ろーるぷれいんぐりある

アサロン

チュートリアル~転移してもゲーム感覚~

第1話ぷろろーぐ

 MMORPG『Noahノア

 魔法と剣が主流のゲームでリリース初日から大勢のプレイヤーがデバイスを通して、その大地を踏んだ。

 オープンワールド且つアクション機能の充実。RPG要素豊富なキャラ育成が売りのオンラインゲーム。

 それはPC、スマートフォンを始め、携帯ゲーム機、据え置き型ゲーム機などインターネットにつながる様々な機種を通じて幅広い層に好まれている。

 広大な世界観を始め、ログインしたプレイヤーたちを歓迎するのは数多あまたの職業や種族、二〇〇にも及ぶスキル、魔法の数々。これらと合わせて唯一無二のアバターが作れるシステム。

 魔法や剣といった定番に加え最新の大型アップデートで弓、銃器などの遠距離武器と剣と魔法の同時使用が追加された多様性に富んだバトルスタイル。

 こういったものが重なり、リリースから僅か三年で、一番流行しているMMORPGと呼ばれるようになった。


 次回作『NoahⅡ』の開発も噂され、益々人気を得ていくだろう。


 がしかし、完クリ――完全クリアを成し遂げた者たちは未だいない。


 基本ストーリーをクリア、EDエンディングを見た者は何人もいる。

 全アイテム、称号などを獲得し、全NPCノンプレイヤーキャラクターの会話内容を記憶、全モンスターの情報を網羅、RTAリアルタイムアタックで最速を達成した者などいるはずもない。


 世界中の誰もが思っていた。

 世界大会のランキングに名を連ねるようなプレイヤーや情報通のゲーム実況者たちさえも。


 ――しかし、仮想でも現実でも例外はいるものである。


***


 六畳間の和室に四人の青年たちがたむろしていた。

 散らばった数々のゲーム機と一人一台のノートパソコンが有線接続されており配線はぐちゃぐちゃに絡まってホコリを被り、部屋の隅では菓子パンやカップ麺、総菜弁当が乱雑に重なって、歴史ある塔を思わせる。


「あーあ『Noah』もクリアしちまったなー」


 部屋の一番手前、キッチンと繋がる通路側。

 紺色のパーカーを着た茶髪の青年が退屈そうに立ち上がって四人分のジュースを注ぐ。


「けっこー早かったよね。裏ボスも全アイテム制覇も」


 茶髪の青年の隣、部屋の真ん中で寝そべりながらキーボードを打つ音と共に幼さの残る声がした。

 小柄で中性的な容姿をした白髪の彼はネカマであり、女性キャラクターの衣装の中でも際どい衣装を着せて楽しんでいる。


「ヒマだよなー……次なにやるよ?」


 部屋の窓側でカーテンから漏れる日光にぼんやりと照らされているのは逆立つ紅の髪。

 他の三人の顔を窺いながら、赤髪の好青年は操作キャラをひたすら壁に激突させている。


「そういえば、『Noah』の続編がもうじき出るはずだ」


 同じく窓側であるがこちらは光に当たらないよう壁に体重を預けて重低音な声を発した。

 この黒髪長身の青年は胡坐をかいて、ひたすらモンスターを狩りまくっている。


「えー『Noah』はもういいよー……女キャラの衣装そんなに可愛くないし」


「お前、そればっかりだな。はいよ、カルピス水割り」


「おいおい、多すぎんだろ。こぼすぞ?」


「だいじょーぶ。みんなと違ってぼくは仮眠取ってたからそんなことしないよー」


「なんだ……これは? お前たちちょっと来い」


 黒髪の青年が怪訝顔で言うと、他の三人もその画面の前に集まった。


「なんだ? この『片道切符』ってアイテム……」


「しかも『竜峡谷』って、けっこーやりこんだステージだよね? ドロップ確率も攻略し終えてるよ」


「盗賊の俺でも見たことねぇ。それ、カテゴリは?」


「『秘宝』だ……が、妙なことにレア度は一なんだ……使ってみるか?」


 『Noah』ではアイテムの種類によってアイテムボックスが分けられる。中でも『秘宝』という種類はイベントに関わる重要なものが多く、レア度も高い。


 それが『Noah』での常識。


 思案の末、全員が恐る恐る頷くと黒髪の男はマウスを動かし、クリック。


「あ」


 ぼーっと眺めていた白髪の少年が、持っていたコップを滑り落とす。結果、薄まった白濁液は盛大にPCを汚した。


「ねこねこォォォォ‼」


「ワザとじゃないもん! ゼウスがノロノロしてるから眠気が来たんだよ!」


「二人ともケンカはやめろよ! ロイオもぼーっとしてないで止めろ!」


「いや、山田さん、みなさん……なんかパソコンが光ってるんですが?」


「「「は?」」」


 茶髪の青年――ロイオの一言に疑問符を浮かべる三人。

 全員、顔を見合わせて、異質な状態となったパソコンに目をやる。


 その瞬間、白い液体が滴るパソコンの白い光に吸い込まれる。



「「「「え、ちょ、ま――」」」」



 光が消えると薄暗い部屋に残ったのは、びちょびちょのパソコンとスリープ状態となったパソコンたちだけだった。


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