18話 予想外が重なるならば、それは――
「えっと……
「ヒミカとロウさんから聞いてますよ。ユキを助けてくれたそうで、本当にありがとうございます」
俺がタケフツさんに名乗ると、彼はとても爽やかな笑顔で応えてくれた。
先ほどユキと話をしていた時にも話題になったが、タケフツという人物は文武両道で向上心も高く、温和な性格で、村の子供たちで彼に憧れない者はいないのだという。
確かに初対面の俺でもわかるほどに、彼の立ち振る舞いには人を惹きつける何かを感じさせた。
礼儀正しいが決して堅苦しくはなく、むしろ親しみやすい雰囲気がある。
「そういえばレンはいないのか?」
「あー……レンね、ババ様に連れてかれた」
「今頃お仕置きされてるよ……」
子供たちが呆れと恐怖の入り混じった複雑な表情でタケフツさんに告げる。
「えっとね、タケフツお兄ちゃん――」
ユキが、先ほどの出来事をタケフツさんに説明すると、タケフツさんはとても申し訳なさそうに俺に頭を下げてきた。
「すみませんウチの村の者が……私からもよく言って聞かせますので」
「いや! そんな子供のしたことですし……タケフツさんに頭を下げてもらうようなことじゃないですよ」
「おそらく、誤った情報を耳にしてしまったのでしょう。ここに来る道すがら私も何度か村の者と話をしてきましたが、一部の村の者は、貴方が
村というコミュニティにおいて情報が広まるのは非常に早いと聞くが、それでも伝言ゲームのように徐々に精度が下がっていくのは変わらないらしい。
どうやら随分と穏やかではない噂が流れつつあるようだ……。
「
「いえ、元々疑わしいことをしてたのは自分ですし……そう言ってもらえるだけで十分です。ありがとうございます」
お互いにしばらく頭を下げ合う状況が続く。
我ながらなんだろうこのザ・日本人な感じ。
「まあ、レンがあんな事したのは他にも理由があるけどねー」
「ねー」
女の子2人が顔を見合わせてにやにやと笑いながらそう言うと――
「え? どういうこと?」
ユキが首を傾げて問いかけてきた。
「そういうことだよー」
「んねー」
女の子たちはくすくすと悪戯っぽく笑っている。
ユキだけがきょとんとした顔だ。
「……まあ、おそらくそういった感情もあって、つい熱くなってしまったのだと思います」
「なるほど、理解しました」
俺とタケフツさんは互いに苦笑してしまった。
ユキ……その歳で罪な
……にしたって人に向かっていきなりあんな火の玉ぶっ飛ばしてくるのは如何なものかと思うが。
「そういえば、先ほどお連れの方ともお会いしました」
「え、
「なんというか……ずいぶんと変わった子ですね。思わず笑ってしまいました」
「あー……なんかすみません」
あいつのことだ。また相手の事などお構いなしに、マイペースに人を振り回してくれたんだろう。
時間にしてまだ半日も一緒にいないはずなのだが、俺は既に何度も餌食になっている。
「いえ、正直最初は戸惑いましたが……悪い子ではなさそうです。ロウさんの話では昼頃には一度解放してこちらにお連れするとのことでした」
おお、一時はどうなることかと思ったがどうやら丸く収まっていたようだ。
よかったよかった……
「……ふふっ」
「ん? どうかしました?」
「いえ、すみません。失礼ですが、本当にあの子の言う通り、考えが顔に出るのだなと……」
……あのヤロウ。
俺は、大亮が無事だったことに安堵しつつ、あいつが戻ってきたらとりあえず一発どついておこうと固く誓ったのだった。
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「ご馳走様でした」
「おう、足りたか?」
「あたぼうよぉ」
大亮はロウにズビシッとサムアップして見せる。
ロウから受け取った朝食をぺろりと綺麗に平らげ、食器を返却したところだ。
「じきに長が皆を集めて説明することだろう。昼頃にはお前も出られるはずだ」
「おじさんは随分あっさり受け入れるんだね。俺を出すこと」
「昨晩も言ったが、俺はお前が村の者に危害を加えないと誓うならばそれ以外はどうでもいい」
男前だなあと大亮が呟く。
これでなぜ
ロウはそんな大亮の悪意ある疑問に気づく由もなく、洗い場で食器を洗っている。
(まあ、予定は大幅に狂ったけどなんとか出れそうだし、あとは一真をコクセキまで送り届けてイズノメさんに
大亮がそのような考えに頭を巡らせていた瞬間――
ドォォォォォォォォォン!!!
突如、落雷でもあったかのような轟音が鳴り響いた。
「!」
大亮はその一瞬で即座に戦闘態勢に入った。
“魔導袋”から二刀を取り出し、格子を切断して一気に外へと飛び出る。
その間わずかに2秒ほど。
大亮は、その若さでかなりの数の修羅場を潜り抜けてきた猛者だ。
そんな彼は、今までの経験で知っている。
今回の件、あまりにも予想外が
たまたま自分がヒガン村の近くにいたところで、たまたま一真が近くの『道』から
偶然がたまたま続いていいのは2回。3回以上は、作為的なものである可能性を考慮する。
それは、彼の尊敬する兄からの教えだった。
大亮は、頭の片隅に入れていた。
今回の件が誰かの手によるものである可能性を。
何かあった場合、即座に行動できる覚悟と準備をしていた。
だからこそ、先ほどの轟音一つでこれほど迅速に行動することができた。
大亮は魔術で加速し、とてつもない速さであの森の入り口付近へと駆けていく。
先ほどの轟音が聞こえた場所へ、今なお強大な魔力を放つ存在の元へ。
(ああ、もう来たか。考えはしてたけど、考えてたパターンの中で一番最悪だ。
それは、ほんの1年前まで家族と共に自分が立ち向かっていた相手。
今は、家族たちが戦っていたはずの相手。
(あの人たちがこんなに早くやられるわけはないと思うけど……何かあったのは間違いないな。早すぎる)
普段は冷静な大亮だが、大切な家族に何かあったのではと思うと、さすがに胸のざわつきを抑えることが出来ない。
しかし即座に頭を切り替え、目の前の敵に集中することにした。
そうでなければ、
大亮は森の入り口、巨大な岩壁前へと到着する。
そして岩壁の上に立つ相手を睨みつけた。
「ひゃははははは! なんだなんだぁ!? 知った顔がいるなあ!! ええおい!?」
「……白々しいんだよ。わかっててここにいるんだろ」
大亮の顔は今までになく険しい。
その目には明らかな嫌悪感が
「1年ぶりじゃねえかぁ……会いたかったぜぇ? 大亮ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
死神のように全身を黒いぼろ布に包んだその男は、狂気と怒気を宿した餓鬼のように醜い顔をさらに歪め、吠え猛った。
「失敗したなあ……ほんとに失敗したよ。やっぱりちゃんと止め刺しとくんだった」
大亮は足を前後に開いて脱力し、自分の型に入る。
「今度こそ殺してやるよ――」
その眼が、紅く光りだした――
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