Deus vult(デウス・ウルト)

puny

第1章 プロローグ:明晰夢

子供の頃よくこんな夢を見た。


見知らぬ場所で、見覚えの無い人達と一緒にいる夢。


人見知りで臆病な性格なのに、そこではそんな素振りも見せず

その人達と気心の知れた友人の様に楽しく笑いあう。


支離滅裂で不合理で、ハチャメチャ事ばかり起こるけど

とてもとても楽しい夢。



目が覚めた後、失われてしまい朧げな記憶をなんとか辿り

楽しい夢を思い出そうとするが、楽しかったという記憶しか辿り寄せられず

まるで胸に穴があいた様な喪失感に襲われた。


それはとても大事にしていた宝物を失ってしまったときの気持ちの様だった。


だからその度に

「あれは前世の記憶だったかもしれない」と思った。


前世の記憶なら、今は忘れてしまっても

いつかまた思い出せる日が来る気がしたのだ。


目覚めると同時に薄れていく、夢の記憶の残滓をかみしめつつ

私はそう思うことで、自分の気持ちに整理をつけていた。

前世があるなんてなんて少しも信じていなかったのに。



だから今見ている物もそんな夢なんじゃないかと思ったのだ。

とてもリアルで現実の出来事の様に見えるが、今まで見た夢の中でも同様に思っていたはずだ。



夢の中で夢と自覚してみる夢、これはいわゆる明晰夢なのだ。

目が覚めてしまえば、見た事するら忘れてしまう儚い夢。



だから何があっても、もう何とも思わなくなった。



自分は一切動けず、首を振ったり声を出したり出来ない。

ただ目を明け、目の前の出来事をただただ見続ける。



楽しいとは真逆の事ばかりだったが

他に出来る事が無いのだから仕方が無かった。



目の前では悍ましい光景が、何度も何度も繰り返し、繰り返し行われたが

見飽きすぎてしまい、何の感想も起きなかった。



お決まりのセリフ、お決まりの行動、お決まりの結末。

ワンパターンすぎて、少しも興味をそそられなかった。



最初は驚き、嘆き、号泣したものだったが、今となっては何故そう思ったかも思い出せない。それに、今更それについて感想を持っても、夢から覚めてしまえば忘れてしまうだけなのだし。



今日も繰り返される光景を見つつ、見飽きた展開だと早々に見切りをつけ

私は意識を暗い闇へフェードアウトさせた。

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