第4話 条件交渉
「片桐さん。来ていただいて有難うございます。
貴方が来て頂ける事を、心よりお待ちしていました。
実は、貴方に頼みたいお仕事があります。
此処にいる月野マリアは、官能専門の天才ストーリー作家です。
彼女の仕事を最大限に生かすためには、彼女自身が官能を体感しながら書くことです。
ストーリーを組み立てるには、やはり自身が体験して体で感じる。これが一番だと思います。
しかし、実は彼女。
度重なる性交渉に伴い、梅毒にかかってしまいました。
もしかしたら、余命幾ばくも無いかもしれません。
彼女自身が性交渉をすることは、大変危険になります。その為、彼女はAVの道を退く事になりました。
表向きは、ストーリー作家転身と伝えてありますが。
正直、彼女の性病が原因で仕事が出来なくなったという理由もあります。
AVを引退すると、ソープなどの風俗に転身する女優は沢山います。
しかし、彼女にはその選択肢もありませんでした。
残り少ない余命の中、
彼女自身。一体、自分に何が出来るのか模索し続けたのです。
彼女の中のエロの世界を、もっと別の形で世に送り出す事が出来ないのか・・。
そして、考えついた結果「脳内で産み出されるエロスをストーリーとして組み立てる。そして、新しい官能の世界を開拓することに今後は費やしたい。私が生きている限り。」と、言い出したのです・・。
ストーリー作家。月野マリアの誕生です・・。」
佐藤雪が、淡々と答える。
それを、月野マリアが「佐藤さーん、着色しすぎーっ!あははは!私そんなこと、まじ言ってねぇーし!」と、指差して突っ込んでる。
何かもう。
誰が本当のこと言って、嘘言ってるのかさえもわからなくなってきた。
そんな私の不安を他所に、佐藤雪は顔色一つ変えることなく話し続けた。
「そんな訳で、月野マリアの素晴らしき作品を生み出す為に。
今から、片桐さんと咲子さんには。
月野マリアの目の前で、性交渉して頂きます。」
佐藤雪のあまりに際どい話に、私は一瞬たじろいた。
ちょっと待ってよ。
あのさ、私。
さっきから何度も言ってるんだけど処女だっちゅーの。
処女に対してイキナリ公開性行為とかさぁ。ハードル高すぎるにも程があるんじゃない?
私が今まで胸を見せた事がある相手なんて、一緒にお風呂に入った親かお医者さん位なんだけど?
そりゃぁ。片桐君の事は大好きだよ。でも。でもさぁ。
私は、片桐君と順序よく愛を育んでゆきたいの。ね?
だって、男ってさぁ。
いきなり女を抱いてしまうと途端に冷めるっていうじゃない?
だから、簡単に体を許してはいけないのよ。
っ・・・て、何?
片桐君。元々私の事なんとも思ってないのに引っ張ってもしょうがないって?
それは、相手が私に興味があって追いかけられてる時に限って有効だって?
私がやっているのは、単なる恋の一人相撲なのであって。
相手の気持ちを全く推し量る事なく、ガンガン好意を言うだけ言って。
でも、体は許さないとか。男にとっては、拷問にすぎない?
本当はね。
心の底から、彼に抱かれたい気持ちで一杯で。
毎日毎日。妄想が尽きない位よ。
多分私の脳内を、片桐君に公開したらきっと逮捕されるんじゃないかって位変態だと思う。
しかし、佐藤雪の台詞に臆する事なく片桐君は淡々と切り替えしたのだ。
「佐藤さん。月野マリアさんは梅毒で余命幾ばくも無いと聞きました。
しかし、それは本当ですか?」
佐藤雪の表情が、一瞬曇った。
なのに・・・なのにぃぃぃぃ!」
「梅毒で死ぬ人は、現代では限りなく少なくなっていると聞きます。
それは、戦国時代の話です。病院に行ってちゃんと治療すればちゃんと治ると聞きました。
また、もし放置状態位で3ヶ月程すると、顔にブツブツの症状が出ますし髪も禿げてきます。まだら模様のバラ疹というものも出ますし、指や顔の一部分が腐ったりします。
月野さんって、病気が原因でストーリー作家になったと聞きましたが。
月野さんの最初の作品、確か映画になりましたよね?
実は、当時の彼女と見に行ったんですよね。あれ、本当にいい話でしたけど・・。
確か原作を作ったのって、一年以上前ですよね?
確かに、月野さん顔色悪いし挙動不審ですが・・。梅毒のソレでは無いと思うのです・・・。」
さすが、片桐君。
校内ナンバーワンのイケメンモテ男だが、比例してヤリチンなだけあって性病にも凄く詳しい。
いつも、彼のヤリチン武勇伝を得意気に聞かされる度に憂鬱だったけど好きだから我慢してた。
きっと、こんな話が出来るのは女の中では、私くらいだ。
それくらい、私はきっと彼にとって特別なんだって。
なるべく、いい方向に思い直す事にしていた。
でも、この時だけは逆に惚れ直してしまった。
佐藤雪に堂々と性病の知識を伝える片桐くんが、益々眩しく見えたのだ。
「ちょっとおおお!佐藤さん!もういい加減適当な事ばかり言うの辞めてくださいよぉ!私は、ただのクスリ中毒だっちゅーの!」
と月野マリアが叫ぶなり「ちょっとおおおおお!」と、物凄い剣幕で佐藤雪が慌てだした。ずっと一糸乱れぬ冷静沈着ぶりだった佐藤雪が、突然慌てだしたので私と片桐君は一同にビビってしまった。
「月野!こんなに私が必死にやっとの思いでずっと庇ってきたのにぃぃぃ!クスリの事だけは・・クスリの事だけは、絶対に言うなってあれほど言っただろうがぁぁぁぁ!
ずっと、貴方が薬物中毒で絶対に辞めようとしないから・・私はずっとどうやって隠せるのかって、悩んで悩んで・・・
そうだ、性病にすれば貴方をAV業界から引退させる事が出来る・・・・
今の状態も、性病という事にすればバレたとしても世間から同情される・・・
むしろ、薬漬けで死んだとしても悲劇のヒロインとして崇められ続ける・・・。」
やがて、月野マリアと佐藤雪の激しい言い争いが目の前で始まった。
「おまえは、いつも私の事を金になる道具としてしか見てねぇだろぉぉぉ!」
「月野!落ち着きなさい!
ほら、またそうやって興奮したらクスリが必要になるだけじゃないのぉぉぉ!」
「うるせぇぇぇ・・うっ・・うわぁぁ・・たっ・・大変・・佐藤さぁん・・向こうから青い男が来る・・。青い男が・・。」
月野マリアの体が、途端にガタガタと小刻みに震えだした。
「月野っ!おっ、落ち着きなさい!
きっと貴方が見ているものは幻覚です!
青い男なんて、ここにいません!
今日は、いつもよりクスリを多く飲み過ぎちゃったのよ・・。」
「いっ・・いや・・青い男が、私を襲いに来た・・。たっ、助けてぇぇ・・!」
月野マリアが暴れだした。
佐藤雪、私、片桐君の三人で月野マリアの動きを抑えこんだ。
やがて月野マリアは、目に涙を浮かべ口からヨダレを垂れ流し「ぎゃあぁぁ!」と、声にならないような激しさで部屋いっぱいに叫び続けた。
ふと私は、ドアの方に人影を感じて振り返った。
すると、青いシャツを着た50半ばの中年男がポツンと立っていた。
「雪・・。由芽子・・。」
と男が言うと、佐藤雪の顔は途端に真っ青になった。
「なっ・・なんで、貴方がここに・・。」
冷静沈着な筈の佐藤雪さえも、途端にガタガタと震え出した。
「久しぶりだな・・。雪・・。」
少しの間、沈黙が起きる。
男はボロボロの服に身を包み、ほぼホームレスのような姿だった。髪や顔は、おそらく何日も洗ってない様子だった。
ほんの少し生ゴミのような異臭がプンプンした。ほぼホームレスというより、やっぱりホームレスなのだろう。
この男は、一体何者なのか・・?
「お前が家を突然飛び出したのは、正直・・俺が悪かったと思う・・。
しかし、もうこれ以上デタラメばかり他者に吹聴しては金銭を稼ぐような真似だけは辞めてくれないか・・。
そして、自身の快楽の為に人々に無理矢理性行為を強要することも辞めなさい・・。
いくら、お前が他人の性行為鑑賞が趣味だからって。
旦那の俺や、娘の由芽子にまで近親相姦まで無理矢理させて・・。
俺は何度も辞めたかったのに、「やらないと、てめえらぶっ殺すかんな!」って、包丁持ってお前が暴れるもんだから・・。
それに・・お前はお前で、由芽子が産まれてからは指一本俺に触れさせようとしなかったじゃないか・・。
俺の行為が下手なのは、俺が悪かった!
「もう、うんざりなんだよ!めんどくさいし、相手したくないの!」と、お前が逆ギレするのもわかる。
でも、だからといって。
親が実の娘を差し出しても、いいものなのかよ・・。
俺自身も、正直性欲ガマン出来なかったのが駄目だったんだけど・・。
でも、実の娘で処理をしてしまおうと思うなんて・・。
あれから何度か、自責の念に駆られたが。
自分に結局負けたんだよ、俺は・・。
俺も、雪も犯罪者だよ・・。
由芽子は、私達夫婦の最大の被害者だ・・。
なぁ。雪。俺達、自首しよう・・。
今までの事を全て、警察に話そう・・。
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