12 この世界は
冬の寒さが身に染みる。
温かい缶コーヒーかカイロくらい、ポケットに忍ばせておけばよかったと後悔し始める頃。
待ちくたびれすぎて手がかじかんできたその頃に。
事態が動く。
家の中から物音が聞こえてきた。
誰かが何かを落としたとか、ぶつかったとかそう言う音じゃない。
明らかに意図的に引き起こされた物音。
明確な意思を持って何かを壊してるような、そんな音だった。
「っ!」
その場を動きかけて、僕は姿勢を戻す
まだだ。
まだ。
電話は来ない。
握りしめた手が震えるのは寒さからだ。
そう思いたい。
音がする。
音がする。
音がする。
駄目だった。
決めていたのに。
僕が僕の為に。
過去の過ちを繰り返さないために敷いたルール。
用意したそれを踏み越えてしまう。
僕は堪えきれなかった。
無我夢中で扉を叩いた。
ドアノブを回せば、玄関は何故か開いていた。
君が入ってから閉めてなかったみたいだ。
それが何を意味するのか……駄目だ、今は考えない。
手の中で何かが震えるけど、考えない。
何か待とうと思ってたけど、それすら考えない。
家の中に入って。
倒れてた君を見つけて。
その前にいる誰かを見つめて、僕は言った。
「――僕は、君を……助けに来たっ!」
ああ。
たったそれだけを、それだけの事をするのに。
どうしてこんなに時間がかかったのだろう。
そう、不思議に思いながら。
ここまで僕にチャンスを与えてくれた世界は、人間に意外と甘いのかもしれない。
だなんて僕は、そんないつかの僕から見れば信じられない事を考えていた。
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