ランゲルハンス島奇譚 外伝(1)「バンビとガラスの女神」
乙訓書蔵 Otokuni Kakuzoh
1
マルチェロがパンドラから話を聞いたのは一週間前だった。
次の仕事まで一月程時間があった。そんな折、パンドラに呼び出されたので店へ向かった。彼女は死神が集うバー『ステュクス』のマスターだ。
パンドラはいい友人だった。特殊な職業の自分を嫌がる事無く、接してくれる。彼女の職業柄、酒の話をする事も多いが射撃や詐術、投資、小説の話、音楽、錬金術、科学等多岐に渡り興味の範囲が似ていた。馬が合う。視線で会話を出来る程だ。それでも体の関係に発展しなかったのは互いに深く愛する者が居たからだろう。
ステュクスの重厚な木のドアを開けると、丁度カウンターにもボックス席にも死神は居なかった。
「やあ。また人払いしてくれたんだ」
久方ぶりの友人をパンドラは笑顔で迎える。
「お久し振りです、マルチェロ様。お時間を下さりましてありがとう御座います」
白いジャケットを脱いだマルチェロはカウンター席に座し、隣の椅子にジャケットを無造作に置いた。
ハンガーを持ったパンドラは微笑む。
「まあ。また高価なスーツを無造作に」
「前回の仕事で誂えたんだ。母さんの母国に行ったよ」
パンドラはハンガーを差し出した。しかしマルチェロは首を横に振る。
「美味しい料理の他に服や香水にこだわりがある国でね。色々と揃えるのが楽しかったよ。……でも大切なものじゃないからいいんだ。で、何? 話って」
ハンガーを引っ込めたパンドラはミントの香りが漂うお絞りを差し出す。
「『大切なもの』の期限が迫りました」
お絞りを受取ったマルチェロは広げる事無く、パンドラの紫に鈍色が混じった不思議な瞳を見つめる。マルチェロのターコイズブルーの瞳に真剣な面差しのパンドラが映った。
「今……何処に?」マルチェロは問う。
パンドラは視線を外さない。
「全ての任を終え、現在長期の休暇を極東列島で取っていらっしゃいます。リゾートホテルに滞在なさってます。休暇中に別の任が発生して欧州へ渡りましたが再び極東に戻られました」
「やっぱりどんな想いを抱いていようとも故郷は故郷か……。書類にサインはしたの?」マルチェロは表情を曇らせた。
「休暇を消化なさらずにサインなさろうとしたので止めました。現在、南端の島でお過ごしになってます」
「そうか……良かった」
安堵の溜め息を吐くマルチェロを余所に、パンドラは棚からランゲルハンス島産の茜ぶどうのポートワインとドライベルモットを取る。彼女はカクテルを作る。
「丁子様は休暇を一切取らずに数々の任を全うしました。意志の強い方です。ハデス様からの書類を受取ると直ぐにサインなさろうとしました。『休暇を取らなければ他の死神の方々に示しがつかない』と止めました。現在は不承不承リゾート地でお過ごしです」
「彼女らしいな」マルチェロは苦笑する。
「ええ。丁子様らしい考えです」
ジャズが流れる店内にグラスをステアする音が響く。
バー・スプーンを引き上げたパンドラは手の甲にカクテルを一滴垂らす。そして手の甲を舐めた。
「会っても……平気かな? 様々な事にケリを着けて穏やかに過ごしていたら……俺が行ったら邪魔をするだけだ」
手で顔を覆ったマルチェロは呟く。
「以前は意気込んでいたけど、いざその時が来ると尻込みするものだな……」
長い溜め息を吐くマルチェロを余所にパンドラはミキシンググラスからカクテルグラスに酒を注ぐ。
「大切なものに再会する為だけに自ら運命を切り開いた……それがマルチェロ様では御座いませんか?」
パンドラは爽やかなグレープフルーツと茜ぶどうの芳醇な香りを漂わせる、妖艶な唇色の酒が満ちたカクテルグラスを差し出す。
「『ティコ』です」
「……初めて聞いたよ、そんな素敵な名前のカクテル。オリジナル?」顔を上げたマルチェロはカクテルを愛おしそうに目を細めた。
パンドラは微笑む。
「いいえ。『デビルズ』がベースです。レモンジュースをグレープフルーツに変えてアレンジしました。グレープフルーツの凛とした苦みが茜ぶどうのポートワインの芳醇な香りとたおやかな甘さを引き締めます」
マルチェロは愛おしげにステムを摘まむとグラスに唇を寄せた。
遠い過去に浸るマルチェロをパンドラは見守る。
「……遠い昔、丁子様にご迷惑をお掛けしました。若輩の無知故に事件の本質を見抜けず軽々しく提案をした結果、丁子様を傷つけました。謝っても謝りきれません。丁子様には幸福になって頂きたいのです。それにはマルチェロ様……どうか」
マルチェロはステムを摘まみ、空のカクテルグラスを見つめる。
「……そうだな。彼女を守るのが俺の本当の仕事だ。……その為にずっと待っていたんだ」
小さな溜め息を吐いたマルチェロは瞳を閉じると見開き、微笑を浮かべた。
「俺も丁度休暇をとってるんだ。……彼女の滞在先、教えてくれるかい?」
パンドラは微笑んだ。
目醒めると黴が生えた見慣れた天井ではなく、木製のシーリングファンが回転しているのが真っ先に眼に飛び込む。別の任が発生して欧州に出向くまで滞在していたウィークリーマンションではない。リゾートホテルのアネックスに滞在していた事をティコは想い出した。
枕に乗せた頭を動かし、大窓を見遣ると空が白んでるのが見えた。朝焼けが射し込み、雲の狭間を茜色に照らす。穏やかな海面は空を映す。遠くでエンジンの音が聞こえた。きっと漁に出ている舟の音だろう。昨日の朝も聞こえたのでベランダに出たら湾の沖を小舟が進んでいた。ブイに囲まれた沖に小舟は停まった。きっと何かの養殖をしているのだろう。
汗ばんだ体を起こしたティコはファインダイニングに出向き朝食を摂ると、ジムで汗を流した。シーズン中とは言え子供は見かけなかった。自分が滞在しているアネックスは子供が入れない。本館やコテージなら子供が走り回っているだろう。
ティコの側にはいつも子供が居た。彼女は決して子供が好きな訳では無い。子供の相手をするのが仕事であるから側に居るに過ぎない。
しかし急に子供の声が聞こえなくなるとは寂しいものだ。小さな溜め息を吐いたティコは苦笑した。
午後になると冷えた缶ビールが入ったクーラーバッグと本を携え、プライベートビーチへ向かった。
白いパラソルの影の下、ビーチチェアに座し本館のライブラリーで借りた本を読む。特に読みたいと想った本では無かった。しかし書架で背表紙を見た途端、懐かしさが込み上げて手に取ってしまった。
缶ビールに口を付け、頁を繰る。昔、教え子達に紐解いてやった神話だ。『大神ゼウスやヘラクレスのお話はそろそろ飽きた。自分達が出るお話はいつ読んでくれるの?』とよく訊かれたものだ。その度に『冥府の神は表舞台にはなかなか出ない。だからこれからお前さん達が神話を紡いでいくんだよ』と諭したものだ。
水着とホットパンツで過ごしているとは言え、この島の熱波と湿気は長く欧州で暮らしていたティコの肌を容赦なく痛めつける。日焼けした筋肉質な腹や刈り込んだ髪からは沸々と汗が涌き出し、薄い色のサングラスは鋭い日差しを通す。眩しさに耐え切れずティコは冷やしたスポーツタオルを被ると昼寝を決め込んだ。
熱波を感じつつも微睡んでいると、聴き覚えのある欧州の唄が鼓膜を揺さぶった。歌うのは低くも穏やかな男の声だ。発音が良い。声が近い。どうやら隣のビーチチェアに居るらしい。
ティコはタオルを退けると徐に起き上がる。
「……この島で欧州の愛の唄を聴けるとはね」
歌を止めた男は微笑んだ。歌の発音から察した通り、男は極東の島の人間では無いようだ。面立ちが深い西洋人の中でも最も深いと言っても過言ではない。眉弓が出っ張り、口髭を揃え、ターコイズのような瞳に力がある所為か気難しそうな容貌の男だった。オオカミみたいだ、とティコは想った。
「起こしたね。すまない」欧州で誂えたと思しきビーチスーツを纏った男は冷えた缶ビールを差し出した。
それを受取ったティコは鼻を鳴らす。
「変わったナンパだ。小洒落たスーツを涼しげに着こなして余裕があるね。映画に登場するペテン師みたいだ。……そもそもこんなリゾート地にどうしてお独り様? 連れはどうした?」
「連れ? 君だって独りだろ?」男は微笑んだ。
「どうだかね?」
男は肩をすくめると缶ビールのプルタブを起こした。小気味の良い音が鳴る。
「気高い女神様が伴を連れてないなんて放って置けないよ。薬指に指輪もしてないからエスコートしたいと想ったんだ」
「水着の女が指輪なんて嵌めるものか。海で大層なモン落としたくない」
「そうか。指輪があれば大切にするのか」男はターコイズブルーの瞳を細めた。
「推量で言ったまでだ。そんな物貰った事も無いし、着けた事もない」
男は満面の笑みを浮かべた。
ティコは墓穴を掘った事に気付き、鼻を鳴らすとプルタブを起こす。
「……畜生。適当に追い払おうと想ったら余計な事言っちまった。缶ビール飲み切る間だけなら付き合ってやる」
苦り切った表情のティコの缶に男は缶を当て、ビールを飲む。
「……この国のビールは水っぽくて美味しい。気候に合ってる」
「この手の水っぽいのはこの島くらいだ。本土でメジャーなビールは奥行きのある味だ」
「幾度かこの国を訪れてる?」男は問うた。
「私は半分この国の血を引いてる。腹違いの兄もこの国の血を引いてる。偶に酒やビールを送って貰ってんだ」
「へぇ。だから詳しいのか。……君の名前は極東系?」
「まあね」ティコはビールを喉に流し込む。
「教えてよ」
「嫌なこった」
「俺はマルチェロ」
「教えない」
「手厳しい女神様だな」マルチェロは苦笑した。
ビールを呷ったティコは空の缶を振る。
「……無くなっちまったよ」
「買って来ようか?」
「要らないよ。ごちそうさん。楽しいお喋りもこれでお終いだ」
肩をすくめたマルチェロは立ち上がると踵を返した。
遠ざかる背を見遣ったティコはバッグの中身を改める。そして小さな溜め息を吐くと本の続きに眼を通した。
……ケチな物盗りかと想った。リゾート地に女も連れずに独りで歩いてるのも変わっているのでバッグの中を改めてみればコインケースはあった。ただのナンパらしい。それにしてもナンパなんて久し振りだ。切る暇が無くて髪が伸びていた時期は男に声を掛けられたものだ。しかしいつも通りに髪を刈り込むと男は見向きもしなくなった。丁度良いと想った。ナンパの目的はファックだ。ファックしたいからこそ、あの手この手でいい気分にさせてベッドに誘うんだろ。
鼻を鳴らしたティコは白いラッシュガードパーカーを羽織るとバッグからコインケースを取り出す。そしてビールを買いに敷地内のコンビニへ向かった。
波の音に耳を澄ませつつ砂が混じった白い歩道を歩いていると子供の泣き声が聞こえた。親を脅迫する泣き声ではない。目前の恐怖に耐えきれずに叫ぶ泣き声だった。
放って置けないね。
ティコは泣き声の方へ駆け出した。
白いハイヤーやホテル利用客の車が停まる、噴水の側の駐車場に駆けつけるとマルチェロが背を向けて屈んでいた。彼の側から泣き声が聴こえる。
「何事?」
ティコが問うとマルチェロが振り返った。すると彼の体から泣きじゃくった男児が垣間見えた。泣き過ぎて青い瞳の周りが腫れ、亜麻色の髪が汗でぺっとりと額に貼り付いている。
「……まさかお前さん、チビっころを泣かしてるんじゃないでしょうね?」腕を組んだティコはマルチェロを訝しげに見下ろした。
「当たらずとも遠からず。こんな所を独りで彷徨いていたからどうしたものか、と声を掛けたんだ。そしたら驚かせたようでこの様さ」マルチェロは溜め息を吐いた。
「お前さんは誰にでも声を掛けるね」
「まさか。女性には君だけだよ。この子は放ってちゃ不味いと想ったから」
「そのオオカミのようなご面相じゃ、チビっころは泣くわな」ティコは苦笑する。
「きっと迷子だ。親御さんらしい大人は近くにいないし。フロントに連れて行こうと想ったんだけどこれじゃあね……」
「任せな」
屈んだティコは『ケーキをこねて』を歌いつつ手遊びを披露する。すると男児は顔を上げ、ティコの手許を凝視する。微笑を浮かべたティコは『小さなティーポット』、『五匹のアヒル』を立て続けに歌い、手遊びを披露した。泣いていた男児は歌を知っているのか『五匹のアヒル』を一緒に歌った。
調子が出て来たティコは早口言葉の『ピーターパイパー』を諳んじる。滑舌良く、一度も引っかからずに諳んじると男児は瞳を輝かせた。ティコに肘で小突かれたマルチェロも諳んじる。幾度も故意に舌を噛み、ティコと男児を笑わせた。
「私はティコって言うんだ。そしてこの怖い顔だけど優しいおっさんはマルチェロって言うんだ。坊やは何て名前なんだい?」
ティコに問われた男児は俯くと『ヨアン』と消え入りそうな声で答えた。
「そうかい。ヨアンって言うのかい。かっこいい名前だね」
「うん」ヨアンはもぞもぞと小さな指を握ったり離したりする。
「ヨアンがこんな所に独りで居るもんだから、マルチェロが心配して声を掛けたんだ。驚かせたようでごめんな」
「ごめんねー」マルチェロもヨアンに謝った。
「うん」
「ところでヨアン、ホテルに泊まっているのかい? 家族は何処に行ったんだい?」
ティコの問いにヨアンは唇を引き結ぶ。家族を想い出して心細さを想い出してしまったようだ。
「大丈夫だよ。絶対に会えるから。私とマルチェロが何とかしてやる」ティコはヨアンの汗ばんだ頭を撫でた。
暫くティコとマルチェロを交互に見つめたヨアンは口を開いた。彼の話によれば屋外プールに向かう道中、青い蝶に心奪われ追いかけていたら母親達と逸れてしまったらしい。
屋外プールやプライベートビーチは宿泊客しか利用出来ない。家族でホテルに泊まっているのだろう。直ぐにヨアンの家族は見つかる可能性が高い。ティコとマルチェロはヨアンを本館のフロントに連れて行った。
コンシェルジュに経緯を説明し、ヨアンの家族に連絡を取って貰った。家族もヨアンを探していたようで直ぐにこちらに来るそうだ。
ティコとマルチェロと共に家族を待っている間、ヨアンは吊り鳥籠の中で跳ねる一羽の赤い鳥を眺めていた。甲高い鳴き声に驚いたが小首を傾げる赤い鳥の愛らしさに惹かれ、凝視していた。
一羽だけの小鳥に吊り鳥籠はあまりにも広過ぎた。赤い鳥は縦横無尽に飛び回り、籠に脚を掛けては甲高い声で鳴く。
「……鳥さんひとり?」ヨアンは呟く。
ティコはヨアンを見遣った。彼はティコを見上げる。
「ひとりぽっち?」
「……大きな鳥籠だね。きっと、家族と一緒だったんだろうね」ティコは寂しそうに微笑んだ。
「……また一緒になれるかな?」
ティコは屈むと瞳を潤ますヨアンの頭を撫でてやった。
「大丈夫だよ。きっとまた会えるよ」
するとヨアンを呼ぶ声が聴こえた。破顔したヨアンは声の方へ駆け出す。
「ママン! イネスママン!」
二人組の女の片方にヨアンは抱きつく。抱きつかれた女は緩くウェーブが掛かった亜麻色の短髪をしていた。女に抱きついたヨアンは彼女の腹に顔を埋める。すると緩やかなリゾートワンピースは皺を作った。慎ましい右胸の形が露わになる。一方、左胸は無かった。
ヨアンを抱きしめたのも束の間、女はヨアンを軽く離すと彼の頬を両手で摘まんだ。
「痛い、痛いよ。イネスママン」
「また勝手に何処か行って! ニコールとあっちこっち探したんだよ!」
ティコとマルチェロは母親に叱られるヨアンを眺めていると、もう一人の女に声を掛けられた。
「ご親切にして下さりありがとう御座います。ヨアンがご迷惑をお掛けしました」
長いプラチナブロンドを緩やかに編んだ女が礼を述べた。顔の右側に大きな手術痕が咲いている。
「早くに家族が見つかって良かった」ティコは微笑んだ。
「駐車場に居たと伺いました。岬の先端のコテージに宿泊しているのでまさか独りであんな遠くまで行くなんて……」
プラチナブロンドの女とティコ、マルチェロは仲良く親子喧嘩するイネスとヨアンを見遣る。すると三人に気付いたイネスは『ご迷惑をお掛けしました』と会釈した。それを眺めていたヨアンはイネスに頭を掴まれると下げられた。
「ニコールママン。イネスママンがいじめるんだ」イネスの縛を振り切ったヨアンはプラチナブロンドの女に抱きついた。
「ボク苛めてないよ!」イネスは頬を膨らませる。
小さな溜め息を吐いたニコールはヨアンの頬を軽く撫でる。
「ヨアン。お兄さんとお姉さんにちゃんとお礼を言ったの? 彼らが助けてくれなければ貴方、この国で独りぽっちになる所だったのよ?」
ニコールに見据えられたヨアンはしおらしくなると、口をもぞもぞと動かす。
「……ティコ、マルチェロ……ありがと」
ティコとマルチェロは互いを見遣ると微笑を浮かべた。
ニコールがコンシェルジュと話している間、ヨアンは唇を尖らし怒るイネスから逃れようとティコとマルチェロの脚に纏わり付いた。話を纏め終わったニコールはティコとマルチェロに改めて礼を述べると『素敵なハネムーンを』と微笑み、踵を返した。イネスに手を引かれヨアンは二人に手を振り去って行った。
「……夫婦に見えるのかな? 嬉しいな」マルチェロはティコを見遣り微笑む。
ティコは鼻を鳴らした。
「それにしても子供の扱い巧いね」
「それはどうも」
「それに女神様はティコって言うのか。あまり極東らしくないね?」
「……丁子だよ。欧州や新大陸じゃ呼び辛いらしくて真面に呼ばれた事が無い。諦めて『ティコ』って呼ばせてるだけだ」
「テーコ……じゃあ極東風に『テーちゃん』って呼んでも?」微笑んだマルチェロはティコを見遣る。
鼻を鳴らしたティコはビーチに置いて来たバッグを取りに大股で去る。小さな溜め息を吐き、肩をすくめたマルチェロは彼女の背をいつまでも見送った。
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