異世界差遣トラックが異世界に召喚された話
塚内 想
第1話
俺は神に選ばれたトラックだ。
俺はただの二トントラックだ。いつものように荷物を積んで目的地の集積場まで走るだけの。そんな俺にある時「意識」が芽生えた。なぜそんなことになったのか誰からの説明もない。
ただ、わかっていることがある。俺に与えられた「使命」だ。いつもの道で人を轢かなくてはいけない。いや、殺すわけではない。この世界とは別の世界にその人物を送るのが俺の「使命」となった。なぜかと言われてもそう命じられたのだから仕方がない。
この先の脇道から子どもが飛び出してくるはずだ。誰かがそう仕向けるのはわかっている。それが神様なのか悪魔のかはわからないが。
俺に乗っているドライバーはその子どもに反応して急ブレーキをかけるはずだ。俺はその反応を少し遅らせて、この体をその子どもに突っ込ませる。そうすればその子どもの魂は異世界に飛んで行くことになる。この世界に体を残したまま……。
仕事はあっという間に終わった。
俺の体の下敷きになった子どもにはまだ息があった。だが、それもあと数秒のことだろう。やがて呼吸が止まる。心臓も、脳も、そして意識も……。それで俺の仕事は終わりだ。きっと事故車としてスクラップにされるだろう。それが俺の運命だ、受け入れるしかない。
ただ、ドライバーは気の毒だ。この人は普通に安全運転をしていたのだ。それが俺に「使命」が降りてきたために一転して犯罪者だ。事故を起こした運転手として可能な限りの処置をはたしたとはいえ刑事、民事の責任を負い、行政処分を受けることになる。申し訳ないがどうしようもない。
そして、この子どもの親に対しても。俺は結局会うことはなかったが……。
……あれから十年。まだ俺は荷物を積んで公道を走っている。あの時、俺はなぜかスクラップを免れた。廃車登録されることもなくいまだに現役で走る続けている。そして、例の仕事も続いている。神様だか悪魔だかはまだ俺にあの後味の悪い仕事を続けさせている。俺はそれに抗うこともできず指定された人を異世界に「差遣」している。
その都度、なんらかの力が働いて俺はスクラップも廃車も免れて中古車として売りに出され、すぐに買い手が見つかる。そして新たなドライバーを乗せて誰かを差遣させていく。
もう何人、送ったか分からない。二百人くらいから数えるのもバカバカしくなった。
そんな俺もついにお役御免の時が来たようだ。
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