第5話 マリアと雪
由芽子は、俺達の勝手な性欲のせいで精神崩壊にまで追いやられ施設に預けるまでになってしまった・・。
施設に預けたのは、俺だ。
そうしないと、俺自身が由芽子にまた欲情してしまいそうになって怖かったんだ・・。
しかし、お前はまた施設から由芽子を引っ張り出して「企画AV女優 月野マリア」としてデビューさせた。
当時、俺は教職員だった。
お前の勝手な行動のせいで、俺は教職員を解雇させられたんだ。
娘が、AV女優をやっていることがバレてしまっては、もう生徒に何も教えられないじゃないか・・。
お前という奴は・・由芽子を裸一貫で働かせておきながら、今度は娘の麻薬中毒隠蔽工作か・・。
本当に、お前はどこまでも屑な女だ・・。
もうこれ以上、人様に迷惑をかけることは辞めてくれ・・。」
私の目の前で、月野マリアが項垂れるように塞ぎこんでいる。「うっ・・うっ・・」と、嗚咽混じりの声を上げて泣いている。
「月野さん・・。大丈夫ですか・・?」と、恐る恐る声をかけるとジロッと月野マリアに睨まれた。
怯えた私を、片桐君がそっと肩に手を置いて「まあまあ・・。」と諭してくれた。
私がずっと大切にしてきたモノを、月野マリアは大事にすることすら許して貰えなかった。
親は、子供の事を第一に考えるものだ。
それが当たり前だと思ってきたけど、月野マリアの幼少期にその概念は微塵も無かったのだ。
月野マリアは、生まれた時から。
両親の哀しき玩具だったのだ。
母親のエゴで、実の父親の性欲を満たす為に使われて。反対すれば、母親に包丁で振り回されて。
処女。それは、本当に心の底から捧げたいと思う人に捧げるものだ。
私は、ずっとそう信じてた。
でも、実際問題。
本当に心から好きな人に処女を捧げてきた人が世の中に一体何人いるのだろうか。
私のクラスの女子の一人も、
「最近さぁー。好きですって言われてさぁー。別に好きでも無かったけどー。
そんなに、何度も好きって言ってくれるならって思ってぇー。まぁいっかーみたいなー。
初めてだったけどー。
なんか気持ちいいというより、ただひたすら痛かったって感じでぇー。」
と、誇らしげに語る奴いたっけ。
皆にとって。本当に処女って何?
そんな簡単に与えていいものなの?
ねえ?だって、処女を捧げるのってさぁ。
人生で、たった一度切りしか無いんだよ?
しかもさぁ。
実際体験したことないから私もピンと来ないんだけどさぁ。
初体験って、すっごい痛いって聞いたことあるし。
ただでさえ、女のあんな狭い所に男のあんな大きいモノが入るんだよ?
しかも、最初は血飛沫が凄いって。シーツ真っ赤に染まるって・・。
なんかもう。想像しただけで・・・
絶対、絶対やばいって!
だけど。私。
大片思い中の片桐君なら・・いいのかな・・。
それでも、正直。
いざとなると怖いなぁと思うのは。
大好きな片桐君に、私のあんなグロいものを見せなければならないという事だ。
自分の性器が一体どうなってるのか興味があり、手鏡で覗いてみた事がある。
正直、あまりのグロテスクさに自分が自分に嫌いになりそうだった。
みんな、よくこんなものを簡単に男性に見せれるなぁと思う。
私なら、正直恥ずかしいよ。
まして、大好きな人に・・。
片桐君が、もし私のアソコを見てしまったら。
私の事、嫌いになってしまうだろうか。
「お前、こんなにグロいのかよ。
こんなグロいの初めて見たよ。まじ、キモいなお前。」
とか言われたら、どうしようって思っちゃう。
ねえ。
ねえ。ねえ。
皆どうしてそんなに平気で、彼氏に見せられるの?
っちゅーか。
こんなにグロいの、もしかして私だけ?
うーん。
もしかしたら、親友のマリコのは薄ピンクの綺麗なヤツかもしれないし。
それで、金持ちのお嬢様の明美とかはさぁ。
アソコに真珠とか埋めてるんじゃないの?
こんなの見せておきながら、「オホホ、あらぁ、咲子ってば。はした無いわぁ」とか上品に笑えるレベルじゃないよね?
確か、エスカレーター式の大学行ってるお坊っちゃんの彼氏と交際してたと思うんだけど。彼氏は、アソコに何埋めてんのかしらね。
もしダイヤとか埋めてんなら、そのままプロポーズして貰えるかもよ。
「俺と結婚してください。」って、アソコでプロポーズ!
一石二鳥じゃん?
早く結婚したいって言ってたし。
それで、いーじゃん。明美!
100万円位のショーメの指輪欲しいって言ってたけど、とりあえずショーツは毎日履いてよね。
ノーパン趣味らしいけど、個人的には見たくもないアンタの尻さぁ。
たまに、風の影響とかで見たくもないのに見せられる訳よ!
ハッキリ言って迷惑。そんなプレイは、彼氏と二人きりのデートだけにして頂戴!
・・と、話は少し脱線しちゃったけど。
本当。
子は親を選べないと言うが。
いくらなんでも、これは酷すぎるよね。
月野マリアだって、本当は好きな人に処女を捧げたかった筈。
だって、女として生まれたからには。きっとそうやって思うと思うの。
でも、その選択肢を彼女の意思のないうちから親が潰してしまったのだ。
そんなの、悲しすぎる。悲しすぎるよ。
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やがて、部屋の一室に警察官の団体がゾロゾロと入ってきた。
警察達は、何の悪びれる事もなく部屋一面に散らかった原稿用紙を踏みつける。
「あっ、ちょっ・・まっ・・待ちなさいよぉぉ!それは、今度の連載小説に必要なストーリーのネームなんだからぁぁ!
てめぇらぁぁぁ!
こんだけ、月野に書かせる為にどんだけ薬飲ませたと思ってるんだよぉぉぉ!コイツは、頭がトランスしてないと作品書けないんだっつぅのぉぉぉ!ふざけんなぁぁ!」
と、佐藤雪が血相を変えて怒鳴りつける。
さっきまでの冷静なキャラクターは、恐らく作られたもので、これが本当の佐藤雪なのだろう。
「佐藤雪さん。児童虐待。コカイン使用斡旋容疑。おまけに、脱税容疑の為逮捕です。」
佐藤雪が「やめろぉぉぉ!」とけたたましく叫び続ける中、黙々と警察官達は佐藤雪を取り押さえ手錠をかけた。
「佐藤登さん・・。由芽子さん・・。貴方たちもです・・。」
青い男(佐藤登)は、自ら手を差し出し涙を浮かべる。「お願いします・・。」と呟きながら。
「ちょっと待ってよ・・。
なんで、なんで私は何も悪くないのに・・。
佐藤さんに「精神安定剤だよ」って与えられた薬飲まされてて・・実は、後でそれが麻薬だって知って・・。
また、佐藤さんに騙されたと思って恨んで・・。
でも、佐藤さんの事は恨んでるし。憎い筈なのに。何故か、どうしても離れられなかった・・。「貴方が必要よ。」と言われたら、「もしかしたら」と思って信じてしまう・・。
本当は「お母さん」って呼びたかったけど。
「お前は、お母さんの子じゃない。」と、認めて貰えなくて。
ずっと「佐藤さん」って呼ばないといけなかった。辛かった・・。
周りの子達から、「何で、親の事を佐藤さんって読んでるの?何で、由芽子ちゃんのお母さんは由芽子ちゃんを「月野」って、呼び捨てにするの?」と、不思議がられてた・・。
「月野」は、佐藤さんの旧姓・・。
佐藤さんは、整形して今の美貌を手に入れた。
佐藤さんは、顔も性格もブサイクだった自分の事が大嫌いだった。
「お前は、ブスで産まれた時点でもう人生決まってるんだよ。」そう母に罵られながら育ったんです。
佐藤さんの母が家に帰ってくる事は殆ど無かった。
仕事先で知り合った若い男と不倫に走り、小5の頃には家出して帰って来なくなった。
佐藤さんの父からは、「お前がブスに産まれたせいだ。」と、連日酒を飲んで殴られた。
「お前は、ブスだから。誰からも愛されることなく死ぬんだよ。俺が相手してやるから、有難く思え!」
と言って羽交い締めにされた。そして、佐藤さんは実父にレイプされ泣きながら家を飛び出した。
佐藤さんが、踏切から飛び出して自殺しようとした時に「何やってるんだ!」と、助けた人がいた。それが、父・・佐藤登さんだった。
佐藤さんは、父の家で居候するようになった。
父は、まだ高校生だったが既に一人暮らしをしていた。
父は、事故で両親を無くし天涯孤独の身だった。お婆ちゃんに預けられて育ったものの、一年前に他界していた。
やがて、佐藤さんは長い交際を経て父と結婚した。
仕事は教師。
顔もソコソコ悪くない。
何の面白味もなく、地味で真面目そうな男。
それが、父だった。
今度こそ、彼女を幸せにしてあげたい。
父は、そう思っていたそうだ。
そう、この時だけは・・。
そして、私が産まれた。」
佐藤さんが、やめろぉぉ!それ以上言うなぁぁ!殺すぞぉぉぉ!
と叫ぶ声を無視して、月野マリアは淡々と語り始めたのだった・・。
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「月野マリア・・いや、佐藤由芽子さん・・。貴方にも、是非署まで来てもらいます・・。
話したい事が沢山あるのは、わかります・・。わかりますから・・。
ここで、機関銃みたいにベラベラ貴方のお母さん(佐藤雪)の身の上話を聞かされてもね、正直困るんですが・・。
それで同情して刑を軽くして欲しいとか、そういうのとか本当困りますんで。
こっちは、公務なんでね。ハイ。」
警察官の一人が、淡々と答える。
周囲の警察官達は、「よくぞ言った!」とばかりにパチパチと拍手を始めた。
「あのぅ。正直、早く貴方達とっ捕まえて帰りたいんですよ。私達は。ぶっちゃけ、貴方達のメロドラマとかそんなに興味無いので。一刻も早く連行して帰りたいんですよ。
今日、21時から連続ドラマ「クソ女達の憂鬱」がスタートするんですけどね、
まー、録画してはいるものの。
やっぱり、ほら。
家族皆で囲って、テレビって見たいじゃないですか?
って、貴方達にはよく分からない話かもしれませんけどねぇ。そもそも、一家離散っぽい感じですしぃ。
あっ、嫌味に受け取ってしまったなら、ごめんなさいねぇ。
僕の家族は、貴方達と違って家内とも凄くラブラブで三人の子供にも恵まれて本当に幸せなんですよぉー。
さてと。
佐藤由芽子さん。貴方のウダウダどうでもいい話は、署で聞かせて下さいね。」
と言って、警察官の一人がパチンと由芽子の両手首に手錠をかける。
由芽子の細くて折れそうな腕からは、数本もの躊躇い傷が見え隠れしていた。
恐らく、何度か自殺未遂をしてきたのだろう・・。
「ちょ・・ちょっと待ってよぉ・・。
おっ・・お願いですぅ・・。
私、どんな極刑も受けますから・・
どうか・・一つだけお願いを聞いて下さいよぉ・・。」
と、月野マリアが警察官に向かって必死に懇願を始めた。
既にクスリでトロンとした瞳を何とかかっぴらいて涙目で訴えていたマリア。かなり必死だ。
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