第62話モザイクかかるまでなぐってくスタイル

 静かなる怒りに身を任せた狂戦士は肉片となったリッチをさらに細かい肉片へと分解していた。

 だが、ふと思いついた疑問に切り刻んでいた剣と磨り潰していた足を休める。


ゼウス「……ここまで分解できるとはな。一八禁にも触れているはずだが……モザイク処理されていないのは俺が二十歳だからか?」


 ロイオがいたらこういうだろう。

 ここリアル。

 ツッコミ不在のためゼウスの疑問は解消されることがなくその筋肉で出来た脳を悩ませ続ける。


ゼウス「……ぬぅ、頭が痛くなってきた……」


 無い頭を使ったせいだろう。ゼウスは分析や予測など頭脳を使用することを山田かロイオに任せてきた。独りで物思いに耽ることはあっても、長くて一〇秒が限界。

 そんな男が頭を使えば、頭痛くらい起こる。と、誰もがそう思ったはずだ。しかし実際は違った。


「……そろそろかァ……」


ゼウス「っ!?」


 先程まで聞いていた悍ましい呪詛の声が頭に響く。同時に激しさを増す頭痛に加え悪寒と吐き気、手足の痺れが起き始める。


「死の権化たる我が骨肉から溢れる死臭、それも傷口から至近距離で嗅ぎ続けたのだァ……ただで済むはずがないィ」


ゼウス「くっ……たかだが臭いで俺を殺そうだと? ……舐めるなぁっ‼」


 覇気を込めた怒号が天地に響くも空しく終わり、遂にはがくりと草むらに倒れる。まるでその姿を嘲笑うかのように死肉片が一つになり不死王が再誕した。


「カハァハッハ……もう遅いィ。死ねぇ、死ねぇェェ!」


 両手を広げて嗤う骸骨。今のゼウスにはその様が死神と重なった。

 耳障りな怨嗟がこだまする中、ゼウスは蒼白な顔色で軽く笑みを浮かべた。怒りは消え、後悔もないそんな笑みを。


「……よかろうゥ……我が恐れもわからぬその首、狩りとってやろうゥ!」


 リッチは骨しかない手で鎌を振りかぶる。

 死することへの恐怖がゼウスにはなかった。この世界に来ることが無ければ、どうせ元の世界で陽の目を浴びることなく死んでいただろうから。

 それが異世界こっちで今か、元の世界あっちで後かだけの違いだ。

 こんな淡泊な考えで死を迎える卑下な思いがゼウスの最期の表情を笑みにした。


ゼウス「(……墓が異世界こっちなら奴らも花くらいは添えにくるだろう)」


 最高の理解者にして最後の仲間――友の姿を閉じた目に映して、死神たる骸の王が振り下ろす大鎌を悠然と待った。






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