幽霊になった平坂美夜は暇だから働くことにした

@abcde697

エピソード0 死

ビルが立ち並ぶ繁華街。多くのビルの看板に人型ロボットや可愛い女の子の絵が描かれている。そんな繁華街をスーツを着たサラリーマンや学生服を着た少年少女が行き交っているが、なかでも黒い服を着て眼鏡をかけた集団やチラシを配っているメイド服を着た女性が目立っている。



「最近、模手夫がそっけないんだよねー。私と一緒にいる時ゲームばかりやってるしメールを無視することもあるし……って聞いてる?」

「はいはい、聞いてますよー。酷い男だねー。雪音は苦労してるんだねー」

仲良さそうに歩く3人組の少女のひとりが愚痴をこぼした。活発で気が強そうな少女だ。

彼女の愚痴を興味なさそうに聞いているのは、低めの位置にポニーテールを結んだセミロングの少女。凛とした雰囲気を出し、力強さの中に優しさを感じる目をしている。


「そっけないなぁ。興味なさそうだね」

「アンタの彼氏の話なんて、どーでもいいよ。夕莉だって興味ないでしょ?」

「はは……」

  夕莉(ゆうり)と呼ばれた少女の髪はやや茶色がかっていて肩まで伸びている。清楚で儚げだが、どことなく芯の強さを感じる。 



「あーあ、夕莉はいいなぁ。面田さんとラブラブで」

「そんなことないよぉ」

「そう? バイト中もお互い目配せしてラブラブオーラを出してるくせにぃ」

「そんなふうに見える?」

「うん」

「……今度から気をつけよう」

「ちっ」

 何故かポニーテールの少女が妬ましそうに舌打ちをした。



「そういえば模手杉君って県外の大学にいくんだよね?」

 これ以上、雪音に冷やかされたくないと思ったのか夕莉は雪音に話を振った。

「そうなんだよ。遠恋になるから別れようかな」

「はははは。別れちゃえ、別れちゃえ」

 ポニーテールの少女が、はじけるような笑顔で言った。

「あ、ひどーい。ていうか、なんかイライラしてない?」

「してないよ」

「あ、もしかして彼氏がいないからって嫉妬してるの?」

「うっ……。べ、別に雪音達が誰と付き合おうと私には関係ないし。私は大学で、いい男を見つけるから嫉妬するわけないじゃん」

嫉妬しないと言いつつ、その顔には焦りが見える。おそらく図星なのだろう。

「ま、がんばってね」

「美夜なら、いい彼氏ができるよ」

「ふふふ。夏休みまでに」

 突然、鈍い音がして「何か」が少女の言葉を遮った。

 予想外の出来事に目を見開き驚く雪音と夕莉。彼女たちの目の前には首が180度曲がり、口と、陥没した頭から血を流して倒れている少女がいる。横には先程まで、いなかったはずの男も倒れていた。 




「きゃぁぁぁぁ」

 雪音と夕莉が悲鳴をあげて泣き崩れた。


「おいおいおい、マジかよ」

「どうした! 何があった?」 

「男が飛び降りて女の子にぶつかったんだ!」

 異常な事態に周囲の人間がどよめき始める。



「美夜、美夜、みよぉぉ」

 雪音と夕莉が大粒の涙で顔を歪ませ友人の名前を叫ぶが、少女は返事をしない。

 ややあって、2人の叫び声を聞いた通行人が集まりだした。

 


「美夜、返事をして! みよぉぉ。うぅぅぅ」

 夕莉が美夜の胸に伏せて泣いている一方で、雪音は美夜の手を強く握り締めて友人の名前を呼び続けている。

 しかし、美夜は返事をしない。


                                                 

「おい、誰か救急車を呼べ!」 

「いや、もう無理だろ……」

「うわっ! グロッ」

「これ死んでるよねー」

「珍しい光景だな。写真とろう」

凄惨な状況を半ば楽しそうに見ていた野次馬たちが、スマートフォンを取り出した。

 


「ねぇ…なんで、写真なんか撮ってるの……? 撮らないでよ……」

雪音が、感情を失ったような表情で撮影をやめるよう切願するが、野次馬たちは撮影を続けている。


「撮らないでぇぇぇぇ」

 鼓膜が破れるような雪音の叫びにも美夜は反応せず沈黙を続けていた。

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