幕間 五話から六話の間の小話


1:潦子と香夜の場合


「それにしても沖田ちゃん、さっきの魔法?だっけ?やったのすごかったね!」


「え? え、あ…うん……ううん!?! そっ、そんなことないよ?!?」


 突然腕に絡んできた香夜に驚いた。勢いに押されるままに頷きかけてから言葉がちゃんと頭に入り、潦子は慌てて首を横に振る。褒められているのは魔法そのものかと思ったら違った、自分だった!


「やだなー、そんなことあるってー」


 挙動が大きい潦子に香夜は目をぱちくりとさせて、それから笑い飛ばすように軽く手を振った。なんでそんなふうに言うのだろうと。


「それにさ、アレの前になんか言ってたのも雰囲気ある感じで良かったしさー」


「雰囲気……そうかな、ただの英語にしちゃったし……」


 雰囲気、と言われて潦子の顔が僅かにほころぶ。魔法を使ったことでそうやって言ってもらえるのは嬉しいことだ。だけど調べる手段がなくて安易に英語を使ってしまったことだけが心残りで小さく頭を掻く。できればルーン文字とかエノク語とか使いたかった。

 と、目を丸くする香夜。


「え、普通じゃない英語なんてあるの?」


「え?」


「えっ?」


 思わず見つめ合ったのは一分近くだったとかそうでもないとか。










2:武と太郎の場合


「そういやたけちゃん?」


 そそ、と武のそばに太郎が寄る。


「なんだよたろー」


「結局んとこうまくいく兆候ってあ───」

 

 咄嗟に武の手が太郎に伸びる。具体的に言えばその大きな口を手のひらでガッツリ抑えたのだ。

 うがうが言うこと数秒、黙ったところでようやく武は手を離す。


「───…あー、もうなにすんだよ。暴力男子はモテないぞー?」


「だ れ の せ い だ」


「いーじゃんいーじゃん、バレちゃった方が意外にやりやすいかもしんねーぞー?」


 睨むような眼差しも意に介することなく、あっけらかんと笑う。そういうヤツなのだ。

 だからこそ友人として好ましいと言えるし、だからこそちょっと遠くにいて欲しいこともあるとも言える。今は!特にそうだ!


「他人事だと思って……」


 ため息混じりに呟く武に、笑みを深めた太郎が顔を寄せる。内緒話のポーズだ。


「そういうこと言っちゃう? オレとしてはたけちゃんに上手くいってほしいだけだし、その為の協力も惜しまないつもりなんだけど?」


 どこか真剣味が感じられる声に、眉をひそめつつも武は耳を寄せる。なんせ実際に彼女がいる男の言葉だ。聞いておいて損はないかもしれない。


「……例えば?」


「経験者としてアドバイスとか」


「例えば」


「男は度胸、当たって砕けろ!」


「砕けてたまるか!!!」


 いい笑顔付きのサムズアップに、思わずツッコミの声を全力で荒らげてしまう。

 遠くで潦子がビクッと肩を震わせていた。










3:直人と慎也の場合


「……。」


 武と太郎がふざけあっているのを横目で見て慎也は大きなため息をつく。もう戻ると言ってるのにどうして新たなちょっかいを出しているのか不思議でならない。

 いや、もういい加減不思議には思わなくなってきてはいるのだけれども───どうして自分が学習する側に立たなければいけないのか。


「中学一緒だったわけでもないのに良く世話焼いてんな?」


 そんな慎也に直人が声を掛ける。少しだけ驚いたような表情を浮かべた慎也に直人はニッと笑ってみせた。


「他県から引っ越してきた、ってのはなかなかレアパターンだからな。なんか覚えてたんだ」


「ああ、なるほどな」


 確かに似たような出身中学の中で県から違うような自己紹介の人がいたら頭に残ることもあるだろう。


「出戻りみたいなものなんだけどな。小学校低学年ぐらいまではこの辺に住んでたんだ」


「へぇ。じゃあ懐かしの再会みたいなのもあったり?」


 直人の素朴な問いかけに慎也は黙って肩を竦める。


「何人か声をかけてくれたのはいたんだけどな、まぁ覚えてなかった」


「かわいそうに」


「隣のクラスだった、とか言われても分かんないだろう普通。小学一年とか二年のときの話だぞ?」


 分かるだろう?と言いたげな表情で慎也が答える。理解を求めるような態度は太郎相手にはちっとも出してなかったものだ。多分、それはやっても無駄だと理解してしまっているのだろう。


「まぁなぁ……お前が覚えてるヤツとかいなかったのか?」


 確かにな。と直人はちょっと笑って頷いて、だけど逆方面の問いかけを投げてみる。再会そのものは否定されてなかった気がしたのだ。


「いるにはいたが」


「が」


「まぁ、向こうも覚えちゃいない訳だ」


「かわいそうに」


 同じトーンで返したつもりだったが慎也に眉をひそめられてしまって思わず苦笑を浮かべてしまう。からかったつもりはないのだけど───


「……そういうもんだろ。お互い様ってやつだ」


「いや、お互いとは違うだろ」


 ───ないけれど、思わずツッコミは素になってしまったという。

 


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