第12話 モンスター
マリアが憑依することによって、私の脳内に映し出された「月野マリアの記憶」を読み取り、私は文章にし続けた。
月野マリアは、過去の映像を私に見せておきながら「やめて!何するの!」と私に訴え続けた。
自分の過去を本当は知ってほしいし、理解した上で自分を愛して欲しい癖に、
いざ、自身の過去のトラウマを文章にされると怒りだす。
時には、マリアの共謀な別人格サリナが「お前なぁ、やめろよぉぉ。勝手な事ばっかすんじゃねーよ。」と、荒い口調で怒ってくることもあった。
それでも、私は筆を止める事を辞めようとしなかった。
マリアを成仏させることに貢献できるかどうかは、一か八かの賭けだった。
せめて、私は月野マリアに何の苦しみを感じることもなく天国へ連れて行ってあげたいと思った。
今度こそ、本当に素敵な親から生を受け。
幸せを掴んで欲しいと・・。
書き終わった作品「モンスター」は、予想以上を超える大ヒットとなった。
月野マリアは、モンスターが発表されるまでずっと行方不明として片付けられていた。
そんな中、あの伝説の作家が再起をかけた作品ということで期待はかけられていたのだが、
更に、「自伝」という事。
幼き頃に父親から性的虐待を受け、
母親には、暴力を振るわれ。
AV業者に売り飛ばされる。
しかし、実は私は多重人格者だったのだ・・。
この自伝話を、エッセイではなく小説形式で作成。
瞬く間に、200万部の大ヒットになったのだ。作品は、映画化。ドラマ化。どれも大ヒットとなった。
この頃には、私も既に20歳となっていた。
しかし、ここまで大ヒットしても月野マリアは表舞台に出てこない。
「本人は病気の為」と言って、各雑誌社のインタビューを断り続けたのだ。
やがて、徐々に不安を感じるようになる。
私は、本当はまだ20歳になってもなお処女のまま。
幽霊の月野マリアと、秘書の片桐君と三人で執筆活動してるだけ。
執筆活動が忙しくなりすぎて、
やがて恋だの愛だのいってられなくなった私。
あんなに好きだ好きだ言ってた片桐君も、毎日一緒に仕事していると段々気持ちも薄れてゆく・・。
「咲子。ごめん。ずっと黙ってたんだけど。
実は私、片桐君と付き合ってたの。」
執筆活動で忙しくなっていた頃、親友のマリコがポツリと私に呟いた。
私は、マリコに誘われ片桐君のファンクラブに入会した。
その頃は、まだ片桐君とマリコは付き合っていなかったのだが・・。
その直後、こっそり私に隠れて片桐君に告白したマリコ。
片桐君から、
「ごめん。俺、咲子の事が好きだから。
付き合えないんだ。ごめん。」
と、断られた。
しかし、マリコは「咲子、好きな人いるみたいだよ。隣のクラスの塚本君。」と、嘘をついた。
そして、片桐君とマリコは密かに交際をスタートした・・。
私は、片桐君に何度もラブレターを渡していた。
しかし、片桐君がマリコにその事実を伝える度に
「私、あの子に片桐君が咲子の事が好きって言ったのバラしちゃった。
そしたら、突然このザマでしょ?
あの子、処女早く捨てたくて焦ってて。
誰でもいいみたいなの。
私は、大事にしなきゃダメだよって。何度も言ったのに。聞かなくて・・。」
ずっとマリコを親友だと信じて疑うことはなかった。
まさか。私にも。片桐君にも。
そんな酷い嘘をついていたなんて。
私と片桐君が、他愛ない話をする度に・・。
マリコはわざわざ
「あの人、遊び人らしいから気をつけて。片桐君の噂聞いてファンクラブ辞めちゃった。咲子も気をつけてね。」
と、言いにきた。
嘘。嘘。嘘・・。
「実は、ずっと、貴方に嫉妬してた。
だって、片桐君はずっとずっと咲子の事が好きだったから。
私がどんなに追いかけても、片桐君の心にはずっと貴方しかいなかった。
彼が、貴方の秘密の仕事を手伝ってるって聞いた時・・。
あまりにも、貴方と咲子が一緒にいるもんだから。私はずっとヤキモチしてた。
片桐君は、咲子を助けたいという気持ちで一杯だった。
だけど、咲子の親友と交際してるから。
咲子と、どんなに一緒にいても。
どんなに惹かれるようになっても。
好きになってはいけない人だった。
私は、ヤキモチに耐えられなくて別れたのよ。彼と。
でも・・。
私達ね。アッチの相性は良かったの。
結局、なんだかんだで私と彼は離れられなくて。
最近、ヨリを戻したんだ。
ごめんね。咲子。
ずっと黙ってて。」
そう言って、マリコはクスッと笑った。
何故、もっと早くにいってくれなかったの?
そしたら、私はもっと早くに片桐君の事を諦められたし。
ラブレター40通も書く事なんてないし。
小説家になって、名作書いて。
片桐君に面白い!って感想もらって。
ご褒美に、デートに連れてって欲しいとか。
思わないじゃん。
なんなのよ。もう。
涙が溢れてとまらない。
辛い時は、いつも片桐君を呼んでたけど。
こんな日は、顔すら見たくない。
段々、毎日隣にいすぎて。わからなくなってたけど、溢れ出す涙を知り思う。
もしかして。
本当に、私。
片桐君の事が好きになってたのかもしれないって。
片桐君に、今日も原稿の見直しをしてもらう。
片桐君は、いつも黙々と静かに原稿を読む。
「あー、ここもっと他の表現方法ないかな?」とか、ちょいちょいダメ出しする事もあるけど、没にはしない。
この光景を、まるで背後霊のように月野マリアの幽霊は静かに閲覧してる。
私が彼女の自伝的小説をかくことにより、彼女のトラウマが消えて成仏出来るのではないかと思ったが、
彼女自身は、まだまだこの世に未練があるのかもしれない。
日に日に悲しそうな顔をする、月野マリア。
何度か、彼女を私の体に憑依したが・・
貴方の過去の記憶や、トラウマ・・。
全てが鮮明で刺激が強すぎて、何度も私の体は拒絶反応を起こした。
片桐君は、その度に介抱してくれた。
そんな片桐君にすっかり安心していた私だが、実はずっと知らなかった片桐君の真実をマリコに聞かされた。
いつも、何でも話してくれてると思っていた。
どうでもいいワンナイトラブの女の話とか。
あんなに、沢山話してくれたのに。
親友のマリコと付き合ってる話。
だけど。
私の事が、本当はずっと好きだった話。
どうして。ウソついたの・・。
いつも、つまんないことばかり本当の事いって。肝心な事は嘘ついて。
どうして・・。片桐君・・。
自然と、私の目に涙が溜まる。
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