第22話 三谷の真実
「咲子ちゃん。また、悪霊ついてきてるけど・・。一体、どうしたっていうんだい?
確か、一度は振り払って消えた筈なのに。また、背後に見えるんだよ。女の霊が・・。」
三谷君が、私に恐る恐る言った。
確かに、月野マリアの幽霊が再び現れたのは最近の事だ。もしかして、この人は本当に幽霊が見える人なのかもしれない。
「どうしようなあ・・。除霊してあげなきゃって思うんだけどさ。
その為には、僕のパワー入りの秘伝のパワーストーンペンダントを着けないといけないんだ。
「ジョレーストーン」って言うんだけどね。秘伝の呪文を、満月の日から新月になるまで毎日念じて作られた代物なんだ。
本当は、五万円するんだけど。咲子ちゃんには、特別でプレゼントしてあげたいって思うんだよね・・。やっぱり、昔からの知り合いだしさ。」
ジョレーストーンって。ネーミングが、結構適当なのは気のせいだろうか。そして、たかがパワーストーンで何故五万円もするのか。
パワーストーンなんて、所詮石ころじゃないの?そんなものに、いくら呪文だかパワーを込めたからとはいえ、一気に五万円の価値がつくとでもいうの?
と、こんな時に限って。履いてきた勝負パンツの紐の右側が、少し緩んできた。やばい、何とかして落ちないようにしなければ・・・。
私は、更に緊張感を増した顔になった。勝負パンツはずるりと下に落ちそうだし、男には騙されそうだし。
もしかしたら、三谷君は幽霊は本当に見える人かもしれないが、あえてその力を利用した詐欺師なのかもしれない・・。
月野マリアのいうことは、やはり正しかったのかもしれない。少し、悔しいけど。
すると、突然あたり一面に強い風が吹き荒れた。
「や、やばい・・。悪霊が暴れている・・。おのれ!悪霊め!咲子ちゃんに迷惑ばかりかけやがって!
咲子ちゃん。後ろに下がってて!
僕が、守ってあげるから!
さあ!このジョレーストーンをつけて!」
と言って、勾玉形の碧いパワーストーンネックレスを貰う。ってか、これ。ジョレーストーンじゃなくて、ラピスじゃん。スピリチュアル雑誌の巻末に良く載ってたのと同じ、ラピスじゃん・・・。
「ジョレーストーンじゃなくて、これラピスだよね?」と三谷君に尋ねる。
「うーん・・、
石としては、確かにラピスかもしれない。
しかし、この石は僕たち霊媒師一族の秘伝の呪文や魔術が組まれている、特別な石なんだ。よって、ラピスであってラピスではないんだよ。
不思議なパワーを注入されたことにより、新たにジョレーストーンとして生まれ変わった代物なんだ!
ジョレーストーンは、どんな悪霊からも守ってくれる力が・・あっ!」
と、三谷君が言った途端。パァン!と、ジョレーストーンは、音を立てて勢いよく割れた。
「お、おのれ!悪霊め!咲子ちゃんに、何するんだ!」と、三谷君が慌てはじめる。
しかし、現状としてはジョレーストーンがただ勝手に割れただけで、特別私に危害は何も加えられていない。
すると、ぼんやりと黒い長髪の女の幽霊が姿を表した。
「う・・うらめしや・。」
と、幽霊が言うと「ひいいい!本当に、幽霊出たぁぁ!」と、三谷君は真っ青な顔をして一目散に去って言った。
幽霊の正体は、月野マリアだった。
「ったく。幽霊になって始めて「うらめしや」なんて臭いセリフ言ったわよ。
ほんと、恥ずかしいったらありゃしない。心配してついてきたら、このザマだったから。
馬鹿だね、あんたも。あんなに、私が言ったのに。
あいつは、悪徳霊感商法の詐欺師なんだよ。まあ、実際に霊感だけは本当にあるタイプなんだけどね。だから、余計に厄介なんだけど。
そして、この詐欺には片桐も噛んでるっぽいわね・・。
私の存在についても、片桐があの男に話してる可能性があるわ。
あんたを紹介するために、片桐はお金を貰ってる可能性があるの・・。」
えっ。どういうこと?
どうして、そんな事を片桐君がしないといけない訳?
私が、ずっと恋してきた人が。まさか、私を騙そうとしてるなんて。そんな事、信じたくはない・・。
「片桐が、まさかそんな男とは思いたくないんだけど。私も、昔はアンタと片桐の恋を応援してたこともあるし・・。
でも、私。暫く幽霊として片桐にバレないように行動を尾行してた時期があるの。
片桐は三谷に負けない位、霊感も結構あるから気配消すの大変だったわよ。
あの二人は、同じように強い霊感の持ち主だったから仲良くなったのかもしれないわね。
片桐には、嫁の他にも何人か女がいる・・・。それは、独身の頃から変わらないのかもしれないけど。
でも、女を沢山外に作るということは、それだけ金がかかるものなのよね。
中には、片桐の方がお金を貰って付き合ってる熟女のパトロンのような存在もいたわ。
そこまでして、女遊びを辞めたくないのか?
それとも、案外熟女好きなのか?
尾行すればするほど、ホント屑だったわ。あの男は。
また、片桐は何度か三谷とコンタクトをとってる。会話までは聞けなかったものの、何かの打ち合わせを何度かしてるようだった。
そして、片桐は三谷から数万円のお金を受け取っていたの。
もしかしたら、貴女を売ろうとしている計画だったのかもしれない。
三谷にとって、貴女はちょうどいい金づるでしかなかったのよ。
だから、何度も言ったでしょう?どうして、私の言うことが聞けないの?」
悔し過ぎて、涙も出てこない。
私も、バカみたいに勝負パンツなんて履いちゃってさ。何やってるんだろう。
まさか、ずっと大好きだった男に、騙されそうになっていたなんて・・・。
なんかもう、男なんて信じられない。
恋なんて、もうしたくない。そうだ、引きこもろう。小説を書くことに没頭しよう・・・。
私には、仕事があるんだ。恋なんてしなくてもいいじゃない。
ずっと、妄想の世界を文にしたためる事で現実世界からトリップし続ける。
「なんの為に生きてるのか?」と、思ったら迷わず「小説を書く為」と思い直せばいい。
私は、この事件以降ずっと脇目もふらずに小説を書き続けた。
色んな小説を読み漁り、文の書き方を研究する。もちろん、小説を書くためには恋愛経験も必要になる。
しかし、その件に関しては友達の会話から想像して書くことにしていた。ネタに困ったら、友達を呼び出して「最近、どう?」と聞く。
やがて、私がこの時書いた小説は大きな賞を受賞し話題になった。
この時書いた小説「僕は文鳥」は、官能というカテゴリーから外れ、サスペンスやホラー等のジャンルを盛り込んだ小説だった。もちろん、エロスな部分も取り入れつつ新ジャンルに果敢に挑戦した意欲作だった。また、新たなジャンルに挑戦した作品が世間に認められた事は私にとっても大きな自信に繋がった。
なお、幽霊である月野マリアのゴーストライターだった為、大きな賞受賞と言えども作家のインタビュー自体が無いという異例の展開だった。
この出来事は、元AV女優初の快挙として、AV界を震撼させる出来事となったのだ。
しかし。どんなに作品が評価されても、ゴーストライターである私は評価されることはない。
やがて、虚しさだけが募ってゆく・・・。
そして、気がつけば30歳の年を迎えようとしている。
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