第17話よなかにしゅっぱつ

 結論、起きたらやっぱり美少女風の男の娘が俺のベットにいた。

 途轍もない敗北感と呆れが俺にため息を吐かせるが、怒る気力が整う前にお迎えがやってきた。

 「うぅーん……ううぬにゃ」と寝ぼけた息遣いで愛らしい寝顔をしている弟分をゆすって起こす。枕元にあった着替えらしき装備を「むにゃむにゃ」言ってる寝坊助に叩きつけた俺は、驚いた声に耳を貸さず身支度を始める。

 宿の一室にベットが四つ。ホテルとかでも広めに分類されるだろう広さから、あの近衛が融通を効かせてくれたんだろう。奥のベット二つを占領した(内一つはもぬけの殻だが)俺たちと、手前でいびきをかいてる二人の仲間。その仲間が、サンタばりに置いてくれた支給品の装備から、悔しいが思いやりを感じた。

 寝ぼけながら着替えるねこねこを叩いて急かし、準備を整えて扉の取っ手を掴む。

 振り返って「どうも。いってきます」と絶対に聞こえない声で俺は呟き、外へ出た。



 異世界でも、月が綺麗なことに変わりなく、松明と月光で街の中はそこそこ明るい。

 灯りを持っている姫騎士さんは、緊張した様子で眠気の残る俺たちを馬車に乗るよう促してくる。

 ただの馬車じゃない。ゲームで貴族が乗ってるやつだ。絶対高いやつ。


オブ「では……行きましょうか。アンデットが出る場所は、馬車で小一時間ほどかかります。ですが油断はしないでください。夜は他のモンスターも活発ですから」


ねこねこ「ふぁぁ……眠いよぉ」


 赤の装飾品と白色を基調としたローブの袖で目元を拭うショタ賢者。利き手には、魔法石っぽいものがついたMP上限アップの長杖。


 一方、俺は青い襟から伸びる白いネクタイに膝まである黒のジャケット。少量のMP自動回復効果を持つこれらに加え、腰には何の変哲もない片手剣を携えている。


 やっと職業っぽい服装になったと密かに喜んでいる俺である。


セアラ「全員乗ったな? では、頼む」


 なぜか、メイド服姿の女戦士は運転手の男に合図する。

 お、なんだ、ねこねこに言われたこと気にしてんのか?


セアラ「……バカにされたような気がする」


 ……さぁて一体どんな敵が待ってるんだろうなあー。

 冷や汗が吹き出るも、悟られまいと視線を合わせない。こっちを睨んでるような感じだが、気にしない。メイド姿も似合ってるから気にしないでくださいおねえさん。


 馬車が進み、ガタガタと揺れるがやはり高級なやつだ。二台の中はクッションのおかげでそれほど気にならない。証拠に俺の隣に座っているねこねこは、俺の肩を枕に寝息をたてだした。


ロイオ「ハァ……まったく。しょうがないな……」


オブ「なんだか、兄弟みたいですね」


 上着をねこねこの膝にかける俺を見て、オブさんは籠手をはめた指で口元を隠す。


ロイオ「似たようなもんですよ……俺が一〇歳になる前からの付き合いだし」


セアラ「そうか。ところで、お前たち年齢は?」


ロイオ「俺は一八でコイツは一七ですよ。因みにバカ盗賊と脳筋狂戦士は二〇」


オブ「えっ! そうなんですか? てっきり皆さん同じ年齢だと……」


セアラ「私と姫様がこのチビと同年齢だと……俄かには信じがたいな」


ねこねこ「……チビっていうなぁ……むにゃむにゃ」


 寝言で会話に混ざってくるむにゃむにゃ賢者を見て、更に嫌そうな顔をするセアラさん。え、というか俺より年下なの? 超意外なんですけど。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る