第23話 合宿9
私の思い人である男はそこにいた、砂浜に降りる途中の階段に座り、星空を眺めていた。
「(……心配させるなバカ)」
そんな心の声で気づかれずに罵倒した後に、私はゆっくりとアイツに近ずいていく。
夏の大三角形を象る星を人に例えたりなんかしている奴は大体黄昏ている奴である、ソースは私。
何とか自然に隣に座って二人して星を眺め始めた、星というのは不思議で、季節ごとに違う星座を見せてくれる。
私が星を覚え始めたきっかけは今は亡きお兄ちゃんだ、お兄ちゃんは優しくて、私になんでも教えてくれた。
そんなお兄ちゃんが私に一番最初に教えてくれたのが、夏の大三角形。
ベガ、デネブ、アルタイルは私にとって特別な星なのだ。
両親とお兄ちゃんが死んで、始めて来た夏には毎日星を見て三つの星を三人に重ねたりもした。だからだろう、今私の隣にいる男に親近感が湧くのは。
それから色んな話もして、私の本性を晒して見たりもした。
嫌われると思ってやったのだが、以外と好感触だったことに驚いた。それと同時に、コイツを私は好きなのだ、と自覚もしてしまった。
そんな時、コイツは私の予想だにしない暴露をした、『暗殺者だった』と言うカミングアウト。
それも、私が暗殺者になるきっかけとなった『ジャック』と言う暗殺者だと。
それに私は驚きはしたが、それよりもコイツを可哀想だと思った。
……だから私は
「……死んで?」
隣の暗殺者、『ジャック』を殺した。
*******
今まさに訪れるだろう死に、俺は恐怖を覚えなかった。それどころか、『仕方ないか』とすら、思ってしまった。
引退した身ではあるが、俺は多組織の暗殺者からすれば邪魔者となりかねない。もしも俺が現役で、今と逆の立場だったとしたら俺もこうしただろう。
そして、俺は覚悟を決めて瞼を閉じた。
しかし、銃声が……ならなかった。
「あ、カリ?」
薄っすらと目を開けて現状を確かめる、まだこめかみには鉄の感触がある。しかしアカリが引き金を引く気配がない。
するとアカリは深呼吸して、
「ばーん、はい、これで暗殺者ジャックは死んだ」
「……は? 何言ってんだ、俺はまだ生きて……」
「いいの! 今を持ってジャックの仕事は全部終わったの!
だから今のアンタは七島風音よ」
あぁ、そうか。
「因みに敢えて軽く言うけど、私も暗殺者、それも現役の」
アカリはエヘンと胸を張って自慢するが如くそう言った、
「うん、知ってた」
「なんで!?」
確かにキングと似ている、言動とか、いじりがいとか。
それと、不器用な優しさとか。
「ま、何か、ありがとな」
「どういたしまして! じゃなくて!! 何で私が暗殺者だって知ってるのよ!」
「元暗殺者でもまだパイプは繋がってるんでね」
俺はドヤ顔でアカリにそう言う、するとアカリは悔しそうに『これが組織の強みね……』なんて悔しがりながら言うもんで、俺は吹き出してしまった。
「……てか、さっきアンタが星に例えてた中のクイーンって三銃士の?」
「ん、まぁ、そんな感じだな」
「へぇ、……ね、どんな人なの!! 銀色のなんとかってことは容姿に何か銀色が関係するのよね?」
そうですね、バッチリ関係してます。
「私の周りだとそんな人美月ぐらいだけど……そんな訳ないか、あの子だったら寝込み襲われても余裕で返り討ちにできそうだし」
「そ、そっすね……」
貴方一回殺されかけてますよー、貴方寝てる時に普通に襲われてましたよー。
「何よそのムカつく顔、撃つわよ?」
「それはマジ勘弁」
本気で撃たれてはシャレにならないので素直に謝る。
誠意って大事。
にしても、今俺の目の前にいるアカリは前の性格と百八十度違いすぎて、あの時俺に告白してきたアカリはもしかすれば別人なのでは? とすら、思ってしまう、
ジキルとハイドバリに。
「あ、……ご、誤解されないうちに言っとくけど! あの、ひ、ひるの時のあれ!」
「え!? お、おう」
「あれは、その……に、任務、だから」
「そう、か……了解」
あの時のあれが演技とか、流石キングの妹だ、普通に騙された。
どうやらアカリは美月の言う通り危ない。色んな意味で。
と言うかあれが任務って、一体任務詳細はなんなのだろう?
「何ショック受けてるのよ! この私を簡単に落とせると思わないでね! それと、間違って私にうっかり惚れないように!」
「りょ、了解」
俺がそう言うとアカリは満足したのか、サッと立ち上がり、俺に背を向けて階段を駆け上がる。上まで上がったところでアカリは何か言い忘れたのかこちらを振り返り、
「私の本性はみんなには内緒だからね!」
と、それだけ言って、今度こそどこかへ行ってしまった。
「……アカリ、ありがとな」
もう誰もいない海辺で俺はそう呟いた。
今回俺はアカリに大きい借りができてしまった、だからいつか返そう、と、言ってもあれほど強い奴が参る時なんかあるのかどうかは分からないが。
しかし、つい先程ジャックは死んだ、ここからは七島風音のターンだ、見事へし折ったフラグを立て直し、俺のリア充合宿を取り戻してやる。
そう気合いを込めて俺は立ち上がり、そして階段を登って行く、まず手始めにみんなの心配をとくことから始めよう。
階段の一番上に登りきり、そして俺は振り返って先刻は歪んで見えた水平線を眺める。
星明かりに照らされた水面は穏やかで、遥か向こうの水平線は、くっきりと視界に入った。
そんな水平線に向かって、俺は溜まった思いを吐き出した。
敢えて小声で、囁くように、
「……もう惚れてるよ、バーカ」
そんな俺の言葉に、夏の大三角形は微笑んでいる気がした。
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