20話 援護
タケフツと別れて自宅に戻っていたヒミカが慌てて外に出ると、ちょうどタケフツが戻ってくるところであった。
「兄さん! 今の……」
「ヒミカ、今すぐ村の皆を
「ちょっと、1人で行く気!?」
「おそらく長も向かうだろう。2人いれば、なんとかなる」
「無茶よ!」
兄妹が家の前で揉めていると、ロウが走って向かってきた。
「お前らここにいたのか」
「ロウさん」
「てっきり長の家にいると思ったら……探したぞ」
そう言うロウの顔は汗だくだ。
かなり急いで走り回ったのだろう。
「長の命だ。俺たちで皆を避難させる」
「え? 森の方はどうするの!?」
「もうダイスケが行って戦ってる。長はその間に戦えない連中を避難させろと」
兄妹は先ほどとは別の強大な魔力を感じ取っていたが、それが大亮の魔力だとは思っていなかった。
とてつもない魔力の持ち主が2人、村を襲いに来たとばかり思っていたのだ。
まさかその1人が大亮で、しかも戦っているなどという思考には至らなかった。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 村の一大事にあんなやつ戦わせてるの!? 信用できるわけないでしょ!」
ヒミカが抗議する。タケフツもさすがにこの一大事をあの得体の知れない子供1人に任せたシュウオウとロウの判断に怪訝そうな様子だ。
「長の命だと言っている! 嫌ならさっさと避難させて自分で行け!」
「……すみませんでした、急ぎましょう。ヒミカ、時間がない。ここで揉めてる時間も惜しい」
ロウに一喝され、タケフツに諭されてヒミカも渋々ながら了承する。
(……長はどうしてそこまであの少年を信用しているんだ? あの少年に何がある?)
タケフツは疑問をいったん胸にしまい込み、村の者の避難に回ることとした。
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時折、雷系の魔術でどうにか隙を作ろうとするが、先ほど不覚にも食らってしまった大亮は当然警戒しており、決定的な隙を作ることはできなかった。
しかし大亮も先ほどから攻勢に出れずにいる。
大亮は黒雷に匹敵する強大な魔力と、子供とは思えない身体能力・技術・経験を有しているが一つ致命的な弱点がある。
大亮はその力を長時間維持することができない。
自身の強大な力を、長時間使い続けるだけの体力をまだ持ち合わせていないのだ。
だからこそ、大亮はむやみやたらと自分から攻めることをしない。
考えなしに突っ込んで仕留めきれなかった場合、無駄に体力を消耗することになる。
大抵の相手は大亮のスピードについてこれない為、そこまで気にすることはないのだが、あるレベル以上の相手だと大亮は後の先を取るカウンタースタイルに切り替えて体力を温存する。
しかし、当然ながら守るにも体力は必要となる。
黒雷は今まで大亮と数回戦ったことがあり、当然その弱点は知っていた。
故に黒雷も隙が生じるような大きな攻撃は繰り出さず、じわじわと着実に体力を奪うような長期戦狙いの攻め方を選択している。
このままいけば、大亮の敗北は必至だ。
しかし――
大亮には、黒雷に知られていない奥の手がある。
それは、家族の中で大亮だけが有する特殊能力。
普段は滅多に人前に出さないため、家族以外の人間にはほとんど知られていない。
大亮の額からとめどなく汗が流れている。
明らかにスタミナが切れてきており、限界は近そうだ。
そしてついに黒雷の一撃を流しきれず、刀で受けた両腕が力任せに弾かれた。
「!!」
「もらったぁっ!!」
黒雷の爪が大亮を切り刻もうと襲い掛かった瞬間――
「寄るな下郎が」
女性の声と共に黒雷の全身が急に青い炎に包まれた。
「ぐああああああ!?」
黒雷は思わずその場から下がり、炎を振り払うかのように体を振り回すが、青い炎は黒雷の体を焦がし続けている。
「下郎が。誰が妾の
「……ありがとう。助かったよビーチェ」
それまでそこにいなかったはずの、あまりにも場違いな金髪の貴婦人がふわりと大亮の傍に浮かんでいた。
「な……んだ、テメェはぁぁぁ……!」
体が燃える苦しみを味わいながら、黒雷がビーチェを睨みつけて問いかけた。
「ベアトリーチェ=アルタビッラである。頭が高いぞ」
「幽体族か……てめえ……!」
これが、大亮の奥の手。
実は大亮にはもう一つ大きな欠点がある。
魔力量こそ凄まじいが、実はその魔力を炎や水などに
つまり、身体能力の強化など無属性系の魔術は使えるが火・水・雷などの属性系魔術が本来一切使えないのだ。
しかし、大亮には彼特有の能力があった。
それが、契約魔術。
大亮は自分の魔力を供給する代わりに、
火炎系魔術を得意とする
旋風系魔術を得意とする
水氷系魔術を得意とする
雷電系魔術を得意とする
大地系魔術を得意とする
彼女たちはそれぞれ大亮と契約を結んでおり、大亮の求めに応じて力を貸し、そして自らの意志で彼の元へと現れることが出来る。
その中でもビーチェは大亮と最初に契約した存在であり、大亮をいたく気に入ってる契約者のリーダー格だ。
「……終わりだな黒雷」
「ぐ……!」
気づけば黒雷の体はひどく焼かれ、もはや立っていることも出来ずに横たわっていた。
辺りには肉が焼ける嫌な臭いが漂っている。
大亮はすでに限界に近い体でゆっくりと黒雷に近づいていく。
決着が、訪れようとしていた。
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