24 Hey, my Buddy!(3)
クレアからの話を聞いたエイラはワイアットを自室に呼び、二人きりで話そうとしていた。クレアのした話は、あまり部外者に聞かれたくない内容であったからだ。
ワイアットについて説明されたこと。その内容に、エイラは混乱を隠せない。クレアの話した内容は、ワイアットの存在は、それほどまでに異質だったのだ。
「ちょっと確認させて。君は、過去の記憶は曖昧、なんだよね。で、先月倒れた時に、その一部を思い出したんだよね」
「うん」
「でもって君は、ルーイさん達と一緒に育って、戦っていた、んだよね。元々聖戦士だったから、身体が覚えてるから、成長が早かったのね。なんか納得したわ」
「僕、そんなに異常だった?」
「少なくとも、初任務でエアに動じずに動けて。初めて扱うはずの波動靴をあそこまで使いこなしてエアの鼻を絡ませて。一ヶ月で隊長クラスに一気に近付いて。この時点で普通じゃないわよ」
ワイアットが聖戦士に登録されたのは二ヶ月前だ。初任務ではエアを初めて見たはずなのに怯える様子もなく、さぞ当たり前のように戦って見せた。波動機と波動靴を完璧に使いこなして見せた。
そして先月には、エイラと二人でルーイの援護に行くまでに成長した。初見のエアということもあってエイラほど簡単に倒せはしなかったが、見様見真似でエイラの攻撃を再現して見せた。一見しただけで技をモノに出来るのは普通ではない。
ワイアットの異常さに、エイラは心当たりがあり過ぎた。少しコツを教えただけで、すぐに波動を発動出来た。ルーイが波動機の扱い方を教えれば、エイラに劣らない実力で戦うことが出来た。身体が戦い方を覚えてる、という表現がしっくりくるくらいに異常な成長だ。
クレアは「人造聖戦士」というワードを隠して、ワイアットという存在について説明した。過去の記憶がないこと、過去の記憶を思い出すために戦っていること。そして、いつか地上都市アトランティスに帰ること。
エイラはワイアットの顔をジーッと見る。雪のように白い髪。この世界では遺伝的にはありえないとされている赤い目。先月の任務の様子から、聴覚にも優れていることがわかる。
「君の故郷は地上都市アトランティス、なのよね?」
「そう、みたいだね。残念なことに僕は覚えていないけど」
「……地上都市アトランティス。赤い目。変な形の波動機……」
ワイアットの返事に、エイラはブツブツと何やら呟き始める。時折指や手を動かして必死に何かをしている。その様子は何かを思い出そうとしてるようにも見えた。
「私は、知ってる。アトランティスのことも、赤い目のことも。きっと、ワイアットは……だって、そういう、ことよね。そうじゃなきゃ説明出来ない」
「さっきからブツブツ言ってる所悪いけど、僕にわかるように話してくれない? エイラの心が読めるわけじゃないんだからさ。話してくれなきゃわかんないよ」
「知ってるわよ! もう少し待って。あと少しで考えがまとまりそうだから」
ワイアットが話すように促すもエイラは思考を止めない。必死に頭を回転させ、クレアからの話と目の前にいるワイアットを、そして自身の過去とを繋げる。
「……ワイアット」
「何?」
「これから私が知る質問に、わかる範囲でいいから答えてくれる?」
「いいよ」
迷った末にエイラが出した結論は、ワイアットに質問をするというものだった。
「聖戦士として戦っていたかわかる?」
「多分、戦ってた。この前思い出した記憶だと、ルー君と一緒にエアと戦ってたから」
「嫌な記憶とかは、思い出したりした?」
「……少し」
「教えて、くれない?」
「…………『痛覚の実験』とか、言われて。怖かった、ことは、覚えてる」
「わかったわ。ありがとう」
ワイアットの答えを聞くと、エイラは再び思考に戻る。質問されたワイアットに、質問した理由すら説明せずに。
「今の質問に何の意味があるの?」
「私の中の仮説を確証に変えただけ、よ。仮説を説明するには……私の過去について、話さなきゃいけないけどね」
ワイアットに聞かれれば素直に答える。が、その表情は暗い。どうやらエイラは過去について話すのに抵抗があるようだ。ワイアットの脳裏に、いつか見た食堂でのエイラの評判を思い出す。エイラは蔑称で呼ばれていた。
「もしかして、『フィーロニア』ってのと関係ある?」
ワイアットの言葉に思わず目を見開くエイラ。あれはエイラと初めて会った日のことだ。あの時、ワイアットはエイラをあてにする他の聖戦士に怒った。目覚めた後、初めて歩いた日でもある。
「……あるわ。まず、このレガリアでの私の立ち位置について、説明しようかしら」
エイラの顔が寂しげな笑みを浮かべる。儚いながらも美しいその表情に、ワイアットは心を鷲掴みにされるような感覚に襲われた。
「私は、他の地上都市からここ、レガリアに来たの。私は髪の色も目の色も他の人とは違うでしょう? この見た目の珍しさに私を気味悪く思う人もいるの。……私のやってきた故郷は地上都市フィーロン。明らかに見た目の違う私を区別するために、レガリアの人達は私の故郷を使って私のことをこう呼んだわ。『フィーロニア』って」
エイラはワイアットやルーイとは違う経緯で、違う地上都市からやってきた聖戦士。人は自分と違う者を無意識的に警戒し、差別する傾向にある。故にレガリアに来たエイラは市民からの差別対象にされたのだ。そして生まれた蔑称が「フィーロニア」。
エイラの話はまだ続く。ワイアットは真剣に耳を傾ける。エイラの言葉を一字一句聞き逃さないように、集中する。
「私は物心ついた時から聖戦士だった。人生のほとんどは、エアと戦って生きてきた。だから、大半の聖戦士より実力も経験も豊富な自信があるし、実際豊富だったわ。この見た目と、年齢に不相応な実力を持つ聖戦士。きっと他の人には化け物みたいに思えたでしょうね。イメージを変えたくて、人が死ぬのを見たくなくて。任務ではなるべく他の聖戦士を庇ったのよ?」
その結末は、ワイアットがよく知っている。食堂で噂されていた、エイラの話に繋がるのだ。エイラの行動が導いた結末は、平穏ではなかった。
「まぁ結局、他の聖戦士からは『人を守って怪我するのが大好きなフィーロニア』なーんて言われるようになっちゃったんだけど。死にたくない気持ちはわかるけどね。私はあくまで、殉職を減らすとしか思われていないのよ。食堂でご飯食べてると、影でコソコソいう人が誰かしらいるでしょう? 半分は私の見た目による好奇心。もう半分は私の実力や噂を聞いて恐れて。影で馬鹿にしてるの」
「それとエイラの考え、何か関係があるの?」
「あるわ。地上都市フィーロンと、私がレガリアに来た理由。私の過去が、君の存在に関係ある。まさか支部長も思わなかったわよね、私がアトランティスについて知ってるだなんて」
エイラの言葉にワイアットの身体がピクリと動く。エイラの口から「アトランティスについて知ってる」なんて言葉が出てくるとは思わなかったのだ。先程の質問はアトランティスでのワイアットの立場の仮説を確信に変えるためのもの。
「一つ、昔話をしようかな。君と同じ赤い目と白い髪をした、アトランティス出身の聖戦士が出てくる話を。私がその人から習った、アトランティスの技術や知識についても、ね」
そう告げるとエイラは大きく深呼吸をする。何度か深呼吸を繰り返して身体を落ち着かせると、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。エイラの知るアトランティスを語るための昔話を。
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