008
「……なるほど。それで橋本組か。」
鴨居は自分が今追っている一件について、ミスフォンファに説明をした。
自分が目を付けている組織、人物、状況、行動…全てを話終えると、ミスフォンファは口をつけていたティーカップをソーサーの上に置いた。
「それで、その情報を提供する相手が橋本組に対抗心を抱く葛原組……ようやく奴らも重い腰を上げたようだな。」
「葛原組は今回、本気で橋本組を潰す気のようです。」
「そのようだな…けど良いのかい?お前がその裏金情報を葛原組に売れば、橋本組に目を付けられるのも時間の問題だろうに。」
ミスフォンファの言葉に、鴨居は少し視線を落とす。
「…”後先ばかり考えては、売れる物も売れやしない”…。」
「…?」
「うちの社長の受け売りです。情報屋は敵を作って当たり前…だからと言って、尻窄みしてたら情報屋として成り立たないだろう、と…。」
「…尻の青い餓鬼がよく言う……が、まさにその通りだな。」
少し目を細め、ミスフォンファは口端を吊り上げた。
「……いいだろう。遥々香港まで足を運んでくれたんだ、一つだけ情報を売ってやる。」
「…! ほ、本当ですか!?」
話を聞くだけ…そう言っていた彼女の口から思いがけない言葉を聞き、鴨居は驚きのあまり少し前屈みになった。
「金の流れる先は…城島 隆俊。」
「じ、城島…!?あの、国会議員の!?」
鴨居は思わず、息を呑んだ。
「私も詳しい事は知らない。なにせ、二週間前に帰省したばかりだからな。まぁ、どことどこがどう繋がっているかまでならおおよそ検討がついている。」
「…大本は、政治関係者…。」
「更に首を突っ込むのが難しくなったんじゃないか?」
「…。」
予想外と言えば予想外の情報に、正直嫌な汗が出た。
…だが…。
「…いえ、それが真実なら、首を突っ込もうが尻尾巻いて逃げようが関係ないです。」
「!…ほぉ…日本人はおかしなところで肝が据わっているな。」
ミスフォンファは、少し呆れたと言ったような顔をした。
「…正直、情報を提供して下さるとは思っていませんでした…本当に、感謝します。支払いの方はどのくらい 「いいや。その必要は無い。」
「は?………っ!?」
金はいらない、そう言われたように聞こえた鴨居が首を傾げたのと同時に……なんと周りにいたミスフォンファの部下等は銃を構え始めていた。
その銃口の先は無論…ソファーに座っていた鴨居だ。
「…これは、どういう…。」
今度は予想外過ぎるこの事態に、鴨居は嫌な汗を流す。
対するミスフォンファは、冷たい視線を彼に向けながら不気味な笑みを浮かべた。
「それ相応の覚悟をしてここに来たようだが…やはり甘いな、鴨居坊や。それとも、私を信じてくれたのかい?」
「…。」
「…生憎、私等はねちっこくてね…2年前、お前達がヘマをしてくれたおかげでうちの経営はしばらく右肩下がりだった。最近になってようやく持ち直してきたけどね…本当に面倒な事をしてくれたよ。」
「…それは…。」
…いや、解っていたはずだ。
そう簡単に許される訳が無い…解っていたはずなのに…油断をした。
鴨居は、本気でまずいと思った。
こちらは無論丸腰。
下手に動いたら確実に…やられる。
「敵を作って当たり前…立派な心構えだ。だが、そんな言葉を掲げて無謀な行動をするのは賢くないな…私のバックに何が控えているのかも、わかっているはずだ。」
「……。」
「…さて、どうしてやろうか鴨居坊や。私が腹を立てているのは主にお前の所の社長な訳だが…。」
「……………手を…出すな…。」
「ん?」
暫く俯いていた鴨居は、少し震えた声で言葉を絞り出し、ゆっくりと顔を上げた。
「…社長には、手を出すな…他の連中にもだっ…。」
「…!」
思いがけない鴨居の表情と一言に、ミスフォンファは目を見開いた。
少し間を置き、ミスフォンファが再び口を開こうとした瞬間…事務所の扉からノックが聞こえてきた。
部屋にいた人間全員が、一斉に扉の方に目を向ける。
「……是什么(何だ)?」
少し低い声音でそう発したミスフォンファの言葉に、扉の向こう側にいる部下が返事をする。
「在话中对不起。对老板是客人(お話中申し訳ありません。ボスに客人です)。」
「…客?」
そう告げた部下は、ゆっくりと扉を開けた。
そこに立っていたのは、事務所の前にいた見張り役の男、そして…その隣にはもう一人男が立っていた。
黒い革ジャンを羽織り、サングラスを掛けた日本人男性…。
「……な!?ど、どうして…!」
その人物を目にした瞬間、鴨居は酷く顔を引き攣らせ、顔面を真っ青にした。
サングラスの男…”乾 幸甫”は、後頭部を掻きながら何とも胡散臭い笑顔で頭を下げた。
「すんませんジジの姐さん。ここにウチの馬鹿餓鬼…いらっしゃいますよね?」
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