと騒がしい冒険者ギルドの中、屈強な冒険者達が集う酒場で、異彩を放つ一つのパーティーがいつものようにクエストのことで喚き合っていた。


「だーかーらー!なんで私が毎度毎度蛙の餌にならなくちゃいけないのよ!!」

「うっせーな!お前がもっと有能で頭が良くてちゃんと働いてくれたらこんなことやらずにすむんだよ!ちったあ他の転生者のチートくらい働けぇ!!」

「あー!カズマが言っちゃいけないこと言った~!ねえ謝って!私に謝ってよ~!」

「まあ、私は良いのだがな・・・。餓えた雄共が私の身体をめがけて押し寄せてくる、そしてその長い舌で私の身体は粘液まみれにされて・・・くぅっ。」

「お前今興奮したろ。」

「し、してないっ///」

「私はしいて言うならもっと爆裂魔法の撃ちごたえのある敵がいいですね。」


 そんなこんなで今回のクエストの反省をしていると、1人の男がカズマのもとへやって来た。


「君がカズマさんかな?パーティー募集の紙を見て来たんだけど、まだメンバー募集してる?」


 その男は黒髪黒目で、腰にナイフを下げている少年だった。見たところナイフは特に何の装飾も無い。服は小綺麗なものではあるものの、防御力は無さそうで、とびきり高級品とは言い難い物だった。

 カズマは、パーティー募集の紙を剥がすことを忘れていたと思いつつも、どうせまた変な奴だろうと思い、適当な返事をした。


「えっと、ウチのパーティーに入るつもりなら辞めた方がいいですよ。へっぽこプリーストに攻撃が当たらないクルセイダー、一発しか魔法の撃てない上に名前が変な魔法使い。そして最弱職のくせにリーダーをやっている俺がパーティーメンバーなんですよ?いい思いなんか出来ませんよ。」


 少年は少し困ったようにして、そして決意したかのように言った。


「何を言ってるんだい?防御力ならアクセルで一番高い、魔物の攻撃を微塵も恐れないクルセイダーに、魔法の中でも最強の爆裂魔法を操るアークウィザード、更に無尽蔵のMPを持つ女神。そしてリーダーは、知略に長け、様々なスキルで窮地を乗り越えてきた、魔王討伐を本気で目指しているカズマさん、だろ?」


 カズマは危機感を覚えると同時に驚いた。何故ならこの町で初めて見る顔なのに、これほどのことを知っていたからだ。こいつが新顔だとわかる理由は、俺が冒険者によく奢っているから、そして俺は同じ低いレベルの冒険者のことはよく覚えているからだ。たとえこいつが高レベル冒険者だったとしても、こんなに初心者っぽい装備をしていたら覚えているだろう。更に魔王を倒す事やアクアが女神だと知っているとなると少なくとも普通の冒険者では無いだろう。

 となると俺達のことを知っても可笑しくない可能性は4つ。

 1つは神、神ならどんなことを知っていても可笑しくないが、俺達のパーティーに入る理由が見当たらない。大体、もし神だとしたら忙しくて俺達なんかにかまってられないだろう。

 2つ目はミツルギに聞いたという可能性。これも、考えられなくはないが、可能性は低い。何故ならそんことを聞けるくらい親しいなら、ミツルギのパーティーに入れてもらえばいい。あの取り巻きだって強い様には見えなかった。実はあの取り巻きが強かったとしても、弱いのにウチのパーティーに入るわけがない。何故なら先ほど相手が言ったことを思い出してみると、『魔王討伐を目指している』と相手は言っていた、弱い冒険者なら馬鹿じゃなければ入るわけがない。勿論馬鹿という可能性も捨てきれないが、大きな可能性ではないだろう。となると残る1つの可能性が高い。

 はたして神かミツルギの関係者か、馬鹿か、それとも、


「お前、まさか・・・。」

「俺は転生者の霧島 零、呼び捨てで呼んでくれると嬉しいな。」


 転生者か、だ。

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