第77話しんやのやどやでほうしんを

ロイオ「で、山田の悪い報告ってのは?」

ねこねこ「ゼウスの面白いのも気になるねー」


 ベットに入ったねこねこがシーツを被って顔だけ覗かせる。

 俺は寝付けないから、ステフォンでステータスを眺めてる。

 正直に言おう。

 この二人の報告とかあんまり期待してない。


山田「俺からでいいか?」

ゼウス「まあ、悪い知らせが先でいいだろう。バカの戯言でないことを切に祈っている」

山田「余計な祈りだっての!」


 口を尖らせる山バカにゼウスさんは厳つい顔で先を促す。


山田「ったくよー……ま、いいや。で、俺の悪い知らせってのが今回のモンスター大量発生した黒幕についてだ!」


ゼウス「なに? 俺の報告もそれだ」


 成人二人が顔を見合わせる。

 被ってんのかよ……なら、まとめて言ってくれねぇかなぁ……。あ、SP貯まってるし、割り振っとこ。


ゼウス「俺はもう一つ言わねばならないことがある。先に言え」


山田「ういーっす。でよー、俺が倒したブラッドベルが言うには、レベル一〇〇の俺と同格のやつがボスらしいぜ。しかも、ブラッドベルの親玉……『Noah』のラスボスはそいつにやられちまったってよ」


ねこねこ「レベル一〇〇のバカってぼくたちの中じゃ一番弱いよねー?」


ゼウス「まあ戦闘職ではないからな。それでも今の俺たちよりは強いだろう」


ロイオ「ですね……今回のボスはレベル一〇〇ってみた方がよさそうだな」


 倍のレベル差。

 その差がどれだけの戦闘力の差を及ぼすのかわからない者などいない。

 まったく、つくづく思う。余計なことをしてくれたな、あの神。

 神は今度会ったときにとっちめるとして、山田の言う悪い報告というのはレベル差のことだな。

 こればっかりはレベルを上げるしかない。また一回死んでレベル一〇〇になれるか分からない現状、試すのはリスクが高すぎる。

 ねこねこの攻略本もあの文章以外はほぼ意味の無い文章だったみたいだ。ねこねこ本人が言うのだから間違いはない。


山田「とまあ、俺からは以上だ。レベル上げはできるだけ高速でやった方がいいって提案しとくぜ」


 言い終えた山田はジャージのファスナーを限界まで上げて、欠伸をした。

 眠いのはわかるが……もう少し起きてろ。


ゼウス「次は俺だな」


 さて、我らが頭領ドンゼウスさんだ。

 バカもまだ起きてるし、ねこねこは……そろそろ限界か。がんばれー目をこすってろー、まだ寝るなー。


ゼウス「今回の事件の犯人は山田の言う通りだ。俺が今から話すのは、俺たちを異世界こっちに呼んだ奴のことだ」


 頭領の真剣な顔に俺は頷く。

 そう、占い師『ティア』の存在だ。到るところで関与しているだろうその占い師とはいずれ遭遇する。その前に少しでも知っておくことが俺たちの身を護ることに繋がるはずだ。


ゼウス「実は、俺についてきた少年、カイというんだが」

山田「ああ、あのショタっ子か」

ねこねこ「ぼくとキャラ被ってるんだよねぇ……まあ、ぼくの方が可愛いけど」

ロイオ「二人とも、ゼウスさんが怒る前にやめとけ」


 小袋に入れた槍を出そうとしてらっしゃるから。

 俺の言葉に二人とも乾いた笑い浮かべながら、口を閉じた。

 反省したバカとショタを一瞥して、ゼウスさんは再び語り出す。


ゼウス「ふん……で、そのカイだが、俺の前で殺された」


山田「はぁぁっ⁉」


ゼウス「静まれ! 殺されたと思っていた。だが、死体だと思っていたモノはただの人形で、カイは別の場所に隠れていたのだ」


ねこねこ「ふーん……話の流れ的に偽装した人は占い師ってことでいいんだよね?」


ゼウス「ああ。だが、そんな者の気配は毛ほども感じなかった。戦闘中だったとは言え、伏兵を警戒して周囲には気を配っていたから間違いない」


 ゼウスさんの天然察知能力に引っかからないなんて……。

 フィールドマップにまだ湧いていないモンスターの湧くタイミングや場所までわかる勘は俺たちパーティーの生存率を高めていた隠れ要因だ。

 その野生の勘はゲーム上でも変わらないからすごい。リアルで発揮できるのもすごいし。この人、前世は猛獣だろうな……。


山田「ゼウスの前世はぜってぇもうじゅ――ぐはっ!?」

ゼウス「人を獣呼ばわりするな」


 俺も口に出してたら……剣の鞘で殴られてたな……。まあ山田は丈夫だし、スルーでいっか。


ロイオ「占い師はこの街にいるってことなのか?」

ねこねこ「どうだろう……もう移動してるかもだし、少し前にオブおねえちゃんたちのとこ行ってたなら、この街に住んでるってことは?」

ロイオ「住んでんならとっくにセアラとかが掴んでるだろ」

ねこねこ「だよねー……うーん」


 十代のやわらかーい脳で推理するけど、中身はただのひきこもりなので名探偵にはなれない。


ロイオ「居場所は特定できねぇ……なら、次に遭遇した時がチャンスか……」

山田「そう簡単にできんのかねー?」

ロイオ「山田は、散策してくれ。スキルを使えば、索敵能力はパーティー一番だしな」

ゼウス「ああ。バカみたいに鋭く広い」

山田「褒めてんの? 貶してんの?」

ゼウス「……」

山田「無視するな!」


 このやりとり飽きないなぁ。


ロイオ「まあ、バカはほっといて……ねこねこはオブやセアラといい関係を保ってくれよ?」

ねこねこ「ぅん……ぼくとくいぃ……」

ロイオ「半分寝てるな……」

ゼウス「だが、この世界に来て、いきなり権力者に近づけたのは幸運だ。生活が安定するまでは色々と世話になるだろうからな」

ロイオ「ほんとにラッキーでしたよ。装備もクエストも助けられました」

ねこねこ「おっけー……ふぁぁ」


 だいぶ眠そうだな。まあ、夜も深まってきたからな。


ロイオ「ゼウスさんは――」


ゼウス「俺はクエストをこなす。何をするにも金はいるだろう。もちろん、レベル上げも兼ねるからお前達にも同行してもらうが無理強いはしない。幸い、バカがこの街ではトップレベルのパーティーとコネを作ったからな」


山田「あーエリーちゃんたちか。レベルは二五っつてたから、レベル上げにゃあ向かねーだろ?」


ロイオ「いや、フィールドに出れば経験値効率のいいモンスターがわかる。ある程度の目星をつけたらそいつを狩りまくればいい。今のところ、俺たちは砂漠地帯しかまともに探索していないからな」


山田「あーそれもそうか」


 眠気で頭が回らなくなってきてるんだろう。元からのバカがさらに低能のバカになってる。

 ねこねこも頭が上下に動いてる。目は閉じてるから倒れれば安眠だな。

 かく言う俺も、眠い。今日はモンスターの大群相手に無双したからな……一回死んだけど。

 ゼウスさんは……目開きながら寝息立ててる……起きてると思ったわ。

 みんな疲れてるんだな。

 まあ、俺も寝るか。

 明日は特にすることもないだろうし、熟睡させてもらおう。


 おやすみ。

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