9HEAD

綾野 遊美

第1話

 この世界は等しく残酷だ。

 


 誰かの悲鳴がBGMのように流れ、血の匂いが立ち込めるのが日常。

 誰もが囚われの身であり、平穏なんて言葉は一部の仮初めを除いては随分昔に忘れ去られてた。

 


 人間が絶対優位でいられた時代は遠く遠く…誰もが思い返すことが出来ない程に遠い。

 


 緑豊かな時代は?

 


 人間同士の争いの時代は?

 


 誰もが権利を主張する時代は?


平凡を憂う時代は?

 


 それらは遥か昔に何かによって終わりを告げられ、世界は異様な形に変化し、醜く単純かつ明確なものへと変貌を遂げた。


 国はいつしかなくなり、人類もまた新たな進化を迎える。人種は入り乱れ、かつて【人間】と呼ばれていたものは一括してオリジナルと名を変え弱者へと身を落としたが、かろうじて世界の中心に居座ることが出来ている。

 


 事の始まりは定かではない。伝わる伝記は数知れず、その始まりは曖昧かつ不確かなものばかり。

 大規模な地殻変動により大陸は沈み、多くの人類が失われた。地形はかつての姿を無くし残された大陸は僅かとなり、狭き世界が出来上がる。

 いつしか生き残った人類にも変化が起こり始める。ある時を境に人類の一部が特別な種へと変化をとげる。その進化形態は複数体確認され、その全てがオリジナルの生命を脅かすものであった。

 かつて人と呼ばれていたものは時代と共に激減するハメとなる。

 


 彼ら新人類はオリジナルから異形種と区別され、それぞれに特徴を持っており現在は大きく分け3種が存在する。身体能力はオリジナルに比べ遥かに秀でており、人類の進化という他ない。

 だが、どの種も短命であり30歳を迎えることは稀で、20代でその生涯をとじる。どの種族においても40年生きたとしたら神格化され、語りつがれていくという。

 一方オリジナルの寿命は平均96.5歳と長いが、異種に狩られる側である限り安全を約束された者以外は、寿命を全うすることは難しい。

 かつては同一であったにも関わらず、現在オリジナルは異種にとっての研究材料であり、テーブルに並ぶ食料となっている。

 力の無いものは捕食対象とされるのがこの世界の理だが、今はまだオリジナルは世界の中心に存在を許され、都市を三角形で囲むようにKATZEカッツェRIZARDリザードBADバッドという種族がオリジナルを狙う形で均衡している。彼らもかつて人であったように生活し、家族があり、社会があり生への執着がある。

 狙われる側である限り安息の日を迎えることは難しいオリジナルだが、近年世界政府の手薄い加護に微かな光明が灯っている。

 対異種戦での兵士は無力に等しい現状が続いていたが、9HEADナインヘッドという特殊部隊が各地で成果を上げ、異種の侵略を未然に防いでいる。

 9HEADはその姿を知られているものもいれば存在が世間に明らかになっていない者もいる。世界政府の管理下に置かれる優れた者をさし、彼らに選択権は一切

与えられ無い。GPSを埋め込まれ自由を制限された身で、オリジナルを最前線で守る役目を担っている。彼らは常に9人おり、人格的には兵士らしくない者達が大半だがその能力は非常に高く、強靭な異種の能力を凌ぐ実力ある兵士が選ばれている。断る事は許されず、選ばれたら最後どちらにしても戦わなければ彼らは存在することを否定されてしまうのだ。オリジナルにとって9HEADはヒーローであると同時に、異種にとっては自分達の存在を脅かす最悪なターゲットなのである。


 オリジナルの中心都市には世界政府が存在し、その守りは確固たるもので富裕層や役人、兵士、その家族、又は訓練生が居住を許されており一番安全な都市とされている。

 過去に異種が入り込んだ大きな事件が1度だけあったが、誰もが望む地でありエデンと呼ばれている。オリジナル地区は13区分あり異種の居住に近い程危険が増す。余程の理由がない限りは皆中央に近い所を選ぶのが現状である。

 

 かつては同一であった一つの生命が、理解し合える日は今日まで訪れていない。来る訳がないのだ。

 和解は互いの妥協であり、狩は決して止むことはない。なぜ世界は、姿を変えさせてまで人間を争う方向に仕向けたのだろうか、それぞれの想いが交差したところでオリジナルが捕食対象である事実は揺るがない。


 終わりなき侵略に争うしかないのだ。

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