時が来た。叫ぶべき正しい言葉は?

さくらそうか

使うべき言葉を吟味したいだけなんだ

「やば……トイレ行きたい」


「行けば」


「いや、違うな。“行きたい”という表現は正しくない。私はトイレに行きたいわけではないんだ。決してね。だってそうだろう。尿意があるからトイレに行く必要があるだけであって、トイレに行きたいわけじゃないだろう? この場合は“尿意を解消したい”、もしくは“放尿せざるを得ない”と言うべきではないだろうか」


「どーでもいい」


「“尿意がある”ということを“トイレに行きたい”と表現することに、我々はなぜ今まで違和感を抱かなかったのだろう。誰だって行く必要がなければ行きたくないだろう? 昔は“ご不浄”なんて呼ばれてたような汚いところだぞ」


「ウザい」


「便所飯をする人だって、好きであんな所に行くんじゃない。他に清潔で人目が無く安らげる場所があるならそこに行くさ。──いや待てよ。否が応にも“トイレに行きたい”と心から願ってしまう時があるな。それはいつだと思う?」


「黙れ」


「教えてあげよう。それは“強烈な便意”を感じた時だ。例えば腹を壊しているのに、電車が特急だからしばらく降りられない……生き地獄だ。こういう時はどんなに屈強な人でも、“トイレに行きたい”と強く思ってしまうだろう」


「お前が地獄に行け」


「そういう緊急事態を考慮するなら、“トイレに行きたい”という表現は非常に汎用性に溢れていると言えるな。さあどうしよう。ここは言っておこうか。“トイレに行きたい”──と。ああ、こんな僅かばかりの尿意では少々役不足だが、戦闘狂の勇者がこの暖かい天国こたつから大寒の世界トイレへ旅立つ理由として叫ばせてもらうよ。それはもう、盛大にね──」


「死ねよ」


「行きたい! トイレに!」


「倒置法かよ」


「あ、やっとウケた」





~完~

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