なくてはならないもの  ―思い―

 うわぁ、なんて素敵なんだろう。


 君に始めて気づいたのは、高校の入学式が終わってから教室へ入った時だった。 一目惚れ、ってこういうことを言うんだ……と思ったよ。

 斜め後ろの席から、ずっと君の横顔を見ていたかった。

 でも、変な奴だと思われるのは嫌だから、意識して見ないようにしたんだ。


 不安でいっぱいだった高校生活が、スタートからいきなりテンションが上がる毎日となった。


 同じ班と言うこともあって、すぐに君とはおしゃべりができる関係になれたね。

 君に笑顔で「おはよう」って言ってもらえるのが、どれほどうれしかったか。

 

 まわりの奴らは通学途中で見かける可愛いの話でもちきりだったけれど、僕はふーんと聞き流していた。

 だって、ずっと君のことだけを見ていたから。


 だんだんと仲良くなって、一緒に帰るようになった頃。

 ごく自然に、肩を並べて君と歩いていると、それだけで僕は少し誇らしい気持ちになれた。

 本当に、君の笑顔が大好きだったんだ。


 帰りに寄り道をしてピザを食べに行ったり、本屋へ行って参考書を選んだり。

 二人で一緒にいる時間はどんどん増えていった。

 そんな僕たちを見て、まわりからも「あの二人は……」なんて言われ始めるようになっても、君は笑ってはぐらかすだけで、否定したりしなかった。

 それって……僕と同じ気持ちだって、ことだよね。


 一緒に映画を観に行った時は、意外な一面を知ってちょっと驚いたよ。

 君があんなに涙もろかったなんて。

 いつも笑顔の君だけど、泣き顔も魅力的。

 泣いていたことをからかったら、少し拗ねてたっけ。


 三年間、同じクラスだったのは五人だけ。

 その一人が君だったから、きっと神様っているんだと思った。

 これは運命なんだ、って。

 僕の隣にはいつも君がいてくれた。

 僕にとって君は大切な存在だった。


 


 あれは君のために書いたんだ。

 初めて見せたとき、「素敵な詩だね」って言ってくれた。

 あの素敵な笑顔で。


 それなのに……


 それなのに……






 卒業式が近づくにつれ、僕は心に決めていた。

 ちゃんと言葉にして君への思いを伝えよう、って。


 僕の話を聞いた後、君は泣き笑いのような顔で

「……それは……できないよ……」って。


 どうして?

 

 あんなにたくさんの時間を過ごしたじゃない……

 あんなにたくさん一緒に笑いあったじゃない……






 一日たった今も、まだ君の言葉が頭の中で渦巻いてる。

 こうして席に座って、君の背中を見つめている今も。


 「高梨、ちょっといいかな」先生が君の名を呼んだ。

















 男子校の卒業式は、何かむさ苦しい。

 女子のすすり泣く声って、卒業式を盛り上げるBGMだったんだなって気づいた。



 「おい、みんなで写真撮ろうぜ」

 卒業式が終わってから、校庭で友達が声を掛けてきた。

 「まずは、お前たちだけ二人で撮ってやるよ」

 

 君は、僕にとってなくてはならない、大切な人。


 君が立っている隣へと歩いていく。









 ポケットの中のカッターナイフを握りしめながら。





※水円 岳さん企画「どんでん返しにトライ!」への参加作品

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