五日目(金) 体育祭(承)が傍観だった件
「さあっ! 続いての種目はムカデリレーっ! 実況はわたくし米倉櫻、解説は火水木アキト氏。そしてゲストに冬雪音穏さんを招いてお送りさせていただきますっ!」
「……ヨネ、行く前と正反対」
「自分の競技が超絶平和的に終わって、ウッキウキの猿状態ですしおすし」
「猿! 猿と言えば桃太郎! そして桃太郎と言えば? そう、ムカデですね!」
「ちょまっ? 桃太郎のどこにムカデ要素があるのか、流石に無理ありすぎだろ常考」
「そんなことはありません。かつて桃太郎は犬、猿、ムカデと共に鬼が島へおおっとレースが始まりましたっ!」
「……キジは?」
「それにしてもこの米倉氏、ノリノリである」
第二種目のムカデリレーは一クラスにつき男女四人ずつが出場。先にスタートする女子四人のムカデが一直線に進み、同じ道を男子四人のムカデが戻ってくる。
一ハウスにつき一年は四クラスであるため、合計八匹のムカデによる四往復のハウス対抗勝負。勿論4×100リレー同様、それが学年ごとに行われる訳だ。
「この競技には我々C―3より相生葵選手が出場しております。競技の見所としては、どの辺りになるんでしょうかアキトさん」
「そりゃ勿論、相生氏の無双に限るお」
「無双……と申しますと、圧倒的な力の差が見られるということでしょうか?」
「流石の秘密特訓だけあって、その様子だと米倉氏も知らないようですな」
「何やら気になる発言ですね。では冬雪さんはどうお考えですか?」
「……あれ、ユメ?」
「ん?」
C―1の女子から始まりC―1男子、C―2の女子と進んでいくリレーを実況かつ応援しながら眺めていると、ふと冬雪が一番手前にいるFハウスのムカデを指さす。
青いハチマキを頭に巻いた、女子四人の最後尾にいるポニーテールの少女。スタンドからは距離が遠くて判断しにくいが、確かに言われてみれば夢野に見えなくもない。
「どう見ても夢野氏です、本当にありがとうございました」
「えっと、解説のガラオタさん。何故ちゃっかり双眼鏡を持っているんでしょうか?」
「必需品ですが何か」
「……ユメ、ガンバ」
アキトが眼鏡を輝かせる中、冬雪が絶対に聞こえていないであろう声援を呟く。
ハウス対抗とはいえ知り合いの応援くらいは咎められない。しかしテンションが上がっていたものの、大声で彼女の名前を呼ぶのは何となく躊躇ってしまった。
『行け行けCハっ! 負けるなCハーっ!』
「……ルー、ファイト」
そしてついにC―3女子へ。現在はBFCADEという順番であり、先頭のBハウスを僅差のFハウスとCハウスが追っている形である。
『1・2・1・2――――』
耳を澄ませば微かに聞こえるムカデの声。でもこれ多分如月は言ってないか、冬雪の応援みたいに小さすぎて聞こえないんだろうな。
特に番狂わせはないまま、女子から男子へタッチ。先頭に我らが葵を据えた、C―3男子のムカデが出動した………………って、速っ?
『キャーッ!』
湧き上がる歓声。そりゃそうなるわな。
屋代のムカデリレーは足首を紐で結んだタイプであり、スキー板みたいな長板へ固定する形式じゃない。それ故に早歩きや駆け足のムカデが大半を占めている。
しかしそんな中で一匹、全力疾走と言っても過言じゃない速度のムカデがいた。いや、多分あれをムカデと呼んではいけない。例えるならそう、害虫Gのようである。
「うはっ! 勝ち確キタコレ!」
「……凄い」
倒れることもなくあっという間にFハウスを抜き、更にはBハウスも抜いてトップへと躍り出た葵達は見事にC―4女子へとパスを繋いだ。
「おいおい、何だよあの速さは」
「それでは説明しよう。米倉氏、拙者の発言に続く形で『おい』って突っ込みキボンヌ」
「おい」
「あい」
「おい」
「あい」
「おい」
「これがC―3男子のムカデ必勝法、名付けて相生作戦だお!」
「…………」
一体誰が考えたんだよ、こんな掛け声。
最終的に一位を飾りはしたものの、あの速さの秘密は黙っておいた方が良さそうだ。
こうしてムカデリレーでは大活躍した俺達C―3だが、続く午前最後の種目である全員参加の大縄跳びでは僅か九回という大失態をしでかす。
まあ練習もしてないし当然ともいえる結果。縄に並ぶ際『隙間は同人誌一冊分』とかコミケスタッフの真似をして滑ってたアキトを陰で笑いつつ、体育祭は昼休憩を迎えるのだった。
★★★
昼食を終え、午後の第一種目はトーナメント形式の綱引き。四クラスからそれぞれ男女二人ずつが選ばれた、合計十六人同士によるガチンコ勝負だ。
Cハウスは第一回戦でAハウスに勝利し、続く二回戦はシードを引き当てたFハウス。我らがガラオタVS腐女子火水木の熱い兄妹バトルが今、盛大に始まろうとしていた。
「この勝負、火水木の勝ちだ」
「そ、それって、火水木さんが勝つってこと?」
「いいや違う」
「えっ? じゃあアキト君が勝つってこと?」
「それも違う。言っただろ? 火水木が勝つって」
「ど、どっちも火水木だよっ?」
そんなくだらない会話を葵としているうちに、勝負開始の銃声が鳴り響く。
オーエスオーエスと双方の引っ張り合い。勝負は中々に均衡しているようだ。
「綱引きのオーエスって何なんだろうな。助けでも求めてるのか?」
「さ、流石にSOSじゃないとは思うけど……」
「葵の中学でも、やっぱりオーエスだったのか?」
「う、うん。櫻君は?」
「俺の所もオーエスだったんだけどさ、うちの中学は優勝したクラスのチームが職員と保護者の混合チームと戦うって企画があるんだよ」
「へぇー。何か面白そうだね」
「その職員保護者チームの掛け声が、そいっ! そいっ! そいっ! でさ」
「えぇっ?」
「参加した父さんに後で聞いたら『オーエスなんてリズムが遅くて駄目だろ。もっとテンポ良く引っ張らなきゃ』って言ってたんだよな」
「た、確かにそうかもしれないけど……」
「「…………」」
「や、やっぱり、オーエスじゃないかな?」
「ああ。やっぱオーエスだよな」
結論が出たところで、試合が動き始めた。
少しずつ中心がFハウスの方にずれていく。一度こうなると立て直すのは難しい。
「あっ! 頑張れアキト君ー」
隣で声を上げ始める葵。実に健気だが、その澄んだ高い声は届いているのやら。
実はアイツだけオーエスじゃなくて、パソコン的なOSと発音してるんじゃないか……なんてくだらないことを考えていたら決着がついた。
再び銃声が鳴った瞬間、負けた俺達Cハウスの生徒が一気に引っ張られていく。兄より勝る妹は、思ったより存在するらしい。
「あ……負けちゃったね」
「案ずるな葵。きっと俺達を破ったFハウスは、頂点まで上り詰めてくれるさ」
「う、うん」
…………しかしこの想いが届くことはなかった。
Cハウスとの死闘に全てを出し尽くしたFハウスは続く決勝戦、Bハウスにウソのようにボロ負けした。
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