愛に順応してほしいだけなんだ
「あれ? なんかいる……――あ、マロだ。なんだお前も入ってたのか~」
「猫はコタツ好きだからな」
「あ、やば……ウズウズしてきた」
「トイレなら黙って行け」
「猫を見ると、どうしてこんなに抱き上げたくなってしまうんだろう」
「無視か」
「猫は全身で誘ってると思わないか? この絶妙な丸み、柔らかさ、温かさ、滑らかな毛並み、感情豊かな尻尾の動き、可愛い声、可愛い顔、つい裏返したくなる耳、不器用そうな小さな手と肉球。――そして、抱っこした時のとろけるような幸福感。猫が持つこの適度な重み。生まれたての新生児とほぼ同等であるこの重みが、人間の本能的な“可愛い”を呼び起こすんだ。そうに違いない」
「だからって抱き上げたら嫌がられるぞ」
「しかし、我々は誘惑さ、され、てい、るん…………ダメだ! もう我慢できない! 抱かせてくれマロ!」
「フギャアアアアアア!」
「ホラ怒った」
「――痛っ! くっ……おいマロ。遥か昔、お前達の祖先は人間と共存する為、我々の生活に順応する覚悟を決めただろう。その証拠に、お前は魚が大好きじゃないか!」
「そりゃ猫は魚好きだろう」
「そう、今はな。しかし水が死ぬほど苦手な猫が、なぜ魚を好むと思う?」
「お、そういや自分で狩れないのに好物なのは不思議だな」
「そうだ。猫は本来、鳥などの小動物を主食としていたのだ。だがある時から猫は魚もいけるようになった。それはなぜか? ――教えてあげよう。それは、日本人の主食が魚だったからだ」
「餌として食べてたら好きになったってことか」
「その通りだ。日本で進化した猫は、人間から餌をもらうために魚好きへと嗜好を変えたのだ」
「へぇー」
「つまり猫はもっと本気を出せば、人間の抱っこも大好きになれるはずなんだ! ほらマロ! こうして我々に抱かれていれば、今よりもっと美味い食べ物がもらえるんだぞ。お前たちは食の為ならプライドなどドブに捨てる生き物だろ? ん?」
「言うことが悪代官みたいになってるぞ」
「お前はこれほどまでに誘う体をしているんだ。いいじゃないか。抱かれ慣れちまえよ!」
「目つぶって聞くと完全に有罪のセリフだな」
「あああ柔らかい。温かい。可愛いよマロ……もふもふしちゃうよォォ!」
「フギャアアアアアア!」
「――!! 痛ったぁ!」
「あ~あ。やっぱり引っ掻かれたじゃん――っぷ、うわははっ! すげー。マロ、よっぽどお前を黙らせたかったんだな」
「っく、い、痛い。なんか口がすごく……」
「お前の口な。見事にバッテン付けられてるぞ」
〜完〜
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