二十日目(土) プレゼントは心だった件

「ジグソーパズルとかどうかな? インテリアにもなるし、水無月さん好きそう」

「お洒落で良いけど、阿久津はパズルとか苦手だから崩さないままになるかもな」

「そうなんだ。ちょっと意外かも……でも米倉君はこういうの得意そうだよね」

「まあ小さい頃によく遊んだし、割と得意な方だな。夢野は?」

「私はやってる人を見るのが好きかな」

「何だそりゃ?」




「これなんて良いんじゃないか? 脚に取り付けることで、寝起きと共に快適なマッサージをしてくれる目覚まし時計!」

「水無月さんって朝弱いの?」

「いや、滅茶苦茶強い。陶芸部で窯の番をした時も、寝起き二秒でいつも通りだったし」

「それじゃあそれが必要なのは、梅ちゃんに起こされてる米倉君だね」

「うぐ……い、いや、でも最近は俺もちゃんと自分で起きてるぞ?」

「そうなの? 朝が苦手なら、私が起こしに行ってあげようと思ったのに」

「え?」

「ふふ。何でもなーい♪」




「やっぱり無難にノートとかの方が喜ばれるかな? クリスマスのプレゼント交換でも、水無月さんが用意したのって勉強道具だったし」

「あれ、後悔してたみたいだったけどな」

「え? そうなんだ……うーん、じゃあこういうのは?」

「札束っ? …………ってこれ、メモ帳なのか」

「うん。水無月さん、使いそう?」

「いや、ジョークグッズとかはあんまり好きじゃないと思うぞ」

「そっか……えいっ(びしっ)」

「気持ちはわかるけど、商品で頬を叩くなよ」

「えへへ。やってみたくてつい」




「猫以外に水無月さんの好きな物……棒付き飴?」

「好きかどうかはともかく、何個か買ってプレゼントってのは有りかもな」

「じゃあ棒付き飴一年分!」

「一日一個として、一年分だと10950円だぞ? 一ヶ月分なら900円だけど」

「米倉君、計算速いね。じゃあ桜桃ジュース一年分だったら?」

「お値段…………43800円だな」

「凄い! どうやって計算してるの?」

「120×365は大変だから60×730に変えて、後は暗算で――――」




「いっそこれで良いんじゃないか?」

「もー。米倉君、真面目に考えてないでしょ?」


 太文字で『私が主役です』と書かれたタスキを見せると、夢野にジトーっとした目で見られる。男だったら問題ないが、女子同士のプレゼントでこれは流石にないか。

 お互いにアイデアを出し合ったが、未だに名案は浮かばず。ただ結構な時間を歩いているものの、不思議とあまり疲れてはいなかった。


「少し休憩しよっか」

「ん? ああ」


 俺のことを気遣ったのか、はたまた別の理由だったのか。特に疲れた様子もなく元気いっぱいだった夢野はそんな提案をすると、俺がベンチに腰を下ろした後でちょっと行ってくるねと化粧室の方へ向かった。


「…………」


 正面にある電気店をボーっと眺めつつ、さてどうしたものかと考える。

 阿久津の欲しがる物なんて俺は知らないし、これといった心当たりもない。梅なら知ってるかもしれないが、色々と茶化されそうなので聞いてこなかった。

 そもそもプレゼントなんてのは、心が大事なんじゃないだろうか?

 相手の喜ぶ物を贈りたいという夢野の気持ちも分かるが、何にしても想いが籠ってれば受け取る側は嬉しいし、アイツだって普通に喜ぶと思うんだけどな。


『ピトッ』


「ふぉあっ?」


 いきなり背後から頬に冷たい物を当てられ、思わず飛び上がる。

 慌てて振り返ると、そこには両手に缶ジュースを手にした夢野がクスクスと笑っていた。


「米倉君、ビックリしすぎ。ふぉあ! だって」

「夢野か。驚かせるなよ」

「ふふ、ごめんね。はいこれ、付き合ってくれてるお礼」

「ん? いいのか?」

「うん。私の奢り。いつものが無かったから、それっぽいのだけど」

「サンキュー」


 さくらんぼのイラストが描かれた、冷たい缶ジュースを受け取った。

 改めてベンチに腰を下ろすと、同じ缶を手にした少女が隣へ座る。奢ってもらっておいてなんだが、このままやられっ放しでいいのかと俺の中の悪魔が沸き出てきた。


「ん? 夢野、背中に糸くず付いてるぞ」

「えっ? どこどこ?」

「ちょっとあっち向いてくれ」

「うん。ごめんね…………ぴゃんっ?」


 缶で充分に冷やした左手で、仕返しとばかりに首筋へ触れる。

 先程の俺同様に飛び上がった少女は、こちらを振り返るなり頬を膨らませた。


「もう! 米倉君の意地悪!」

「やられたらやり返さないとな…………って、どうしたんだ夢野?」

「はい、米倉君はもう立てません」


 人のおでこに指を当てるなり、唐突に少女はそんなことを口にする。別に俺を抑えつけるような力も入っておらず、本当に軽く押し当てているだけだ。


「嘘だと思うなら試してみて?」

「いや簡単に……あれ……? ふんっ! ぬんっ!」

「ね? 立てないでしょ?」


 まるで催眠でも掛けられているかの如く、不思議と立ち上がることができない。必死に足掻く俺に向けて、夢野は小悪魔めいた笑みを浮かべる。


「やられたらやり返さないとね♪」

「えっと……夢野さん? ちょっとタンマっ! 待っ――――」


 結局この後、俺は夢野によって全身くすぐりの刑に処されるのだった。

 後で教えてもらったことだが、実は座ってる人間の額へ指を押し当てると重心の関係から立ち上がれなくなるらしい。家に帰ったらアホな妹で試してみようかな。

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