第78話あ、あにとして……

 街中モンスター大量発生より三日目の朝。


 昨日は起きたら日が暮れていた。宿屋のおっちゃんが部屋の清掃かなんかしに来て俺たちを起こしてくれなかったらもっと寝てただろう。


 というのも、元の世界で家に帰ったら床で寝てたんだが、久々の布団に身を包んだ心地よさが半端じゃなかった。自室の布団はゲームの空き箱やらラノベやら漫画に侵食されてたし。電子書籍派のねこねこも大量のエロゲで布団を無駄にしてるし。


 という具合に一日を睡眠と夜食、軽い水浴びのみで過ごし、再び宿屋のベットの上で目覚めた我らニーティ総員。

 ……いや、総員じゃなかった。一人いない。


ロイオ「……あれ、ねこねこが……?」


 隣で愛くるしい寝顔をしていた弟分が先に起きていたようだ。どこに行ったのかはわからないが外から聞いたことある名前が呼ばれてたし多分外。


ロイオ「……セアラか。何の用なんだ? てかねこねこのやつ、まさか気が付いて起きたのか?」


 随分とセアラに熱中してるんだな、飽き性なあいつが。

 まあセアラは美少女だし、しっかり者だし、ノリいいし。

 そういうとこ、ねこねこの中の奏のイメージと少し似てるような……。

 まさか……そういうことか。そういうことなのか。姉の姿を投影してるのか。

 

 …………。


 べつに奏に負けて悔しいとかはないからいいんだが。

 いつも負けてやってたし、いつも奏に譲ってたし。

 悔しいとかはこれっぽっちも微塵もないない。

 ただ、一応念の為……兄代わりとして、セアラに変なことしてないか確認のため、二階のここから外の二人を覗かせてもらうぞ……。


***


 ぼく、ねこねこ! 一三歳(ホントは一七歳だけど)!

 天気は晴れだよ。

 いつもはロイオがぼくを起こしてくれるんだけど、今日は一人で起きれたんだぁ。

 だってセアラの気配を近くに感じたからね!


 ぼくの特技『美少女発見器ガールズレーダー』にかかれば楽勝だよ。


 テレポートを使って外にいるセアラの真上に登場しよっと。


ねこねこ「セアラ―‼」


 そのまま落下して抱きつこうとするぼくをセアラは見もせずにひょいっと半身を引く。

 そのせいでぼくは顔から地面に激突。

 全身がバットで叩かれたみたいに痛い……。


セアラ「貴様……希少な瞬間移動を痴漢に使うな」


 呆れたような言葉がセアラの足と一緒にぼくの後頭部を踏んだ。

 誰かさんからしたらご褒美だけど、ぼくはそっちの性癖は持ってないからこれはすごく痛い。セアラも加減せずに本気で踏んづけてるし……。頭を上げようとしたけどすぐ地面に押さえつけられる。


ねこねこ「お、おはようセアラ! こんな朝早くにどうしたの? ぼくのベットに潜りこんでこのカワイイ寝顔を拝もうとしたの?」


セアラ「何を言う、もう正午前だ。朝早くとは言わん。それと、その認識は改めた方がいい。断言してやろう、貴様は可愛くなどない」


 平然としてるけど、足に込める力がどんどん強くなってるんだよね……。それにかなーり辛辣だよ。いつもはもうちょっと優しいのに。


セアラ「私は姫様よりあの赤い男に言伝を任された。今日は貴様に用はない」


 あーなるほど。バカの相手をしなくちゃいけないから機嫌悪いんだー。おまけにぼくに用がないんだもんねー。癒されないよねー。


ねこねこ「そうなんだ……あのーそろそろ足退けてほしいなぁ、なんて」


セアラ「ああ、忘れていた。丁度いい台だったぞ」


 そう言って足を退けてくれるけど……パジャマ汚れちゃったし、その言い方ちょっと否定しとこう。


ねこねこ「忘れないでよ! 嬉しくないよ!」


セアラ「ふん、とにかく赤い男を呼んで来い。私は外で待っているぞ」


ねこねこ「大丈夫? 一人でさみしくない?」


セアラ「早く行け‼」


 怒りだしたから渋々宿の中に戻っていく。その時、窓から眺めてたロイオと目が合ったから笑顔で手を振っておいた。


***


 なんかねこねこが俺に手振ってたけど……怒られて喜んでんのか?

 まあその辺は後でじっくり問い質すとして……セアラの要件は大体わかった。

 あの物件の話だろうな。いびきかいて爆睡してるこのバカを起こすとしよう。


ロイオ「アクアフォース」


山田「ぐがぁ、ぐがぁ……うぼぼぼぼぼおぼおお⁉」


 溺死する手前で手から発射してる水を止める。これで顔も洗えたし一石二鳥だな。


山田「ぶはっごほっ! なんだなんだ⁉ 洪水か!? みんな逃げろ‼ って……あれ?」


ロイオ「おはようバカ。早く着替えろ、家の話がきたぞ」


 盗賊衣装をきょとんとしている山田のベットにほうる。


山田「……え、今の洪水は? 雨漏り?」


ロイオ「さぁ? 寝汗じゃね?」


山田「ね、寝汗⁉ お、俺……自分の寝汗で溺れかけてたのか……?」


 ぷっ……ぷくくふふ……やべぇ、やっぱコイツバカだわ。

 笑いを堪えるが、念のため口元を手で隠す。


山田「え、まさか……俺の寝汗こんなにやべぇの? シーツびしょびしょだ……」


 未だに自分の寝汗に恐怖してるバカが着替えだしたから、隣ののーきんさんも起こすか。


ロイオ「……ゼウスさーん、殺されかけてますよー」


ゼウス「でぇぇやぁあ‼」


 寝起きと同時にどこからか槍を取り出して薙ぎ払う危険人物さん。

 一応、しゃがんどいて正解だった……。これからはちょっと違う起こし方にしとこう。まあ俺は無事だ。うん、俺は。


山田「な、なんで俺が……」


 槍の攻撃範囲内にいた隣のバカは腹から血を噴水のように噴き出して再びおねんね。

 あーあ、せっかく起こしたのに。


ゼウス「……ああ、おはようロイオ。で、そこのバカはまだ寝ているのか?」


ロイオ「あーはい。二度寝っすね。今し方起きてたんすけど」


ゼウス「そうか……ぬ? ねこねこの姿が見えないが……?」


 半開きの眼で部屋をきょろきょろと見渡すゼウスさんに俺は寝間着のパーカーを脱ぎながら答えようとしたがしなくてよかった。


ねこねこ「ばかー、セアラが呼んでるー……あれ、まだ寝てるの?」


 ショタっこが勝手に戻ってきてくれたからな。

 さて、この殺人現場をどうやって隠蔽するか……。


ねこねこ「しょーがないなー……フリーズ!」


山田「……」


ロイオ「……チーン」


 うん、血が出てる上にずぶ濡れの人間に氷結魔法ブッパするドSブラザーには、後で回復魔法お願いしとこう。

 いや待てよ蘇生の方がいいかも……最悪、雷電魔法でもいいや。AED代わりにはなるだろ。

 とりあえず、セアラの話を聞ければ問題ない。どっか凍ってても穴開いてても気にしいないでもらおう。

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