07 近藤順平



 近藤順平。


 どこにでも良そうな名前の俺は、おそらく一生何かの主人公にはなれないんだろう。


 目をひくような特技があるわけでもない俺は、幼馴染の女の子一人すら幸せにできないのだから。


 そんな俺は、今日時都とともに、美術館を訪れていた。


 ものすごく興味があったというわけじゃない。

 

 遊ぶものとか時間を潰すものには特にこだわらないタチだから、二つ返事で了承したんだったか。


 時都という女の子は、幼い頃から孤独な奴だった。


 一緒にいても、どこか、別の世界にいるみたいなそんな人間で、俺は彼女のことを理解しきれない。


 いつも気に掛けているけど、俺の言葉なんて届きやしないのだと思っている。


 それでも、時都と関わり続けるのはどういう事なのだろうか。


 俺は自分の事もきちんと理解できないけど、たまに繋ぐ手を離したくないと思う程には、大切に思っているんじゃないだろうか。

 

 転んだら元気を出してほしいと思うし、泣いていたら涙を拭いてやりたい。


 彼女はよく、そういうことがあるから。


 今日はそんな時都と久しぶりに出かけたけれど、彼女が目の前でいなくなってしまった。


 月の綺麗な夜。


 そんなタイトルの画を見ていた彼女が。


 俺は慌てた。


 普通じゃないことが起きたときに、普通の俺にできることなんて、ないに等しいだろう。


 だって、実際に何も思い浮かばなかったから。


 一般人である俺にできる事なんて、なにがあるだろうか。


 彼女がどこかに行っているだけだと思って、美術館の中を探し回ったけど、やっぱりだめだった。


 月城白亜。

 水城友理奈。


 彼らがやってきてくれなかったら、俺は延々と美術館の中を走り回る不審者になっていたかもしれない。


 とりあえず、月城さんや水城さんには感謝しなければならない。


 でも、こんな緊急事態でも、月並みな言葉で「ありがとう」のたった一言しか出てこないのがもどかしい。


 それにしても、この画。


 なんかさっきとは違うような気がする。


 こんな女の子なんて書かれていただろうか。




 もどかしい思い出見つめていたらその場に高坂先輩まで現れた。


 彼女は有名人だ。


 こういっちゃわるいけど、時都と接点があるように見えない。


 けれど時都先輩は俺たちに力を貸してくれるという。


 彼女はなにかのじゅもんを唱えたとたん。


 周囲から人がいなくなってしまった。


 何かに吸い寄せられるようにその場から去っていき、しかも監視カメラを靄が包んだ。


 それだけでも驚きなのに、絵画が水面みたいに揺らいで、そこに月城さんが手を突っ込んだから驚いた。


 ぶつかるはずの紙の面はなくて、まるでどこか別の場所に繋がっているように見える。


 俺を手招きして呼んだ月城さんは、言葉少なに俺の手を掴んで、画の中につっこませる。


 水城先輩が「あっ」と言ったのを他人事の様に聞きながら、俺は思った。


 この先輩、割と滅茶苦茶だなと。


 もっと他に考えることあるはずだけど。


 俺自身の思考もどうやら、立て続けにいろんなことが起きたせいで、ショートしているかもしれない。


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