第82話うちのあにがけんかっぱやいけん

 『Noah』最新アップデートで銃器の採用が決まった時、それまでの『Noah』では想像できなかった新しい職業が追加された。

 銃を手に戦場を駆ける『遊撃手』

 身を隠し、遠距離から一撃を射ち込む『狙撃手』

 遠近両応。剣と銃を装備できる『銃剣使い』

 銃弾に魔法を込めて戦う『魔法銃士』


ロイオ「……拳銃か。益々、『Noah』の感じが出てきたな」


 銀色の光沢を放つ銃口が向けられて一筋の汗と共に零れた言葉。

 『Noah』に近しい世界だということをつくづく実感したロイオは、この異世界が剣と魔法だけという定番ファンタジーではないことに軽くショックを受ける。   元々、王道が好きなこの少年は『Noah』に銃器が登場してもあまり触れることをしなかった。

 そのせいもあり、銃器に関する情報はあまり記憶しておらず、焦りから流れ落ちたのが汗。

 それはセイマに優越感を与えた。


セイマ「ワタシはレベル二八の魔法銃士だ。この距離ならお前の眉間に穴を開けられる」


 姉と似た不敵な笑みを浮かべて、痛む頬を銃を握っていない手で撫でる。


ロイオ「なら、俺は一歩足りとも動かねぇでおいてやる。外さないように精々よく狙うんだな」


 眉間を指でツンツンとつつくロイオだったが、皮肉にも聞こえる男の虚勢をセイマは見抜いていた。一〇メートルほどの間合いはセイマの持つオートマグ、蔑称オートジャムと呼ばれるそれにとって必中。自身の腕前にも絶対の自信を持つ執事にとって外すことなど考えられなかった。


セイマ「安心しろ、お前は客人だ。片足だけで許してやる」


 本体に魔法陣が組み込まれた銃が紋章を浮かび上がらせて魔力の弾丸を発射。

 弾丸を視認したロイオの右脚へ炎の魔弾が炸裂するもその火炎は呆気なく霧散。 散った火と僅かに焦げた黒のパンツにセイマは舌打ちをし、ロイオは不敵に嗤う。


ロイオ「どうやらお前の魔法攻撃力と俺の魔法防御力は、だいぶ俺の方が勝ってるようだな」


 魔法使いの上位職である魔法剣士と魔法銃士。


 魔法剣士は、STRとINTが並行して上がり、追いかけるようにVIT、MNDが成長。

 前衛と後衛どちらも熟せる謂わば、中衛。故に対人戦ではどちらかのエキスパートに一歩及ばない。


 対して魔法銃士は、賢者のようにINTとMPが大幅に伸び、機動力が比較的高い。

 後衛職だが、前衛での動きも悪くはない。不利益といえば、連射型と一撃型に分かれたことで前者は一撃の威力が乏しく、後者は硬直の隙があることくらいだ。


 僅かにダメージを受けたロイオはそのことも加味した上で、目の前の執事とのレベル差と一撃の低威力を実感。同時に揺るぎない勝利の道も確信する。


ロイオ「穴は開けられなくて残念だったな。素直に眉間にでもいっとけば髪の毛を焦がせたかもしれねぇぞ?」


セイマ「くっ……」


 悔しがりつつも、銀の武器は下ろさない。

 ノーガードの相手にノーダメージ。実力の差は歴然。だが、このまま引くことはセイマのプライドが許さなかった。


 なぜ、こんなことになっているのか、そんなことはもはや考えていない。


 今は、急に暴力を振るうような危険人物をソフィアの近くに置いておけないという配下ならではの誇りとしの主張が強い。


ロイオ「次は俺の番だ……キルハ、スピット、ウルキルハ、ウルスピット」


 赤、青と身体から光沢を発して強化魔法を立て続けに唱えると向けられた銃口がブレる。


セイマ「……なぜ、一度にそこまでの強化魔法を唱えられる⁉」


ロイオ「『連続詠唱コールチェイン』習得済みだからな」


セイマ「ふざけるな! そのスキルで連続発動できるのは精々、二回だ!」


ロイオ「ハハッ、ふつーそうだな……弟分おとうとのために強くなったってことにしといてくれ」


 フォースと同様、『連続詠唱』も裏盤までカンストしている。

 そのせいで魔法剣士なのに魔法がクソザコという本末転倒な結果になってしまったが、本人に後悔はない。

 いつもの強化魔法をかけ終えて、ロイオは電撃のフォースを両腕に宿して突進。

 強化されたスピードにセイマは一瞬驚くが、迎え撃つべく近接格闘スキルを発動。


セイマ「『反撃カウンター』!」


 青白い閃光の突きに応じた腹部への打撃だったが、容易く躱される。それでも、敵の高速の一撃を失敗させたことを喜ぶべき場面だと自分を鼓舞。

 身を翻したロイオは執事の安堵して緩んだ隙を狙って遠心力を加えた左肘鉄を命中させる。

 またしても頬に攻撃を喰らった執事だったが今度は気力を保ち、崩れた体勢で魔弾を放つ。


ロイオ「っ⁉」


 至近距離からの火炎弾を首を曲げて躱したが、耳をかすった。

 熱と痛みが右耳を襲う。


ロイオ「……今の流れでやり返されるとはな」


 冷気のフォースに切り替え、右手で右耳を押さえる。火傷を気にしてのことだったがあまりダメージはもらっていないので、二、三秒でやめる。


セイマ「……『機動力向上』『連射速度向上』『銃弾鋼質化』」


 魔法銃士スキルによる強化を『連続詠唱』で発動し、炎の魔弾を三発撃つ。

 

セイマ「喰らえっ!」


 ロイオは片手を地面に当て、真正面に土壁を造り出す。三発の弾丸を防ぐと土壁は崩れる。耐久値が尽きたことによる崩壊だ。

 土煙が上がり、ロイオはセイマの姿を見失うが、セイマはそうではない。


セイマ「『紅蓮の百連射フレイム・テンペスト』!」


 煙幕に身を潜めながら、魔法銃士中級スキルを発動する。

 凄まじい連続射撃は今までと同様、炎属性を帯びており、火傷の状態異常を二分の一の確率で与える。

 このスキルに対して、ロイオが取った行動は至ってシンプル。


ロイオ「マジックハイシール、パラレシスト」


 魔法防御と状態異常耐性を強化。

 レベル差と魔法による攻撃力と防御力の差を認知していたロイオはこれだけでセイマのスキルをほぼ抑えられると踏んだ。

 自身に火炎が当たるのも厭わず、ロイオは正面突破する。

 驚愕したセイマに答えるように胸部へフォースを撃つ。


ロイオ「フレイムフォース‼」


 燃え盛る炎が身体の中心から全体へと広がる。

 執事は女性のような甲高い悲鳴を上げて、その場に倒れ伏した。

 

ロイオ「メイドあねより弱い執事おとうとが、意気ったこと言ってんじゃねぇよ……クソヤロウ」

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