見えない目撃者

みすぎけい

第1話

 目の前を、忙しそうに警察の人達が走って行く。そしてその後ろをTVのカメラやリポーターらしき人達がついて行く。近所の人達も、好奇心でいっぱいの眼で、その様子を見ている。



 この街がこんなに大騒ぎになったのははじめてなのだろう……。



 僕もこの街に住むようになって、そんなに長いわけじゃないけど、こんな騒ぎははじめてだし。

 閑静な…と言う訳じゃないが、この辺りは古い住宅街で、皆昔から家族ぐるみで住んでいたりし て、すぐとなりに出来たきれいなニュータウンとは雰囲気すら違う。

 そのニュータウンには、若い新婚夫婦や家族が多く、なんだか道路も広くてゴミひとつ落ちておらず、おとぎ話に出て来るようなレンガ造りの壁のある可愛い家が建ち並んでいる。


 そこのニュータウンの奴らと、僕ら古い街の連中とで一度だけ喧嘩した事がある。

 まあいわゆる抗争とかいうのかな?

 とに角お互いが気に入らなかったんだ。総勢二十といったところか? そりゃ大騒ぎになった。でも怪我した奴もいなかった。

 実は喧嘩をはじめてすぐに、近所に住む誰かが警察に通報したからだ。

 僕らは慌てて逃げ出した。

 誰も捕まらなかったけど、喧嘩は一時お預けという形になった。でもいつか必ず決着をつけるつもりだ。




 そんな喧嘩ぐらいが、この辺りでの大きな事件だった――はずだった。

 僕だって興味津々だ。

 だってまさか、こんな近くで「殺人事件」が起こるなんてさ。








 垣田という家で、昨夜未明事件は起きた。

 そこの娘が、朝起きると両親が何者かに刺されて死んでいたのを発見し、通報した。

 一階の窓が開いていたので、犯人はどうやらそこから侵入したらしい。

 ところが、だ。

 調べていく内に、この殺された二人は、普段から折り合いが悪く、喧嘩が絶えなかったらしい。しかも何も盗られておらず、物盗りの犯行でもないらしい。

 怨恨か…?

 それとも…?






「ええ。そりゃあ家族を大切にしている人だったですよ~。まあ大人しい感じではあったけど」


 事件のあった家から百メートル先くらいの家のおばさんが、そんな事をTVに向かって話してい る。そこの家の人間と、たいして話もした事無いくせに、さも知人みたいな顔をして得意げに話している。


「なんか…喧嘩が絶えなかったみたいだよ……」


 事件の家の、すぐ隣のおばあさんがドアのかげから、そうコメントしているのが聞こえた。

 そう。そうなんだ。

 夜、あの家の前を通ると、よく家の中から喧嘩しているような声と、たまに何かが壊れるような音がしてびっくりする事があった。

 そうすると必ず、そこの娘が飛び出してきて、彼氏の元へ逃げて行くんだ。

 何故知ってるのかって?

 実は…一度だけ気になって、彼女の後をついていった事があるんだ。



 あれはすごくスリルがあったな。

 彼女に見つからないように、電柱のかげとかに隠れながら、ついて行ったんだ。すると彼女は結構近くにあるアパートの一室に入って行った。

 僕はそこでじっと待っていたが、すぐに彼女とアパートに住む男が出て来た。


 僕はこの男を知っている。


 短く刈り上げた髪に小さな金色のピアスを鼻に付けた、何だか彼女には似合わない男だった。この男は「トシオ」と言って、僕らが地べたに座って友達とダベッっているだけで、


「邪魔なんだよ! あっち行け!」


 とか言って、いきなり追い払ったりする嫌な奴だった。

 友達のサブローなんかは、背中を蹴られた事だってあるんだ。

 とに角、トシオは僕らの間ではとても評判が悪い。

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