第37話ライバルこうほ

 やべぇ……。

 なにがやべぇって、この惨状な。広場の石床がボロボロな上、観客も怖がって減ってきてる。

 ロイオたちは女子のお家にお泊りとかリア充気取りだし、加えて未だに……。


ゼウス「ふっ!」

リオ「せいっ!」


 二人の凄まじいぶつかり合いで生じた風圧が周囲に広がる。

 そうまだ戦いは終わっていない!

 なんていうカッコいいセリフも、味気ないくらい長いんだよ……。もう実況すんのもヤダ。

 この二人だけウキウキワクワクなのもなんかヤダ。


ゼウス「……貴様、レベルはいくつだ?」


 棒切れと素手でう中、ゼウスが謎のねえちゃんに問いかける。

 ねえちゃんは、ニヤリと不敵に笑ってゼウスを押し切る。


リオ「そういえば、これだけ戦ってるのに名乗ってなかったね」


 押し切られたゼウスさんは棒を突き刺して勢いを殺す。

 そこにあえて付け入らず、腰に手を当てているねえちゃん。なんか、ヘソ出しのねえちゃんがやるとエロいな……。



リオ「あたしは、『クワトロ・フルール』のリオ! レベルは……まあそこそこだよ。キミは?」

ゼウス「俺が訊いたのはレベルだ。それを答えるまで質問に答える気はない」

リオ「あちゃー、随分と頑固だね」

ゼウス「……」

リオ「分かったよ。レベルは、二五だよ」



 苦笑いでため息を吐くねえちゃん。

 その一言に俺はちょっと驚愕する。



山田「に、二五……近衛の姉ちゃんより高けぇ」

ゼウス「……俺より一〇上。冒険者でレベル上げをしていたが……やはり雑魚だな。大した経験値にもならん」



 脳筋の手厳しい言葉にねえちゃんは眉を歪めて不機嫌そうになった。


リオ「そういうきみは名乗らないの?」


ゼウス「ああ、忘れていた。俺はゼウス、そこのバカは山田という」


山田「うちのゼウスをなめんなよ! でも、ねえちゃんカワイイから、ゼウス負けろ!」


ゼウス「……バカだろう?」


リオ「あはは……そうみたいだね」


山田「おい、その可哀そうなやつを見る目やめろ!」


 まったく……失礼なやつらだ。

 むすーっと鼻で息を吐く俺。

 ゼウスたちが戦闘を再開しようとすると、格闘士のねえちゃんの後ろで声が響く。


「リオ! 何やってるの!」


 フードを被っていて顔は見えないけど、声からして結構若い女の声だ。


リオ「げっ! エリー!」


 ぎょっとした顔になったねえちゃんに詰め寄るフードのねえちゃん。

 いきなりの介入に言葉を失ってるゼウスと俺はアイコンタクトで静止を決める。


エリー「もうとっくに集合時間過ぎてるんだから! 早くいくわよ!」


リオ「ちょっ、ちょっと待って、もう少しだけ!」


エリー「ダメ!」


リオ「い、痛いから! 髪引っ張らないで、ハゲる、ハゲるからー!」


 後ろの一つ結びの髪を引っ張られて、フードのねえちゃんと格闘士のねえちゃんは人混みに消えていった。


ゼウス「……山田、ロイオたちに伝えるぞ」


山田「なにをだよ!」


 俺はツッコミがため、ゼウスから棒を盗んで、殴る。


ゼウス「レベル差があっても……俺が本気を出すことはない。が」


 そこで言葉を止めるゼウス。そして、ゼウスに止められ、亀裂を走り出して砕けるひのきの棒。


山田「なっ……武器が壊れた!?」


ゼウス「一刻も早く、強い装備がいる。それと拠点になる場所もな」


 アイテムブレイクは『Noah』に存在しないシステムだ。それが今、目の前で起こった。

 つまり、本格的にこの世界を知らないといずれマズイことになるってことだ。

 バカな俺でもそれくらいはわかるぞ。伊達に髪赤くしてねぇって!


ゼウス「なにを考えているかまでは知らんが……その顔、またバカな独り言だな」


山田「なんでそうやって決めつけるんだよ!」


 ホントのことだけど!



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