麻薬動画依存症の彼氏が辛すぎる

ちびまるフォイ

ご覧のスポンサーでお送りしていました。

「はぁ、もうせっかくバイトの相談乗るって話だったのに。

 スマホばかり見すぎ。何見てんのよ」


「動画」


「あのさ、彼女といるときくらいスマホ置いたら?」


「うん」


と言いつつも彼氏はスマホをずっと見ている。

なにをそんなに興味深く見ているのかと覗くと

よくわからない画像の連続が点滅したり消えたりする動画を見ていた。


「なにこれ、こんなの見て楽しいの?」


「いや楽しくないよ」


「じゃあなんで?」


「上手く言えないけど、なんか見ちゃうんだよなぁ」


「ええーー……?」


男の子はそういうものなのだろうか。まったく意味わからない。

華の高校生カップルなんだからもっと青春ぽいことをしたいのに。


「それじゃ、明日学校でね」

「おお」


それでも学校という環境であればスマホは禁止。

私という彼女を第一優先でかまってくれるはず。


翌日、授業中の隙をついて隣の席に座る彼氏を見つめた。


「ってまたスマホいじっているし!!」


お互いに目くばせでもできるのかと目論んでいたのに、

彼氏ときたら一心不乱にスマホをじっと見ている。

画面には例の意味不明動画が流れていた。


「何が面白いのよ……」


それからも彼氏はトイレに行くときも、食事をとるときもスマホを手放さなかった。

常にあの動画を再生させながら。こっちに見向きもしない。


そんな不自然極まりない行動を続けていれば、結果的に。


「おい! 授業中になにスマホ見てる!!!」


――こうなる。


授業中に目線を落としていた彼氏はスマホを没収させられた。

気落ちしているであろう彼氏をフォローし興味を引くため、

授業が終わると彼氏に声をかけた。


「あーあ、没収されちゃったね。まぁ、しょうがないよ。

 放課後には返してもらえるって話だし」


「なぁ、お前のスマホ貸してくれないか?」


「え? いやいや無理だって!」


見られたくないデータやらが多すぎる。


「だよな。ちょっと行ってくる」


「行ってくるってどこへ? もう昼休み終わっちゃうよ?」


「職員室」


「なんで!?」


彼氏の歩みに迷いはなかった。

用もないのに職員室行く理由を聞く隙が無いほどにスピーディに。


「おう、お前か。スマホなら放課後に返却するからな。

 これに懲りたら――」


先生の机にやってきた彼氏はいきなり引き出しを開け始める。

鍵がかかっている引き出しは、強引に破壊してこじ開ける。


「お前!? いったい何をしてる!?」


「動画!! 動画を見るんだよォォーー!!」


壊れた引き出しからこぼれたスマホを手に取り、

床にかがみこむとスマホでまた動画を見始めた。


「なんだ……こいつ……」


先生も怒る通り越して、ただただ絶句した。

もう完全に動画により人間性を失っている。


その日のうちに、私は動画サイトに削除依頼を出した。


―――――――――――――――――

■違法なコンテンツの報告

該当動画は著作者の許可なく画像を使用しており、

また急激なフラッシュ加工による悪影響を受けています。

―――――――――――――――――


理由なんてでっちあげだ。

彼氏が動画から離れられるなら、なんだってかまわない。


私の訴えはうのみにされて動画は見事に削除され非公開となった。

これでもう動画に振り回されることはない。


翌日の学校で彼氏を見つけて、声をかけた。


「おはよ。そういえば、前に見てた動画削除されたね。

 やっぱりああいう洗脳動画?っていうのかな。よくないよね」


「ああ」


「……で、今度はなに見てるの?」


彼氏は相変わらずスマホ見ているので、画面を覗くとまたあの動画だった。


「どうして!? 確かに削除されたのに!?」


「そうなるときに備えて、ダウンロードしておいたんだ。

 ネット環境ない場所でも再生できるようにね」


「そんな……」


彼氏は信号が赤だろうが、動画を見続けていた。

スマホから目を離すと死ぬんじゃないかと思うほどに。


心配になった私は精神病院にやってきた。


「ヤブ精神病院へようこそ。あなたが入院希望ですか?」


「いいえ、私ではなく彼氏なんです。

 まずこの動画を見てもらえますか?」


彼氏は動画のバックアップをいくつも持っていた。

そのうちの1つを拝借して医者に見せた。


「これは……麻薬動画ですね」


「麻薬……!?」


「一見すると、関係のない動画の連続ですが

 サブリミナル効果などを使って、視聴者を動画依存にしてしまうんです」


「え!? でも私は平気ですよ!?」


「催眠術でもききやすい人と、ききにくい人がいるでしょう?

 あなたもある意味では危なかったんですよ」


「そうなんですね……。って、それより!

 彼氏を! 私の彼氏を治してください!!」


「ええ、ただ治療薬には莫大なお金がかかるんですよ。

 薬自体が大変高価なものなので、

 病院として使うことも取り寄せるにもお金が必要です。

 でも、うちみたいに小さな病院ではとても……」


「じゃあ私がお金かせぎます!!」


「個人で稼いだお金を病院側が受け取ることはできません。

 あくまでも病院が手に入れたお金でないと」


「そんな! 病院はここしかないんですよ!?」


「高価な薬による治療はできなくても、

 スマホを没収した入院生活をすればあるいは……」


「……」


動画見たさに先生の机をぶち壊した彼氏の異常ぷりを考えると、

入院させてもまた何か問題を起こしかねないのかと心配になる。


「しかし、あなたはどうしてそこまで親身なんですか?

 失礼ですが、正直話に聞く彼への愛情みたいなのは感じないので」


「えっ?」


そういわれれば、そうだ。


スマホの待ち受けも彼氏にしていない。

別にプリクラも取ったりしていない。

会えなくても震えない。

他の女と話しているのも見ても平気だった。


「なんで、こんなことやってるんだろ」


私は結局「彼氏持ち」というステータスを捨てるのが惜しくて

壊れる彼氏をなんとかつなぎとめようとしてただけなんじゃないか。


そう考え始めるとなんだかバカバカしくなって、

彼氏の更生にあれこれ考えなくなった。


「ま、どうせ私には関係ないし」


彼氏をフェードアウトさせようと、携帯から連絡先を消そうとした。

ちょうど病院で見せるように入れていた麻薬動画が見つかった。


「これって、見た人を中毒状態にさせるのよね……。

 もしかしてこれ使えば、おこづかい稼ぎできるかも!?」


彼氏の超絶怒涛の依存ぷりを間近で見ていた私ならわかる。

麻薬動画に、広告をつければ収入が大量に入るはず。


ユーチューバーのように動画を作らなくても、

同じシステムで私のところにお金が流れてくるはず。

だって、みんな病みつきになったら離れられなくなるんだから。


私は彼氏のバックアップデータをネットにアップし、広告をONにした。


1クリックごとに単価が決められて、

その儲けは広告主と動画主の私へと流れるメカニズム。


「すごい!! もうこんなに!!」


あっという間に再生回数の桁は増えまくった。

サイトの更新ボタンを押すたびに一桁増えている。


普通の動画みたいに1度見たら終了するのでなく、

同じ人が何度も何度も同じ動画を見るもんだから、どんどん増えていく。


私の広告収入もめまぐるしく増えていくのがわかる。

お金で悩んでバイト探してた日々が懐かしい。


「あはははは!! 私ってホント天才!!」


笑いが止まらなかった。

あれほど欲しがっていたお金が温泉のように湧いてくる。




でも、ある程度貯まってしまうともう使うこともなくなった。


「なんで前までの私はお金あんなに足りなかったんだろう」


あの服が欲しい。

化粧品が気になる。

服に合うバッグを買いたい。


前まであんなに欲しがっていたものも、

今となってはいくらでも買えるのにまったく欲しくない。


「……あ、そっか。私キレイって思われたかったんだ」


高校で初めて自分を「好きだ」と言ってくれた彼氏によく思われたい。

「美女を連れている」と誇らしく思ってほしい。

私といる時間が、彼にとって何よりも尊くあってほしい。


すべては自分のためじゃなかったから、お金を飛ぶように使っていた。


「私、めっちゃ好きなんじゃん」


私は精神病院へと走った。


「どうしたんですか!? そんなに慌てて!」


「買います!! 私が買います!!」


「だから、それは――」


「薬じゃないんです!! この病院そのものを買います!!

 私が病院買い取るんで、治療薬を私の金で買ってきてください!!」


「それは……」


「これなら文句ないでしょ!? 私の病院にするから!!

 私は一刻も早く治したい人がいるの!!」


「それはできません」


「なんで!?」


医者は首を横に振った。



「だってもう、あなたの彼氏は治っていますから」


「え?」


医者の後ろから、ご本人登場みたいに彼氏が出てきた。


「どうして!? この病院にはお金がないって……!!」


「実は最近、急な収入が入りましてね。

 それで薬を買うことができたんですよ」


「今まで悪かったな。悪いと思っていても、動画から目離せなかったんだ」


「うん、知ってる。彼氏なら心配かけんな」

「ごめん」


やっと彼氏は戻って来た。当たり前のように私の隣に。


「もうこんなことないように麻薬動画は消しておこうぜ」

「うん」


私は投稿動画を削除しようとサイトにつなげた。

医者の顔が青ざめた。


「ま、待って!! どうかそれだけは!!」


「え?」


削除寸前に動画を見ると、広告が入っていた。



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