十一月(中) 白い耳当て

「見て見て! このブレスレット良くない?」

「……作るのは難しい」

「何で作ろうとすんのよっ?」

「うん。ミズキのそれ可愛いね」

「どうしよっかなー…………決めたっ! 買ってくる!」


 今日は私にミズキ、それに冬雪さんと水無月さんの四人でショッピング。このメンバーで出かけるのは初めてだけど、今はアクセサリー屋さんで物凄く楽しんでます。


「マグネットピアス……ふむ。こんなのもあるんだね」

「あ、それこの前テレビでやってたよ。磁石で取り外しできるし安いから、まとめ買いして友達と分けあう子とかいるんだって」

「この手の類は付けるだけで肩が凝りそうだよ。夢野君は何か買わないのかな?」

「うん。私もこういうのは見る方が好きだから」

「それもショッピングの醍醐味だね。ん……音穏、まさかそれを買うのかい?」


 冬雪さんがボーッと眺めてるのはタトゥーシール。花柄とかハート、キスマークなんて付けてるイメージが全然沸かないけど、こういうの好きだったりするのかな?


「……陶器に描く模様の参考」

「「あー」」


 納得して声が重なる。思わず顔を見合わせて、二人して笑っちゃった。

 そんな私達を見て不思議そうに首を傾げる冬雪さん。本当に陶芸大好きなんだね。


「おっ待たせー」


 ミズキがブレスレットを買った後は次のお店へ。今日のメインは洋服だけど、気になるお店があったら寄り道……なんて言ってたら、早速あったみたい。


「すまない。少し寄ってもいいかい?」

「あ、私も見たいかも」

「いいわね。行きましょ!」


 という訳でペットショップへ。若干早足になった水無月さんが真っ先に向かったのは、店員さんに抱きかかえられている猫ちゃんの所でした。


「へー。猫も爪とか切るのねー」

「隔週に一度くらいかな。ウチにもいるけれど、これが中々に大変でね」

「水無月さん、猫飼ってるんだ」

「あ、あれでしょ? アルカス!」

「よく覚えていたね」

「ふふーん。まあ覚えやすい名前だし?」


 ミズキのことだから、またギリシャ神話とかそういう感じなのかな?

 動物は可愛いけど、私がペットを飼った経験は二回だけ。一回目は夏祭りの日に釣ってもらった金魚……まあ本当は釣ったんじゃなくて、網が破れても続けようとしたクラクラにオジサンがサービスでくれたんだけどね。

 そして二回目も米倉君から……でも思い出して貰える日はまだまだ先かな。


「……」


 猫に夢中の二人を置いて店内を見て回ると、小さなケージの前でボーっと眺めてる冬雪さんを発見。何を見てるのかと思ったら、ペットといえばこれも定番だよね。


「冬雪さん……っと、呼び方、雪ちゃんでもいいかな?」

「……(コクリ)」

「ふふ、ありがと。ハムスターかあ……昔、友達が飼ってたっけ」

「……羨ましい」

「雪ちゃんの家はペット飼ってないの?」

「……ない。ユメの家は?」

「私もいないよ。でもハムスターとか、飼ってみたいな」

「……もし飼うなら、あれ作る」

「あれって?」

「……あの陶器の家」


 そう言って雪ちゃんが指さしたのは、ハムちゃんが住んでるどんぐりのお家。もしかしてケージを眺めてたのって、そっちが本当の目的だったり?


「私も何か作ってみよっかな。やるとしたら陶芸じゃなくて手芸だけど」

「……手芸……編み物?」

「うん。後は羊毛フェルトとか」

「あー、いたいた。二人で何見てんのよー?」


 ミズキ達と合流してから他の動物も見て回りつつペットショップは終わり。その後も手芸用品に100均、スポーツ用品にCDショップと色々回っちゃった。




「できた! ねえねえユッキー、読んで読んで!」

「……あなたのはーとにもえもえきゆん❤」

「この平仮名ワッペンの並びを見た客が、SNSにでも投稿しそうな絵面だね」

「もうミズキ! お店の商品で遊ばないの!」




「……100均は掘り出し物が多い」

「わかる! でもちょっと見ないうちに、すぐ品揃え変わっちゃうのよねー」

「それに安いし、私もついつい色々と買っちゃうかな」

「日常的に使える便利な物も多いからね」

「ってことで山手線ゲーム! 今まで100均で買った物! はい、ユメノン!」

「へっ? えっと……可愛いキャンドルとか?」

「……ミニルーター」

「付箋かな」

「セクシーボンバー」

「「「アウト」」」

「何でそんな目で見るのよっ?」




「そっか。水無月さん、中学時代はバスケ部だっけ」

「バスケかー。体育の授業中にジャンプボールで突き指して以来、苦手なのよねー」

「……悲惨」

「後輩の誕生日が近いけれど、プレゼントに悩んでいてね」

「バスケでプレゼントと言ったら、やっぱり白バスグッズでしょ! バスケやってる女子で知らない子なんていないって!」

「そういえば私の妹も好きだって言ってたっけ」

「それが申し訳ないけれど、ボクは知らないんだよ」

「嘘ぉっ?」

「うーん……他にプレゼントって言ったら、リストバンドとかタオルとか?」

「……ダンベルなら作れそう」

「音穏は少し作るという発想から離れようか」




「ミズキ、何聞いてるの?」

「ユメノンも聞く? はい片耳」

「あっ! これ新曲のっ?」

「そうそう」

「…………」

「………………」

「二人で何を聞いてるんだい?」

「あ、ツッキー。はい、アタシの方あげる」

「すまないね」

「…………」

「………………」

「……………………♪~」

「くす」

「ん? どうしたんだい?」

「水無月さん、鼻歌で歌ってたよ」

「!」

「ついでに言うと、身体も動いてたわね。あ、ユッキーこっちこっち」

「……ミナ、どうかした?」

「何でもないよ。次に行こうか」

「……?」

「へー。ツッキーってば本当にポーカーフェイスねー」

「え? あれで恥ずかしがってるの?」

「顔が赤くなったりはしてないけど、かなり恥ずかしかったと見たわ。自分から話さない辺りがそうだし、心なしか若干早足だし。何か手にもメッチャ力込めてるし」

「「……成程」」




 ★★★




「それにしても、パーソナルカラーなんて初めて聞いたよ」

「私も雑誌で読んだだけだから、あんまり詳しくは知らないんだけどね」


 途中でお昼ご飯も食べて、結局洋服を買ったのは午後になってから。ボーイッシュな服ばっかり選ぶ水無月さんに、女の子っぽい服を皆で奨め合ったりしたの。

 その後も色々とお店を歩き回ったりして今は休憩中。ミズキと雪ちゃんがお手洗いに行ってる間、私と水無月さんはベンチで荷物番です。


「きっと水無月さんは白が似合うと思うんだけど……違ったらゴメンね」

「いやいや、勉強になったよ。ボク一人ならマネキンが着ている服をそっくりそのまま買うだけで、耳当てなんて買わなかっただろうからね。本当にありがとう」


 人には生まれ持って、雰囲気と調和する色があるんだって。

 その色がパーソナルカラー。本来はいくつかの質問に答えて診断するんだけど、不思議と水無月さんは白系が似合いそうって思ったの。


「夢野君は普段、一人で買い物に行くのかい?」

「ううん。妹と一緒のことが多いかな」

「妹がいるのは羨ましいね。ボクも兄妹が欲しかったよ」

「でも最近妹がよく梅ちゃんと連絡取ってるみたいで、事あるごとに水無月さんの名前が出てくるからお姉ちゃんみたいだって言ってたよ?」

「家が近所だったから、よく桃ちゃん……梅君のお姉さんも交えて一緒に遊ぶことが多かっただけさ。確かにボクに妹がいたら梅君みたいな感覚なのかな」


 名前は出ていないけれど、きっとそこには米倉君もいたんだと思う。

 私に桜桃ジュースをくれた、心優しい男の子。

 いつもバスを見送っていた彼は、遊びの時間になると必ず数人の女の子が一緒だった。きっと優しかったから、色々な子から人気だったのかもしれない。


「じゃあ、米倉君は?」


 悪戯半分で、そんなことを聞いてみる。

 でも水無月さんは顔色一つ変えずに、考える間もなくさらりと答えた。


「手のかかるペット……いや、弟かな」

「そっか。でも二人って本当に仲良しだよね」

「勘違いしないでほしいけれど、ボクと櫻は単なる腐れ縁だよ」

「気になったりしないの?」

「まさか。ただ前に一度、櫻を見て胸がチクっと痛んだことがあったかな」

「え? それって……?」

「手を胸に当てたら物凄く痛むんだ。不思議に思って服の中を見てみたら、名札の安全ピンが外れて内側に刺さっていたんだよ」

「………………ぷっ」


 思わず声に出して笑っちゃった。流石にそれは恋じゃないか。


「寧ろボクには、櫻が夢野君のことを気にしているように見えるけれどね」

「そんなことないよ」


 それはただ単に、私の出したクイズについて考えてくれてるだけ。ここ最近はコンビニに来てくれないけど、忙しかったりするのかな?

 ミズキは事あるごとに陶芸部へ誘ってくれるけど、米倉君に会いたいって理由で入るのもどうかと思う……前まではそう考えてたけど、待つだけは少し寂しい。


「水無月さんこそ、昔は凄く仲良かったでしょ?」

「昔の話さ」


 私が「水無月さん」って他人行儀な呼び方を変えられない理由がこれ。

 本当、あんなに仲良しだったのに何があったんだろ?




『さくらくんは私と遊ぶの!』

『今日は私と遊ぶって約束したもん!』

『え……えっと……』

『私の方が先!』

『私の方が先だったもん!』




 二人して櫻君櫻君って引っ張り合ったこと、水無月さんは覚えてるのかな?

 三人で遊ぶことも時々あったけど、その度に米倉君が困ってた気がする。でも卒園が近づいて、進学先の小学校が二人と違うって知った時はショックだったな。

 だから私はあの日、水無月さんに内緒でこっそり米倉君を呼んだの。




『さくらくん。みなちゃんと私、どっちが好き?』

『勿論、蕾ちゃん!』

『じゃあ私、さくらくんの彼女になる!』

『うん! いいよ!』




 思い返すだけで笑っちゃう、幼稚園児同士の約束。

 秘密基地に二人の相合傘があることを知ったのは、ボランティアを始めた後のこと。もしかしたら米倉君、同じ質問をみなちゃんにもされてたのかな。

 でもこうしてまた彼と出会えたのは、偶然じゃないって思ってる。


「……ただいま」

「さて、そろそろ帰り時かな」

「あ! その前にあっちにプリあったから、皆で撮りに行かない?」

「うん! 撮ろっか!」


 二人が単なる腐れ縁なら、もう悩まないし諦めない。

 私は米倉君が好き。

 みなちゃんには負けちゃったけど、水無月さんには負けないんだから。

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