歓喜を鳴らす
俺が“あの人”を初めて見た時は、まだ俺が小学生低学年の時だった。その時の光景は今でも目に焼き付いている。あの人のドッジボールをする姿が、あの球の速さが、そして容赦無く笑うあの無邪気な笑顔が。
俺はその時、強烈な印象を抱いたのだ。一生忘れられないくらいの印象を。あの日の光景は今際の際になっても覚えている気がする。それほどまでに、あの人は光輝いて見えた。それはまるで、この人の人生に俺も吸い込まれるかの様な感覚にも思えた。不思議な感覚であった事は確かだ。
あの人の後を追いたくて、俺はドッジボールを熱心に研究し体も鍛え、肩の筋力もとにかく鍛えた。その為に、少年野球にも入ったりもした。その少年野球チームには、あの人と肩を並べると称される程の身体能力を持つ先輩もいたりした。名前は
「いつかプロのドッジボール選手になって、洋介先輩と戦うのが夢なんだ」
俺が小学校高学年に入ったばかりだろうか、俺は周囲にそう豪語していたのを覚えている。というか、嫌でも覚えている。“あの人”こと、
「なんだ、
確かに俺は熱くなると周りが見えなくなる。悪い癖だと今でも思う。だがしかし、当時の俺はそんな自分の長所たる部分にも全く気付かず欠点だと思い込んでいた。これまたその様な自分を見抜いていたのも、ロク先輩ただ一人であった。素晴らしい先輩である。ついていくなら正しく絶対にこの人である。
「えっと……バスケ? っていうとあれですか、あの漫画で有名な」
だがしかしだ。例え道が間違っていたとしても、追い駆けたい人がいるのだ。そう思えるくらいの人と俺は出逢ってしまっていたのである。その道が例えどんな困難な道で在ろうとも、俺は構いはしない。
「そう、バスケット。何でもミニバス? の全国大会に行くんだってよ。まぁ洋介だからなぁ。どうせ優勝して帰ってくんだろなぁ」
そう言ったロク先輩の顔は凄く良い顔をしていた。本当に良い顔で笑っていたんだ。何時も俺が先だとも言っていた顔も、最高に格好が良かった。その先には誠見事な優勝旗がホームベースの裏のフェンスに突き刺さっていた。全国優勝と刺繍された文字が風になびいて、これまた何とも言えない気持ちに俺はなった。
「お前なら今からでも遅くはないだろ? お前のスポーツセンスは俺のお墨付きだ。行って来いよ、バスケに」
そして俺はずっと勘違いをしていたドッジボールを辞め、好きになりかけていた野球をも辞め、バスケットボールの世界に入ろうとした。ミニバスのチームに入ろうともしたが、ドッジと野球の月謝、及びそれに関する費用諸々を親に請求され泣き寝入りするする他は無かった。何せ、真剣に“ドッジのプロ選手”になると言っていたものだから、この時の親の気持ちは痛いと言うほど分かる(今だからこそ)。その為の少年野球でもあったから尚更だ。言ってしまえば、ヴァイオリニストになると言っておきながら高い楽器も環境も全て整えて貰ってからの、何故かのストリートミュージシャンを目指す様なものだ。何故かのアンダーグラウンドに潜ってのHIPHOPで食っていく様なものだ。正に、今まで手に付いた職を台無しにする様なものなのだから。俺はその選択をしたのだ。そして、その選択はやはり間違っていた。
「ああ? 誰だよお前。
俺が中学一年になった時、“あの人”は変わり果てていた。その顔に無邪気さは無く、何処か笑いながらも必死に何かを訴えかけている様にも思えた。というか、俺には泣いている様にも思えた。
「バスケがしたいなら勝手にやれば。“何人”かはいるよ。まぁどうせ今年は負けると思うけど。ってかさぁ、お前“ロク”のとこにいたんじゃないの? そっちいっとけよ、こっちに来んな」
覚えていないと言っておきながら、覚えているのである。それがこの人の優しさだ。それはこの人の変えたくても変わらない性格だ。だから俺は惚れたのだ。あのロク先輩よりも。
あの日、この俺に、友達さえもいなかったこの俺に、この人はスポーツを教えてくれた。他人と共感する事が喜びとだと言う感情を初めて俺に教えてくれた。何でもない俺に何も出来ない俺に、何もかも劣っているこの俺に、この人は無償の愛を与えてくれた。親さえこの俺を疎ましく思っていたこの俺を。精神的未熟児のこの俺を……。
だからこの時、あの人に絶望を感じた。久しぶりの絶望だ。いいや、俺自信の絶望だ。もう、あの時の“あの人”はいないと感じてしまったからだ。“どう仕様も無い”感情が俺の人生を再び覆ってしまった日でもあった。
――だがしかし。その絶望は果たして中学一年の夏であったか。いいや夏の終わり、秋の始まり頃であろうか。俺は、あの人と渡り廊下ですれ違う事となる。別に偶然である。本当に偶々である。待ち伏せなんてものはしてはいない。ただ本当に偶然なんだ。『あの人達』に何かあったなんて事は俺は決して知らない。だけど俺は待っていた。ずっと待っていたんだ。だから偶然なんだ。そして、すれ違い様にあの人は俺にこう言った。
「やーやー、士郎。元気か? もしお前が、俺についてきたいと言うなら来るといいよ。次はドッジじゃなくてバスケを教えてやるかんよ。随分と待たせたなぁ。それにあれだよ、俺は“ロク”より凄いんだよ? なにせ俺の方が足は速いんだから」
そう笑いながら、俺の肩を叩いてあの人は去って行った。その笑顔に俺は見覚えがある。あの時と一緒だ。あのドッジボールをしている時と、孤独に怯えていた俺を無理やり遊びに誘った時とまるで同じ笑顔だった。
『おまえさー、いじめられてんの? まぁおれもその経験あるからいうけどなー、椅子に座って机の上で寝たままじゃ何も変わらんかんね。おまえ弱そうだけどおれらのチームに入れてやるからさ。だから少しは役にたてよな? あといじめはおまえがどうにかしろよな。とにかく遊ぼうぜ。きっと楽しいから、楽しい思いさしてやるかんね!』
その背中は、まるで昔と変わっていなかった。理屈抜きの言葉では形容も出来ないその背中は、本当に久しぶりで俺は泣きそうになった。そう言えばあの時も俺は泣いていたかな。あの時に、俺はあの人の後を追い続けると心に決めたのだ。洋介先輩に一生ついていくと。
そして……今、俺はあの人のバスケットボールを、あの人の轍を、追い続けるとそう改めて心に決めた。だからこその、今の俺がここにいる。俺こと、高校一年になった
「久しぶりだな、“この場所”」
「“三年振り”か? お前と島が可愛い女の子探しまくってたな」
「俺は探してねーよ。翔だけだろ、それは。俺は今も昔も美代ちゃん一筋だ」
「いやいや、島も探してたよ? それで明は気怠そうに見てた」
「そーいう洋介も女を見てたからな。俺はコートを見ていただけだ。あの時は観客席だったけどよ」
「まぁ、今は違うな。少なくとも俺達はコートの上に立っている」
「そーいうミネは、あの日何してたの? ってか明、俺は女は見てないからね。バカなのか君は」
「俺は勉強。
「おお、でたミネの由利姉! 噂の大学生の姉ちゃん!」
「馬鹿が。もう大学生じゃねーだろ。俺等もう高三だぜ?」
「結婚したんだっけ?」
「結婚じゃねーよ、婚約な。まぁ……でも良かったよ。良い相手が見つかって」
「こう言ってるけど、去年その話聞いた時のミネは泣いていたからね。俺は初めて見たよ、ミネが泣くところ」
「そりゃあ意外だ。嬉し泣きか?」
「いやあれは悔し泣き」
「おい、洋介。お前どつきまわすぞ、いい加減にしとけよ」
「いい加減にするのはお前等全員だ。もうアップの時間始ってるだろ。予選の一回戦だからって気を抜くな。……負けたら最後何だから。さっき翔も言ってただろ。ここから始まるって。もう負けられないんだよ、俺達は」
『うす、キャプテン!』
「ゴリポンー、今度こそは安心しろよ? 俺がいるかんね」
「抜かせあほ。でもまぁ、期待しているからな」
「あはは。ありがとう。見せてやろうぜ、“俺達のバスケ”をさ」
「ったりめーだ! もう洋介を泣かせはしねーよ。悔し涙でな」
「相変わらず偉そうで」
「お互いさまだろ?」
「いいや。ゴリポンとロクだけは別格。本当に昔からそう。もう慣れたけど」
「お前がそれだけ心配って事だ」
「だからそれが偉そうって言ってるんだ、ばーか」
“西京極総合運動公園”。その一角にある体育館に俺達は集まっていた。先輩達の話を聞く限り、ここはどうやら先輩達にとっては心残る場所でもあるらしい。といいつつ、俺は全てを知ってはいるけれども。かと言って、別に調べた訳でもない。自然と俺の耳に入ってきたのだ。本当に自然にだ。
洋介先輩の一言に
洋介先輩曰く「ヒーローは遅れて登場する」。曰く、進学したこの高校には厳しい校則があり、『バスケットボール部』を作るには十人以上との校則があった。そして何故かこの高校にはバスケ部が無かったらしい。その原因は……調べると確かにあった。今から五年前に一人のバスケ部員が亡くなっていたのだ。当時、洛連高校のバスケ部には十人にも満たなかった人数で予選決勝まで行った事があるらしい。少数精鋭、その言葉が似合うほどに当時の大先輩は切磋琢磨していたとか。だけどバスケットボールの練習はかなりキツイ。そして人数が少ないと言う事はそれ程練習に負担が掛かるし、試合となれば尚更だ。練習試合中に、熱中症で倒れたらしい。そしてそのままだ。……交代人数も限られた中で、尚且つその選手は中心的存在であったと聞いた。所謂「エース」だ。その重圧もあって休むことをしなかったのかも知れない。
ゆえに、学校はそれ以降バスケ部をその年の卒業生と共に休部(事実上の廃部)。復活には五人のスタートメンバーの倍、最低でも十人と定めたらしい。それが教育委員会と学校共々決めた校則であった。
そして、俺はそこで登場したのだ。先輩達が海外にてその心技を磨いている間、俺は現れたのだ。一概の不安はあった。もしかしたら洋介先輩はまた俺を忘れたフリをするんじゃないかと。いいや、違う。一概の不安とは……あの人達は前に向いたならば、本当に前しか向かない人であるからいつも肝心な事を忘れてしまうのだ。あの人達は本当に昔からそうなのだ。つまり十人目を忘れている。もしくはバスケ部というものがもうあるものだと思い込んでいる。そのどちらかだ。後に一つあるとすれば、“楽し過ぎてそのどちらも忘れている”。これが濃厚だと俺は思っていた。
事実、そうであったから。――昔からみんなそうだった。ドッジボールをしている時もそう、目をキラキラと輝かせていた。だけど決められたルールを守る人なんていなかった。大概は当たっているのにぎりぎりで躱したと言い出す始末。バイクに乗っている時もそう、無免許なのではと俺は一度聞いた事がある。返って来た言葉は『俺達が法律を作る』だった。そう言えば、バスケの練習をしたいが為に昼から体育館を占領してはあの人達のせいで俺達中学一年生の全ての体育の授業が中止になった時もあった。唯我独尊と言えばそうなのかも知れない。だが無謀でありすぎた。去れども今は思う、勇猛果敢な愛すべき馬鹿な先輩達であると。決して後ろを振り返らず、進むべきと思った今を進む。正に“刹那に生きている人達”であった。時に眼をギラギラと輝かせながら、我が道を行くこの人達が俺は好きであった。その中心にいたのは俺の愛する先輩、山岸洋介先輩である。
そして二回目ではあるけれども、洋介先輩の弟分であるこの俺こと横井士郎こそが、「洛連高校バスケ部」を作った根本たる“十人目”の人物だ。この先の救世主たる存在となる者だ。そして案の定、先輩たちはその十人という校則を忘れていた。俺は正しく先輩達のヒーローとなったのだ。斯くて、ヒーローは遅れて登場するのが昔からの習わしなのである。この時、俺は少しだけこの人達の役に立てた様な気がした。
「負けたら最後。トーナメントってのは分かりやすくて良いよな」
「ちげぇねぇ。翔、最初からぶちかまして行けよ? お前が切り込み隊長なんだからよ」
「えー翔なのかよ。最初は俺だろ」
「洋介はそう言っていつも外してるじゃねーか」
「そーいう明も最初は絶対落てるけど?」
「ところで悠花先生、スタメンは?」
「おいミネ。お前はなんでいつも下の名前で呼ぶんだよ、ぶっ飛ばすぞ。悠花先生を悠花先生と呼んでいいのは俺だけなんだよ。由利姉に振られたからって、お前は本当にいつもそう」
「いや……意味分からないからなお前」
「はいはい、みんな少し静かにして。スターティングメンバーは、センターに中島君に鷹峰君。次にフォワードに玉木君に滝沢君。玉木君はセンターフォワードね。最後、ポイントガードに横井君。以上よ。基本的には今のメンバーをスタメンにするから。中を厚くします。文句は受け付けません、以上」
「いやいやいや、センター二人かよ! 何となく分かるけど! シューターは必要だろ!」
「そもそも、俺いねーじゃん! 斬り込み隊長でもあるこの俺が! というか主役のこの俺が!」
「いや、主役は俺だから。ってかなんで士郎なの悠花先生! ガードは俺しかいないじゃんか!」
「この三人は何となく分かるけど、俺を外すとは中々の采配。その意図は先生?」
「はい、うるさいですよ。文句は受け付けないって言ったでしょう? だって君達連携悪いし、立ち上がりはいつも遅いし、そもそも口ばっかだし。昔は上手かったのかも知れないけど、今は通用するかは分からないでしょう? いくら海外のストリートでやってきたからといって、そもそも試合何て久しぶりなんだから。これは勝つ為の手段です。まずは現場の空気に慣れる事。……きっと君達には初めての感覚のはずだから」
「先輩! 俺、先輩の変わりに頑張って見せます! 見ていて下さい、この横井士郎の活躍を!」
「あーはいはい。頑張ってちょんまげ」
「はいっ! 頑張ります!」
「あいつさー良い奴だよな」
「士郎? まぁ、うん」
「けーっきょく、俺等はベンチかぁ。仲良くしようぜ、翔太君」
「何が仲良くだ。折角……やっと立てると思ったのによ」
「君達がコートに入るべき瞬間は今じゃないのよ。それは皆も分かっているから。時が来れば君達を頼りにするから、そう不貞腐れないでね」
「……悠花先生。ミネは何となく分かるけど、なんで俺じゃなくて士郎?」
「あら、私から見たらあの子は凄いバスケット選手だと思うけど? ズバ抜けているとは思わない? 彼はまだ高校一年生。それでいてあのスキルとポテンシャル……彼自身が尊敬する誰かになりたくてしょうがなかったのかもね」
「尊敬ってあいつ誰を尊敬してるんだ?」
「さぁ、アイバーソンとかじゃね」
「いやあのプレーと髪型、多分ロッドマンだ」
「そっちかぁ、変な奴。昔から変わってる奴だと思ってはいたけれど。そこは普通、俺だろ」
「……とにかく君達を二回戦も三回戦にも出す予定は無いから。これは勝つ為だと思ってね。私も負けるのは凄く嫌だから」
そう言った時の悠花先生の横顔を、俺は何故か今でも覚えている。本当に負けるのが嫌だと伝わってきたからだ。それは俺も同じであった。そしてその目に、俺は俺と同じものを感じた。“負けず嫌い”の目だ。
次もその次も出さないと言われた時、俺達はうるさく喚いていた。しかし喚く俺達を尻目にチームは勝ち続けた。それもそのはずであろう。例え俺達が出ていなくても、俺達は強いのだ。ずっと燻り続けていた者達が、ようやく晴れの舞台に出たのだから。そのエネルギーは誰にも負けやしない。それに……ゴリポンやタマ、サトルが弱い訳なんか無い。普通以上に強いのだ。それも時には俺達以上にだ。ゴリポンは一級のセンター選手だ。タマも動きは遅いけどパワーは凄いし、不屈の闘志を持っている漢だ。サトルはそれなりに普通だ。だけど三人とも共通して言えるのが“バスケの基本”が巧い。巧すぎるのだ。それは一種の才能だ。俺達にはない物でもあった。何かに特化し過ぎた俺達が唯一持てなかった物をこの三人は持っていた。
チームは連勝を迎え、準決勝にまで到達する。相手は
「……みんな。今日までよく勝ち残ってくれました。偏に言って、これはみんなが勝ちたいと思ったからこその今日でもあります。でも、今日の相手は君達も良く知る相手です。名は洛真。高校バスケットボール界の絶対王者よ。奇しくも、今年の男子バスケットボールは群雄割拠と言われています。メディアの注目も歴史上最多と言ってもいい程に。中でも注目校は、福岡天神、東京第一、秋田明島川……だけどそれはあくまで絶対王者でもある“京都洛真”に対する対抗馬としてのもの。中でも有力なのは明島川だけどね」
「ああ知ってる、天才バスケ少年。神の子と言われる高校生プレイヤーの
「天才ってか。むかつくなぁ。なんかこう耳につく」
「バカ、それを言うなら鼻につくだ」
「明島川……“全中優勝”を果たした主力メンバー三人がいる所でしょ。それに秋永涼……俺は知っているな。ってかミニバスの時みんな当たった事あるじゃん」
「まじ? そうだっけ」
「洋介にしつこく当たってた奴だろ。お前と似ているって思ったよ」
「何処がだよ、ミネ。あんな奴と俺を一緒にするな。俺は俺だけなんだよ」
「とにかくよ、今日の相手はその京都洛真高校。誰もが洛真の勝利を信じて疑ってもいなければ、日本中の男子バスケット選手が洛真と戦うのを夢見ている。『次こそは自分達だ』ってね。メディアもそう報道して過熱しているの。私がね、何故君達をここまで温存していたか分かる? 洛真の監督は、
「えーと……なんか嬉しそうだね。悠花先生」
「おう、怖い」
「なんかな」
「男にふられたとか?」
「いや、生理とか」
「えー! 悠花先生、彼氏いたの!」
(もう面倒くさいな、この子達。でもまぁ、今は言わない方がいいかな。ねぇ真理さん……)
「とにかくよ。君達は“それ”を打ち倒すの。絶対王者たる洛真を。そうしたら世界は君達を見つける、認識してしまう、初めて君達と言う存在をね。私なりの最高の舞台を用意したから。山岡監督は勿論今回の対戦相手である私達を調べてるわ。でもその中に君達はいない。何故なら私が君達を出さなかったから。色々とフラストレーションは溜まっているでしょ? いいかな……『今日、初めて君達は舞台に立つ』。だから行っといで。この世界に自分達は“ココにいる”と叫んで来なさい」
(私はそれが出来なかったから……)
「スターティングメンバーを言います。センターに鷹峰君。あ、鷹峰君は臨機応変にね。それから、フォワードに星野君に村川君。星野君は鷹峰君の変わりもしてもらうから。村川君はとにかく打ち抜いて。シューティングガードに上代君。とにかく走ってね。そして、司令塔は……山岸洋介君。立派にポイントガードの務めを果たして下さい。以上です。もう文句は、受け付けませんからね?」
『はいっ!』
「色々と、欠点がある編成だと私は思います。ですがこれが最大のパフォーマンスを発揮出来るとスタメンだと私は思います。この二年間と少し、私が教え君達がやってきた事の全てをぶつけなさい。それ以上のものも……さぁ、行きましょうか会場に。絶対王者が私達を待っているわ、あくびを掻いてね」
――
『何事も速いが勝ちだ。なぁそうは思わないか、鉄心』
私の前に、彼等は現れた。“最速のバスケット”を私に披露しながら。嘗ての心友の言葉を完璧な程に再現して。これは歓喜なのかもしれない。これ程嬉しい事はない。きっと俺は喜びのあまり震えたていたと思う。心の芯からだ。やはりあいつは約束を破らない奴であった。この日私は、彼等を見てそう思ってしまった。
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