6話 実戦、実戦、また実戦
「はい、次々ー。1体倒すたびに気抜いてたら大怪我するよー」
「ぜっ……はぁっ……! くっそぉぉ!」
「力任せに動かないー。無駄な動きすると逆に疲れるし、次の行動遅れるよー」
ヒガン村を出立し、1時間も経たないうちに俺らは魔獣の群れに遭遇していた。
しかもこれで3度目だ。
最初は狼のような魔獣の群れで、ヒミカとタケフツさんがあっさりと狩り尽くし、2度目は巨大な猿のような魔獣と遭遇したが、大亮が一瞬で首を刎ねて終わった。
そして現在、俺は人間の子供くらいありそうなカタツムリ型の魔獣と戦っていた。
大亮いわく、初心者の訓練にはうってつけの魔獣だそうだ。
「ああーっ! くっそ斬れねぇー!」
そう、斬れないのだ。
正確に言えば斬れるが、斬りづらい。
柔らかすぎて、少しでも雑に斬りかかると切断できずにぬるっと滑ってしまう。
1体目は半ばヤケクソ気味に突いたら、急所にクリティカルヒットしたらしく一撃で絶命した。
「剣先だけ当てたって斬れるかー。ビビって踏み込みが浅いぞー。ちゃんとハバキ元から滑らせるようにしないと斬れないよー」
「ちょっ、ちょっとは、手伝、えよ!」
「大した攻撃力も毒もないから安心して戦いなよ。焦りすぎビビりすぎ」
んな事言ったって初めての実戦で、初めて生物の命を奪おうとしてるんだ。
頭で理解してても、体が中々動いてくれない。
実戦でしかわからないプレッシャーは確かに存在する。
それでもなんとか戦えてるのは、相手が本当に弱い魔獣なのと、初めての稽古で大亮が実戦の覚悟を事前に教えてくれていたからだ。
「ぜぇっ……ぜぇっ……ふぅぅ……」
深呼吸をして呼吸を整える。
焦りで狭くなっていた視野が一気に広がったような感覚。
そうだ、ビビるな。
こいつらの攻撃は噛み付くだけ、痛いが大した怪我にはならない。
大亮に教わった基本の型を思い出し、一つ一つの動作を丁寧に、全身を連動させるイメージを持って一気に刀を振り下ろす。
ザシュッ!
「ピギィイイイィ!」
お化けカタツムリの断末魔が響く。
我ながら綺麗にすっぱりと斬れた。
手に残る感覚が生々しい。
これが、自分の手で命を奪うという感覚。
「ん、いいねいいね」
「はあっ……はあっ」
「んー、初めての実戦だし合格点でいいかな。っそーい」
ズバッ!
ビシュッ!
大亮が残りの2体を瞬く間に討ち取る。
俺よりも適当に、軽く刀を振ってるように見えるのに、2体とも俺よりも深く綺麗に斬られ、そして静かに息を引き取っていた。
適当に振っているように見えて、大亮なりに全身を連動させ、最適な身体の使い方で斬っているからこうも見事に切断できるんだろう。
「悪くなかったよ、今の感覚を忘れないようにね。あと今日は初実戦だから大目に見るけど、あんなに心を乱すと最悪死ぬからね」
「お、おう」
慣れていないとはいえたった2体、それもかなり弱い部類の魔獣を倒すだけでこんなに疲弊するのか。
「お、終わったか」
「とろくさいわねー。たかがマイマイ程度にどれだけ時間かけてるのよ」
少し離れた場所で、軽く武器の手入れをしていたタケフツさんとヒミカがこちらへ合流してくる。
……こっちはそれなりに必死だったのに皆ちょっと呑気すぎやしませんかね。
「っていうか……魔物多すぎないか? こんなに頻繁に魔物と遭遇するもんなのかよ……」
「この辺りは冒険者が少ないからそんなに魔獣が駆除されてないんだと思うよー」
「……こんな所で生活してる人たち危ないんじゃないのか?」
「どこの市町村にも魔獣除けの魔道具はあるから、よっぽど高位の魔獣でもないと普通は人里を襲わないよ」
俺は小声で大亮に問いかけ、大亮も同様のトーンで返してくれた。
内緒話にしたのは、タケフツさんとヒミカの両親は、ヒガン村を襲ってきた魔物に襲われて亡くなったと聞いていたため、あまり大きな声で話す内容じゃないと思ったからだ。
ヒガン村を襲ったという魔獣はかなりヤバい魔獣だったようだ。
「まあ、おかげで色々な素材が手に入ったがな」
「大きな街に行けば換金所や冒険者
「なるほど、そりゃまた心をくすぐられるな」
魔獣を狩って素材を売るなんて男の子ならば胸が熱くならないわけないだろう。
早速俺の倒したお化けカタツムリ(マイマイというらしいが)を解体しようとするが――
「マイマイは誰でも簡単に狩れるから、たいして売れるようなもの無いわよ」
「……さいですか」
間抜けなポーズのままフリーズしてしまった。
せっかく頑張ったのに……くそう。
「回収する物も無いし、ちゃっちゃと先進もー」
……ええい、これくらいで挫けてたまるか。
初心者の浴びる洗礼だと思えばカワイイもんよ。
「昼には次の村で一休みするから、それまで頑張ろう」
「おう!」
俺は気合を入れ直すように大きく返事をした。
「……元気だけはいいわね。最後まで保てばいいけど」
その後、マイマイが現れる度に俺が1人で戦いまくったのは言うまでもない。
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