第11話「メガネ成分が足りないと思わないか?」
森を出て、三十分ほど舗装された道を歩くと、建物――いや、壁が見えてきた。
およそ十mほどの高さの壁が街を包むように広がっている。よく見ると、ところどころはまだ建設中のようで、逞しい男達の声や工具の音が響いている。
壁門の前で立ち止まり、ふと見上げてみると壁は高くそびえ立っていた。門の上には「コルンバ」と文字が彫られている。これがこの街の名前だろう。
「ボーっとしてると置いていっちゃいますよー」
壁を見上げているうちに、チコナとレイマンは随分先を歩いていた。
慌てて二人に追いつこうと駆け寄り、門をくぐると――
目の前には活気ある街が広がっていた。
町中はとても賑やかな喧騒を呈しており、活気に溢れている。
石畳の地面は舗装がしっかりとなされており、その上を音を立てながら進む馬車が目の前を横切った。
分かっていたことではあるが、ここは日本とは全く異なる世界。
あたりを見回すと、視界に入る人々の髪は色とりどりで、むしろ俺の黒髪が目立ってしまうのではないだろうか。
そして、鎧や踊り子、ローブといった服装が、いかにも中世ヨーロッパを基本にしたファンタジーの雰囲気を醸し出していた。
「すげえ……」
思わず感嘆の声が漏れた。
それが聞こえたのか、チコナがこちらをちらりと一瞥し、何か言いたそうに口元をムニムニさせている。
しかし俺はそんなチコナを気にするでもなく、目の前に広がる光景に目を奪われていた。
これだよ、これが異世界転生だよ。なんで俺は転生して森にポイってされて、そのまま何度も死にかけたんだ。きちんと街からスタートしてチュートリアルを――
そこでふと、気づいた。
「やっぱり、メガネっ娘はいないんだな……」
確かに美人やかわいい女の子はいるが、誰もメガネをかけていない。
アウロラが俺をこの世界に送る直前に、メガネっ娘が大勢いるという話は嘘だと暴露していたが……。この目で確かめて、この世界の現実を思い知った。
「何言ってるんですか」
「あ、ごめん。でも、メガネ成分が足りないと思わないか?」
「な、何言ってるんですか……」
チコナの魅力的な目が冷ややかな視線を向けてくる。
やめて、そんな目で見ないで。さすがに傷つくから。
そんな俺たちのやりとりを気にも留めず、前を歩いていたレイマンが後ろを振り返って俺達を呼びかけた。
「チコナ、ケイタ、こっちだ。まずはギルドに向かうぞ。採取してきたキノコを届けるだろ? それにギルドに報告して倒したモンスターも回収してもらわないとな」
チコナが頷いたのを見て、俺も同じように頷く。
再び歩き出したレイマンの後ろに付いて行きながら、チコナに小声で提案してみる。
「なぁ、チコナ。レイマンに頼んでみろよ」
「何をです?」
「パーティーを組むこと」
「な、なななんでですかっ」
「強いし、頼りがいあるし、人柄も良いし、チコナとも相性良いと思う」
「むぅ……」
頬を膨らませて唸るチコナだが、本心では悪くないと考えているのだろう。しかし、一歩踏み出せないようだ。
「あの人、私の事を子供扱いするじゃないですか」
あぁ、またそれですか。
「まぁまぁ。あれはたぶん冗談のつもりで言ってるんだよ。実際、一頭目のイノシシを倒した瞬間を見ていたらしいし、チコナの事を本気でただの子供だとは思ってないって」
「むぅ……」
まだ何か気になることがあるのだろうか? それとも単に、この子は人見知りなのだろうか? 俺には気さくに話しかけてくれたり、いろいろ世話してくれたわけだし、そうとは考えられないのだが。
……あれ、もしこの子がいなかったら俺、どうなってたんだろう。
ふと、こちらの世界に来てからの数時間を振り返る。
森でさまよった挙句、巨大なイノシシに追い回されて、運良く逃げられていたとしても、その後で無事にこの街にたどり着けたとは考えづらい。
悪い結果しか想像できず、身震いした。と同時に、チコナの存在をとてもありがたく感じた。
「着いたぞ」
レイマンの声にハッとして、目の前の建物を見上げる。
その看板には「冒険者ギルド」と書かれていた。
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