ウ●ンツ瑛士が秒殺された話。


 以前、私が不在の時に、私の弟が職場に来た事がありました。


 この弟とは短編やこの記録内で、散々無断でネタにしまくっているゲーマーの方の弟ではなく、私と歳が近い方の弟です。三人姉弟の真ん中ですね。ただのお客さんとしてやって来た彼は、用事が済むとさっさと帰って行きました。その際彼の対応をしたのは、私の後輩に当たる男子です。今回はこの男子の、「木元さんの弟さんめっちゃカッコよかった」という言葉に始まります。


 まず伝えておきたいのですが、私の両親は顔がよく似ています。結婚前のデート中のディナーでは店員さんに、「ごきょうだいですか?」と尋ねられた程よく似ておりまして(若かりし母は「他人です」と返事をしたそうですがその言い方もアレ)、つまり子供である私達も、顔がよく似てるんですね。家族全員そっくりさんです。


 だから家族の顔の形がどうと言われても、よく分からないんですよ。似てるから。家族間では子供達が父親似か母親似かの区別は付きますが、その判断基準を他者に伝えるのは困難です。だってどっちも似てるから。だから弟がカッコいいと言われても、ピンと来なかったんです。家族皆そんな感じの顔だから。


 私はその男子の言葉を、上司から聞いたんですが、お世辞だろうと余り相手にしませんでした。ふーん。まあ、感じ方って人それぞれだし。ぐらいの。その日はそのまま、仕事に入って行きました。ですが数日後になると朝一番に、今度は女性の上司や先輩に、ハイテンションで尋ねられます。


「○○君(後輩の男子)が言ってたけど木元さんの弟君ってめっちゃイケメンってほんま!?」


「…………」


 噂となって広まっていました。


 私からすれば子供の頃から見て来た弟の顔なんて、庭に転がっている石ころみたいなものです。珍しくも何ともありません。そもそも自分と似てるんですから。


 でもちょっとした騒ぎとなってしまった以上、適当な返事も出来ないかなと、あくまで私は、事実に基づいた言葉を返します。


「あー……。まあ、ちっちゃい頃からモテてましたね。背も高いし、学生時代は、バスケ部やったからやと思いますけど……」


「そうなん!? 身長何センチ!?」


「さあ……。百八十五はありますよ」


「でっか!!」


 父が百八十センチ前半あるので、木元家では普通の感覚です。私は最近まで、男性とは身長が、低くても百七十センチ強はあるのが平均だと思い込んでました。いや、今でもどこかで思ってますね。家族内の男性陣が長身なので、ついそれを基準にしてしまって。


「顔は芸能人の誰に似てる!?」

 

「えぇ? テレビ観ないから分かんないっすねえ……」


「写真見たいわァー! 見せて!」


「だって男の子が誉めるって事は、ほんまにイケメンって事やし!」


 年齢を重ねた大阪の女性の厚かましさには敵いません。


 そもそも尋ねて来た先輩はバツイチで、上司に至ってはバツニですから、もうそういう事を追い回すのはやめた方がいいんじゃないかと思ったものの、余りにも無礼かと感じ言えませんでした。


 そして同時に思いました。弟の対応をしたのがあの後輩男子君でなければ、上司も先輩も、ここまで熱心にならなかったのだろうかと。


 これは、この騒動が収まってから聞いた話ですが、後輩男子君が弟を褒めていたという話を、最初に教えてくれたあの上司。こちらの上司は男性なのですが、実際に弟と会った事がありまして、女性陣が噂を聞き付けて情報を集めようと職場内を嗅ぎ回っている際、「確かに後輩男子君の言う通り男前やったね」と、補足をしてしまったそうです。


 もう女性陣の夢は止まりません。最早噂は、職場全域に知れ渡っていました。それに私も仕事中に、お客さんにナンパされる事が度々ありまして、その様子を職場の人に見られています。その木元さんの弟となればもう、マジで有り得んぐらいのイケメンに違いないと、職場にただのお客さんとしてANZEN漫才さん(片割れのみやぞんさんで有名)が来店された時よりも、興奮状態になっていました。


 ……こんなにハードルが上げられた状態でいざ写真を見せて、そうでもなかったら流石に弟が可哀相。そう感じた私は、皆さんの弟へ対する好感度調整の為に、彼は自分はモテるからって調子に乗って、絶対オーケーを貰えると自信満々に本命の女の子に告白したらバッサリ振られて、幼馴染の男の子に夜の公園で惨めったらしく愚痴ってたっていう、中学生時代のエピソードを披露してから写真を見せようかと思いましたが、何せ私達、仕事中なんですね。遊んでる場合じゃないんですよ。こんな事してる間に仕事は溜まっていってます。


 なのでもう細かい情報は抜きにして、その場で私はスマホを取り出し、Facebookを立ち上げました。弟のアカウントを検索すると、「そんなにいいものじゃないですからね」と念を押してから、彼が投稿している写真から、一番彼の顔がアップになっているものを選んで拡大表示すると、上司と先輩にスマホを預けました。


 そしたらもう上司と先輩、財宝でも見つけたように画面を凝視して、「「キャーッ!! めっちゃイケメンやーん!!」」って。木元家にとっては、普通な顔なんですけどね。


 そこで話は終わるかと思いきや、すっかり興奮した上司と先輩は、その場に居合わせていない同志達にこの情報を伝えるべく、弟は芸能人で言うなら誰に似ているかという議論を始めます。


「いやーおっとこまえやわー……。ハーフっぽい顔してるけどハーフ!?」


「いえ、日本人です」


「あの、あれあれ! ハーフ言うたら私、最近テレビで見たあの人に似てる!」


 私は先輩の言葉に難しい顔になって、テレビで最近見たハーフの芸能人の記憶を探します。


「ええ……? ウ●ンツ瑛士……?」


「「違うッ!!!」」


 瑛士……。


 まさかそんなに全力で否定されると思わなかった私は、つい私ではなく、ウ●ンツ瑛士さんに同情しました。


 すると上司が、ピンと来たような顔になります。


「あっ! あれやん! ようドラマで見る! こないだ■曜日の▲時ぐらいのドラマで出てた!」


 もう瑛士を潰された私に手札は無いので、黙って先輩の方を見ました。


 すると先輩は上司の言わんとする事に気付いたのか、両手をパンと叩きます。そして上司と同時に、答えを口にしました。


「「城●優やッ!!!」」


 完璧なタイミングと意思疎通を披露する上司と先輩の後に、「誰ですかぁ?」という、私の間抜けな問いが続きます。


 言った直後にぼんやりと分かって、いつまでもスマホを返してくれる気配の無い上司から強奪するようにスマホを取り戻すと、城●優と検索してみます。確かに似てました。弟の方がもう少し目が大きいですし、ハーフではないので、彼の鼻や唇、顎の形は、日本人らしいあっさりしたものですが。いや、でも似てます。


 これで仕事が出来ると思った私に先輩が、「弟君って結婚してんの!?」と訊いて来ましたが、「結婚はしてませんけど彼女がいます」と躱しておきました。結婚を狙っていそうな圧を感じました。図に乗らないで下さい。


 家の中では普通な事も、外から見れば特別だったりするんですね。


 それでは今回はこの辺で。


 よい一日を。

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