第38話おとまりかい

 ゼウスさんと格闘士の戦いは相当長くなりそうだったので、観戦は諦めた俺たち。

 領主であるオブの屋敷に招かれていた。

 まぁ、そんなお偉いさんの家だからある程度は予想してたが……。

 めっちゃでかい、めっちゃ広い、めっちゃ金かかってる!

 が第一印象。

 まあ、正直疲れたしそういう細かい質問とかは明日することにして。

 今はと言うと、夜、空き部屋でねこねことのんびりしていた。


ロイオ「疲れたー……異世界転移の序盤ってどこもこんなんなのか?」


 ジャケットを脱いでネクタイを解き、ベットの上にほうる。


ねこねこ「少なくとも、ぼくらみたいに慌てる素振りもなくてすぐさま順応するパターンはないんじゃない? あ、ごめん今の無し。よくあるパターン」


 ごちゃごちゃと身に着けていた赤い装飾品をねこねこは全部取って、白いローブだけとかなりすっきりした。

 ベットに座っているねこねこにYシャツのボタンを開きながら向きなおる。


ロイオ「無しにはしねぇよ、知ったかぶり。ま、俺たち四人の叶うはずもない願望が叶ったんだ。慌てるなんてもったいないだけだろ。他の主人公とかも大体そんなんじゃねぇか?」


ねこねこ「そーだねー。やっぱり異世界はすごいなぁ。キレイなおねえさんがいっぱいだし、魔法ブッパできるし、無双もできるし」


ロイオ「それに、こんな豪華な家……ってより屋敷か。屋敷で寝泊りなんて贅沢したことねぇぞ」


 Yシャツのボタンを二つ開けて、設置されている家具を見ながら言うと、ねこねこのクスっという笑い声が聞こえてくる。


ねこねこ「ロイオ、バイト代ショボいもんねー」


ロイオ「んだとねこねこ! お前だってろくにバイトしてねぇだろ!」


ねこねこ「ぼくは親から仕送りがあったもーん。ロイオのバイト代より貰ってた」


 ウソだろ……俺、バイト三つくらいかけ持ちしてたんだぞ……。ガクッと膝をつくと不意にドアがコンコンとノックされる。


セアラ「おい、風呂の用意が出来た。左の階段を下りてそのまま、まっすぐ進め。以上」


ロイオ「入ってこんのかーい」


 ノックした意味は?


ねこねこ「セアラー、一緒に入ろー!」


 俺のツッコミは無視されたようだが、突撃部隊がセアラを追って部屋を出ていく。扉を開けっ放しで出ていったそいつが、下の階で無残にボコされている音が聞こえる。


ロイオ「アイツ……ほんと学習しねぇな」


 ハハッと一人で笑みをこぼして、俺は風呂場に向かおうとする。

 因みに俺たちが着ていた元の世界の衣類はオブの気遣いで洗濯してもらった。

 ……さては、大分臭ってたか?

 まあ、連徹してたし仕方ないといえば仕方ない。断じて俺が洗いものをサボったとかではない。奴らが服を着替えないから洗いものが無いのだ。

 結論、臭いのは奴ら(俺込み)。

 手にもった執事から借りた寝間着の配色に嫌な予感をした俺は広げてみる。


ロイオ「いや、なんで囚人服」


 手に持ったそれは黒と白の横縞が特徴の長袖長ズボンだった。流石に驚く。

 一応、あいつのもチェックしとくか。

 別に用意されたねこねこの寝間着は……。


ロイオ「…………メイド服…………」


 これよりマシだ。というかどうなってんだよ、ここの使用人の寝間着は。アホか。

 それとチェンジをしないあの女装癖ヤロウは後で説教だ。受け入れんな。

 ゲームならいざ知らず、リアルで女装癖を付けるのは教育上許さんぞ。



 外国の城かと思うほど長い廊下を囚人服片手に歩いて数分、セアラの言っていたとおりの場所。まっすぐ進め、といわれた様にまっすぐ五〇メートルくらい歩いた。今俺が思っていることが伝わるだろうか?


 遠い。


 家の中だというのに軽いジョギングをしたような疲労感はこの際いい。

 文字が読めない現状じゃ、一八年かけて培った勘で凸凹した型板ガラスのついた扉を開けるしかない。まあ、いくらひきこもっていたとは言え、俺は主人公。勘であろうとも予期したところに行ける。なにせ、そうしないとストーリーが進まないからな!


ロイオ「いざ、リラクゼーション!」


 魔法を詠唱するかのように抑揚をつけて放った言葉。それが脱衣所で呆気に囚われた金髪美女に拾われるとは思わなかったがな。


オブ「……」


 わーい、生おっぱい。わーい、全裸。こんにちは、タオル&蒸気さん。


 思考が幼稚になるほど動揺したおれだが、それ以上に顔どころか全裸を真っ赤にした領主さまを見ちゃった。おれ、死刑かな……?


オブ「きゃ、きゃあ……」


 か細く可愛い声を絞り出しながら、タオルで身を隠そうとするお姫さまに俺は目元を手で隠す(指の隙間はわざと作る)。


ロイオ「……い、いやすっすみませんごちそうさまです」


 いかん、思春期後期の俺には刺激が強すぎる……。指の隙間を閉じて完全に顔を背けながら逃げるように扉を閉じる。さっきまで広いことを忌々しく思っていたが今だけは礼を言う。真っ赤で深呼吸する一八歳童貞なんてここのメイドにでも見られたら、即死もんだ。


オブ「……ロイオさん? まだそこにいらっしゃいますか?」


 ざらざらな窓をノックしたオブは消え入りそうな声で訊ねてくる。

 ノックを返すことでそれに答えると、扉が少しだけ開く。


オブ「す、すみません……セアラにもう上がるからと言ったんですが……その……しょ、処理の方を……しとこうと思いまして……」


 何の処理?

 危うくそう聞き返すところだったが、ギリッギリで踏みとどまる。扉を背にして、オブの姿を視認しないようにしながら会話を続ける。


ロイオ「……い、いや……俺もすぐ来過ぎた。まさかお前が入ってるなんて思ってなかったから……一番風呂だと思ってたから。ほら、なんだ……一番風呂ってなんとなく気分いいだろ?」


 どうでもいいわ! 知るかそんなこと!


 自分で自分にツッコむのは、もはや末期だな、ハハッ……。

 乾いた笑いが胸中で起こるが、そんなことは一ミリもしらない我らがおっぱいは上半身を扉の隙間から覗かせて、愉快といいたげな笑みを零す。


オブ「ふふっ、すみません一番風呂は貰いました。今から着替えますので、待っていてください」


ロイオ「……いや、ふつーに出直すぞ」


オブ「ここまでどれくらいかかりました?」


ロイオ「ぐっ……わかってんなら、ちょっとは工事とかしたらどうだ?」


オブ「そしたら、敷地が余るんですよ」


ロイオ「ゴージャスな庭でも作っとけ」


オブ「もうあるので」


ロイオ「あんのかよ」


 扉を挟んだ一連のやり取りで、高まった鼓動も穏やかになっていく。

 いやー、主人公ってすごいな……ねこねこが願うようなラッキースケベが俺に発生するとはな。後であいつに謝っとこう、詳細は告げずにな。

 いや待てよ……面白おかしくからかってやるのも面白いな……。

 ……どっちにしようか。


オブ「お待たせしました、ロイオさん。どうぞ、ゆっくりご堪能くださいね?」


 何を? お前の残り湯をか?

 バスローブみたいな布きれで豊満なヴォディーは隠しきれてないように思う。てか、俺の手に持った囚人服にはツッコミなしかおい。


ロイオ「驚かせて悪かったな」


オブ「いいえ、こちらこそ……お恥ずかしいところを……お見せしました」


ロイオ「お、おう。眼福だったぞ」


 あ、やべ……言葉間違えた。

 俺の失言にオブは逃げるように走っていく。その耳は真っ赤でなぜか頬が上がっていた。まあ、怒ってる風よりはいいけど。

 さてと……頂こうか。

 風呂を。後、美少女の残り香と残り湯を。

 なんなら、飲み干して、ねこねこを苦しめるというのも……無理だな。俺が溺死する。

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