玩具屋レンセイの魔法人形

馮姿華伝

プロローグ

「出ろ」

 最初に見えるのは、冷たいコンクリートだった。

 水分を多く含まざるを得なかったのか、その黒く湿ったコンクリートは天井にも広がっており、仰向けに寝た状態で見る景色は蛍光灯に群がる虫が見える程度で、どうも面白みに欠けるものだった。

「出ろ、レンセイ」

 シュッ、シュッっという汽車に似た音を出しながら、その壁と天井の光景を行ったり来たりしていた。面白味が欠けるというのなら、それを楽しもうとするのは人の特権だと言わんばかりに、彼は肩を突き出しながらシュッシュッと捻り寝て起き上がるを繰り返していた。

 彼は腹筋をしていた。

 腹筋というものの、かなりの速度で捻りながら起き上がり、捻りながら起き上がりを繰り返していた。

「出ろといっている。聞こえなかったのか?」

 まるで看守のような人が、鉄で作られたドアをトンファーで叩いた。甲高い音が寝具と机、便器と本しかない部屋を響かせる。

「今行く」

 レンセイは壁にかけてあったタオルで体を拭き、シャツを着た。そして鉄のドアを解錠し、外へと出た。

「団長がお待ちだ」

 まるで白衣のような服を着た男は、そのトンファーで彼の背を押した。レンセイは少しばかり嫌な顔をしながら、手錠をされてないだけ囚人よりマシかとまっすぐ進んだ。

「団長が俺になんの用だ」

 レンセイは訊いた。背中に突きつけられたトンファーを外し、白衣の男は羨ましそうな顔をした。

「まぁなに、悪い話ではないよ」

 レンセイは首をかしげた。

 長く大きな赤いカーペットを敷かれた廊下を渡り、男3人分の高さのある扉を開いた。

 眩しい光が、彼の眼を眩ませた。

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